まちの解体新書 名古屋コーチン発祥の地 歴史薫る工業都市

小牧駅前に設置されている名古屋コーチンのモニュメント

織田信長が初築城 まちのシンボル・小牧山

「小牧・長久手の戦い」の地として名高い小牧市。歴史ファンでなくても地名を知っている人は多いだろう。織田信長が永禄6(1563)年に清須から小牧(小牧山)に移転するため、初めて自分の手で城をつくりあげた場所と言われている。

小牧商工会議所の成瀬哲夫会頭は「小牧市は織田信長が日本初の石垣づくりの城塞と城下町をつくり、天下布武への一歩を踏み出した歴史的な価値のあるところです。小牧山はその誇れるまちのシンボル。山の頂上からの景色は格別です。晴れていれば濃尾平野や岐阜城などを見ることができ、信長の気持ちになれる気がします」と、小牧山の価値に太鼓判を押す。小牧山城から当時としては画期的な石垣が発見されたことにより、全国にみられる石垣の城や城下町のルーツという説がある。

そんな小牧市は、名古屋市の北方約15㎞、濃尾平野のほぼ中心に位置し、面積は62・81㎢である。人口は約15万4000人、世帯数は約6万5000。昭和30年に小牧町と2村が合併して愛知県で21番目の市として誕生、38年に1村を合併し現在の市域となった。

小牧市は歴史舞台のまちであると同時に、産業都市の側面も併せ持つ。内陸工業都市としての集積も大きく、製造品出荷額は1兆円を超える全国有数の規模を誇る。市内の商工業者を業種別でみると、卸・小売業、サービス業、製造業の比率が高い。全国と比較すると、製造業が約2倍で、運輸・通信業の比率も高い。その理由として商工会議所の速水昭典専務理事は「小牧市は東名高速道路、名神高速道路、中央自動車道の三大ハイウェイの結節点であること。加えて2つの国道が横断し、県営名古屋空港(西春日井郡豊山町)が隣接していることが大きいと考えられます」と、交通の便の良さを挙げる。

産業都市としては岐阜県などとともに、愛知県が平成23年に「アジアナンバー1航空宇宙産業クラスター形成特区」として指定される。小牧市はHⅡAロケットの生産拠点であり、MRJ(三菱リージョナルジェット)などの製造関連企業の誘致を進めて航空宇宙産業集積を厚くし、自動車に続く基幹産業として宇宙産業分野に力を入れる。

小牧商工会議所会頭 成瀬 哲夫 氏

3月10日が名古屋コーチンの日に

また小牧市は「名古屋コーチン発祥の地」でもある。秋田の比内地鶏、鹿児島の薩摩地鶏と並ぶ日本三大地鶏の一つ、名古屋コーチン。名古屋と名が付くものの、小牧が発祥と言われる由縁は明治15年ころにさかのぼる。

かつて尾張藩の藩士だった海部壮平と当時名古屋で養鶏業を営んでいた正秀兄弟が岐阜の地鶏と中国から輸入されたバフコーチンを小牧の地で掛け合わせて新品種を作出したもの。明治38年3月10日に、日本家禽協会から日本初の国産実用鶏として認定されている。これを記念し、3月10日を名古屋コーチンの日とすることが今年度決定した。

普段口にする鶏肉(肉用に飼育されている鶏、ブロイラー)と名古屋コーチンは鶏種をはじめ、飼育する期間や環境が全く異なる。一般的にブロイラーは短期間で肉付きを良くするため、成鶏になるまでウインドレス鶏舎の中で40~50日間餌を食べ続けさせた後に出荷される。一方、名古屋コーチンなどの地鶏の場合は1㎡あたり10羽以下で育てることと決められている。日数も120~130日、自由に動き回れる場所で飼育されるため、筋肉質で脂肪の少ない弾力のある肉になる。深いコクのある肉汁、弾力とコシの強い肉質がおいしさの秘密といえる。

また、丈夫で卵をよく産む。その上質な体から生み出される卵は一味違う。外見は全体がほんのりピンク色で、白い斑点が浮き上がった桜吹雪模様の殻。卵自体は卵白が少なく、黄身の量が多い。黄身が大きく濃厚な卵も名古屋コーチンの特徴といえる。

日本三大地鶏の一つ「名古屋コーチン」

知名度向上目指して市内取扱店舗の拡大へ

商工会議所は、地域資源である名古屋コーチンによる事業者支援、観光振興を図るプロジェクトを組織。普及啓もうと事業化を目指して5年前から注力し、小牧発祥の名古屋コーチンのPRと食のブランド化を推進している。

このプロジェクトの委員長を務める、デリカ食品工業の廣野友巳代表取締役社長は、小牧市で30年近く鶏肉などの食品加工・製造に携わっている。「名古屋コーチンの肉質はほかと比べ物になりません。にじみ出るダシ、肉汁がたまらなくおいしい」と、名古屋コーチン一押しだ。

だが、発祥の地でありながら、名古屋コーチンが必ずしも十分に流通していない現状がある。どこのスーパーでも気軽に手に入るわけでもないし、食べられる飲食店も限られている。そこで、市内飲食店が取り組みやすく、消費者が気軽に食べられるようにと「名古屋コーチンシュウマイ」をプロジェクトで開発。各店舗へ供給するとともに、飲食店コンサルタントを派遣し調理方法や価格設定などをアドバイスした。

