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アジアの風〜ビジネスの先を読む〜 バーチャル・インバウンド

国際線はもちろん国内線も閑散とした羽田空港(4月6日) 写真:著者

この連載で新型コロナウイルス感染症に最初に触れた(3月号)当初は、中国とりわけ武漢が最大の懸念だったが、今や感染者数、死亡者数などで上位に並ぶのは米国、イタリア、スペインなど米欧諸国であり、日本も深刻な事態に陥っている。

グローバルな人の動きは止まり、「インバウンド」は懐かしい響きを持つ単語になってしまった。出入国統計(速報値)によると、3月に日本を訪れた外国人は15万2000人と前年同月の250万4000人から94%減。中国からは99%減、韓国からは98%減という惨状。地方の観光地は閑散としている。

では、インバウンドで盛り上がっていた地方都市、観光地はどのような手を打ってこの苦境を打破すべきか。ひとつの手法は「バーチャル・インバウンド」である。新型コロナウイルス感染症によって世界に広がった変化の一つはインターネットを使ったテレビ会議などバーチャルなコミュニティーの形成であり、企業や官庁、学校は一気にZoomやグーグル、マイクロソフトなどが提供するテレビ会議システムの導入を進めた。私の勤務する亜細亜大学でも、前期は全てがオンライン講義となった。

こうした社会の変化は不可逆的であり、1990年代のインターネットや携帯電話の普及に匹敵する変化をもたらす。その中で台頭したEコマースが米アマゾンや中国のアリババなど特定のプラットフォーマーに集約されたのに対し、リアルタイムで人と人が顔合わせできるテレビ会議システムは、実は中小事業者にとって大きなチャンスだ。顧客ときめ細かく接するという中小ならではの力が発揮できるからだ。検索エンジンでの上位表示やインフルエンサーによる宣伝、口コミなどインターネット上の物量作戦ができなくても、商品やサービスを求める顧客一人一人と画面を通じて向き合えるきめ細やかさを打ち出せる。

観光地を訪れた外国人観光客が、たまたま立ち寄ったお店で店員とのコミュニケーションを取って商品やサービスに惹(ひ)かれていくのと同じ効果を、テレビ会議システムはバーチャルに生み出せる。観光地であれば興味を持つ人を集め、歩きながらリアルタイムでおすすめスポットの魅力を動画で示し、語るといったことも可能だ。文字だけの「口コミ」から人が登場してリアルタイムで語りかける“顔コミ”に転換することで日本の中小企業、地方は新たな飛躍の機会を得られるだろう。

(4月15日執筆)

後藤 康浩(ごとう・やすひろ) 亜細亜大学 都市創造学部教授 早稲田大学政経学部卒、豪ボンド大学MBA取得。1984年日本経済新聞社入社、国際部、産業部のほかバーレーン、ロンドン、北京などに駐在。編集委員、論説委員、アジア部長などを歴任した。2016年4月から現職。アジアの産業、マクロ経済やモノづくり、エネルギー問題などが専門

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