アジアの風〜ビジネスの先を読む〜 『タンフールー』にみるトレンドKパワー

横浜・中華街には北京そのままの素朴な山査子のタンフールーが売られている

中国には山査子(さんざし)を串に4~5個刺して、飴(あめ)で固めた「糖葫芦(タンフールー)」という素朴な駄菓子がある。冬の北京や中国・東北部の街中で見かける庶民の味。個人的な話だが、北京で小学校に入学した娘は大人になった今も懐かしがって、横浜・中華街の馴染みの店で買い求めるほどだ。

だが、今、タンフールーと言えば、イチゴを飴でコーティングしたおしゃれなお菓子として原宿や青山で売られているものだ。また、インスタグラムやYouTubeで著名人が手作り作品を紹介したり、キウイやミニトマトなど他の材料を使ったアレンジ・レシピも広まったりしている先端的なスイーツ。透明な飴を透かしてフルーツの鮮やかな色が浮かび、飴で造形もできる典型的なインスタ映えスイーツ。「ポスト・タピオカ」のブームといっていい。かつて中国の出稼ぎ農民が自転車の屋台でつくり、裸電球に照らされていた駄菓子の大変身の秘密は何か?

カギを握るのは韓国だ。Kポップのアイドル・グループが何かのきっかけで、中国のタンフールーを知り、イチゴを使ったお菓子にアレンジ。インスタで紹介するとたちまち大ブームとなった。ソウルでは「タンフル」と簡潔に発音する。韓国の若者は流行感応度ではアジア随一。明洞、梨泰院などソウルの繁華街にはタンフル・ショップが林立している。それを見た日本、台湾、シンガポールに「タンフル・ブーム」が飛び火、発祥の地、中国にも“凱旋(がいせん)”することになった。

韓国の若者は既にあるアジアの他国の商品を新たな観点で捉え直し、洗練されたモノに転換し、ブームを創り出す力、いわば「トレンドKパワー」を持ち、それがアジアの人や情報の流れに乗ってアジアに拡大している。振り返れば、「台湾カステラ」ブームも韓国が起点となり、タピオカも韓国でブームとなった。韓国には「早く早く」「急いで急いで」を意味する「パリパリ」という単語があるが、新しいものをみんなで早く広める「パリパリ文化」が流行づくりにつながっているのだろう。韓国はアジアの流行のジャンピング・ボードになっている。

ただ、アカデミー賞を受賞した韓国映画『パラサイト 半地下の家族』には「パリパリ文化」の影の部分も描かれている。前後して「地下」に住む羽目に陥った2人の中年男性はともに「台湾カステラ」ブームに乗ろうとして失敗しているからだ。光と影の両面に着目して韓国が生み出すトレンドに、今後も注目していきたい。

後藤 康浩(ごとう・やすひろ) 亜細亜大学 都市創造学部教授 早稲田大学政経学部卒、豪ボンド大学MBA取得。1984年日本経済新聞社入社、国際部、産業部のほかバーレーン、ロンドン、北京などに駐在。編集委員、論説委員、アジア部長などを歴任した。2016年4月から現職。アジアの産業、マクロ経済やモノづくり、エネルギー問題などが専門

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