さらに、この小牧市(尾張地方)では、名古屋コーチンを使った「ひきずり鍋」というすき焼きがあり、お祭りやお正月など家族・親戚が集まった時のごちそうとしていたという食文化がある。この伝統的な料理を伝承する取扱店舗の増加も目指している。

このように、名古屋コーチンの肉、卵を使用したメニューや商品を展開したプロジェクト加盟店は、立ち上げ当時の15社から現在は28社にまで増えた。小牧市が名古屋コーチンの発祥地として認知されるよう、さらなる取扱店舗の拡大に取り組んでいる。

小牧市への愛知県種鶏場移転もほぼ決まり、名古屋コーチンへの関心も高まりつつある。名古屋コーチン記念日の創設が追い風になるかもしれない。商工会議所としても、記念日にあわせて飲食店などを巻き込みながらイベントを展開し、より気運を盛り上げていきたいとしている。「名古屋コーチンは地元の自慢の味。市民にも愛され、地域外の人たちにもっと認知されるよう引き続き取り組みます。取り扱う事業者を増やすとともに、付随するサービスも充実させていきたい」と廣野委員長は意気込む。

小牧商工会議所の観光事業委員会名古屋コーチンプロジェクト委員長の廣野友巳氏(右)と中小企業相談所経営支援二課次長の三輪洋一郎氏

個社支援と面的支援で企業、地域を元気に

商工会議所は「活力に富む地域経済の発展に向けて」をスローガンに、小規模事業者をはじめ頑張る企業を応援する「個社支援」と地域全体を元気にするための「面的支援」の両面で推進している。当面の重点課題として、中小・小規模企業の経営力向上支援、新たな産業振興の推進、地域活性化・ふれあい交流活動の展開、組織強化と人材育成の推進の4つを柱に取り組んでいる。

名古屋コーチンプロジェクトのほか、商工会議所の特色ある事業をいくつか紹介する。一つは、小牧市と連携して実施している「こまきプレミアム商品券発行推進事業」。地域限定商品券の発行事業推進プロジェクトを立ち上げ、市民生活や中小商店の支援、地域活性化を目的にプレミアム商品券を23年から年間10億円販売している。プレミアム10%を付けた商品券を1万円で販売し(1万1000円分)、全ての加盟店で使用できる共通券(5000円)と中小商店などの加盟店で使える専用券(6000円)に分けて、中小の商業者で利用できる比率を高くするなど工夫している。28年11月現在で653店舗が加盟店となり、プレミアムなしの贈答用商品券も含めて流通総額は11億2000万円となっている。

「個社支援」の一つとしては、今年度、商工会議所創立30周年記念事業として「起業者助成制度」を創設した。商工会議所から返済不要で一件につき500万円の補助、東春信用金庫からの低利融資が一件につき500万円、信用保証協会の債務保証といった、補助金と借入金をセットにしたもの。自己資金なしで最大一件1000万円の助成を受けられる。アイデアと地域に特化した特徴ある事業を募集し、商工会議所の会員有志14人で出資・起業した「小牧みやげ本舗」と「沖縄料理と島唄のお店 みつぼし」の二件を採択した。二社は28年10月、11月にそれぞれ事業をスタートさせている。

小牧PRのために小牧商工会議所女性会の会員有志で結成された太鼓同好会「吉乃(きつの)」

地域振興には市民全員が「観光大使」

「小牧市はものづくりが盛んな地域で、自治体は製造業などからの税収を享受してきました。でも、人口が減少していくのを考えれば、より観光にも力を入れていくべきだと思います」と語る成瀬会頭。

観光振興を重要視する商工会議所の要望が実り、小牧市は28年、観光振興基本計画を策定した。交流人口を増やすため、小牧山、名古屋コーチン、航空宇宙産業の3つを重点テーマとする。具体的には観光ルート・ツアー商品の開発やイベント・プロモーションの展開などを施策として掲げる。

小牧市観光協会の山内均常務理事は「25年は小牧山城の築城450年という節目の年でした。これにあわせてさまざまな記念事業が行われたことで、市民が郷土に対する愛着や歴史を再認識するよいきっかけになりました」と振り返る。

市内には、天下の奇祭〝豊年祭〟で知られる「田縣(たがた)神社」や全国から多くの人が安産祈願に訪れる「間々(まま)観音」をはじめとする神社仏閣や「メナード美術館」など、観光名所が多数存在している。田縣神社の粟田孝浩宮司は地元の念願がかなって28年3月に「豊年祭の御輿行列」が市の無形文化財に指定されたことを喜ぶ。「SNSを通じ外国人観光客も年々増加しています。国内のみならず、インバウンドでも人気のあるスポットであり続けたい」と抱負を語る。

個々の観光資源を磨くのはもちろんのこと、それぞれを有機的に結ぶことで魅力は増すし、滞在時間の延長にもつながる。地域内の資源、関係各所が協働するとともに、域外とも組むのが小牧流だ。県営名古屋空港を利用するFDA(フジドリームエアラインズ)9路線発着の都市がある商工会議所を訪問し、いかに連携するか探っている。

「市民が全員『観光大使』になるくらいの心意気で、観光振興に取り組んでいかなければならない」(成瀬会頭)

工業を基盤に地元産業が成り立っている小牧市に、観光の要素がプラスされ、さらにパワーアップする。未来へ歴史薫るまちはさらに進化していくことだろう。

五穀豊穣・万物の育成の神である玉姫命が祭られている「田縣神社」

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