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テーマ別誌上セミナー 創刊40周年記念特集 激動の日本経済40年を振り返り、10年先を読む 進化する中小企業

提言3 次の10年を生き抜くために 若年層に響く商品開発こそが中小企業が生き残る道

原田 曜平(はらだ・ようへい)/マーケティングアナリスト

はらだ・ようへい 1977年、東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂に入社。博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーを務める。2018年12月よりマーケティングアナリストとして、若者研究とメディア研究を主軸に、次世代に関わるさまざまな研究に取り組む。「伊達マスク」「さとり世代」「マイルドヤンキー」「女子力男子」など広めた流行語は数多く、著書も『ヤンキー経済』(幻冬舎)、『さとり世代』『平成トレンド史』(ともに角川書店)など多数

マーケティングアナリストの原田曜平さんは、若者研究の第一人者として「さとり世代」「マイルドヤンキー」など、若者の姿を端的に表現した流行語を数多く生み出してきた。そんな原田さんが「少子高齢時代こそ中小企業にチャンスあり」と説き、ヒット商品の鍵は〝若年層〟が握っているという。過去のヒット商品から次の10年へ。その動向に迫った。

日産から発売された初代シーマ(Y31型)の生産期間は1988〜91年の約3年半だが、バブル時代を象徴する高級車としての存在感は今なお鮮明だ(画像提供:日産自動車)

バブル時代を象徴する輝かしきヒット商品

原田曜平さんに1980〜2020年までの40年間で印象に残っているヒット商品を尋ねると、「あり過ぎて困る」と苦笑しながらも、次のように語ってくれた。

「まずこの40年を僕なりに大きく三つの期間に分けてみました。80年代〜90年までをバブル期、その後の失われた20年をデフレ期、今に至るアベノミクス期。それぞれを第1期、第2期、第3期としましょう。第1期はとにかくゴージャスで、海外がグッと近づいた時代。商品は高いものから売れていきました。それを代表するのが、日産のシーマです。高級車ですが飛ぶように売れ、シーマ現象という社会現象を生み出したほどです」

88年に発売されたシーマは、日産のハイエンドモデルで500万円を超える高級車だ。それが初年度だけで約3万6000台、3年半で約13万台売れた。その購入理由のトップが「一番値段が高かったから」というから驚きだ。また、85年のプラザ合意後の急激な円高が追い風となって、第3次海外旅行ブームも巻き起こった。

「パスポートサイズのビデオカメラ、ソニーのハンディカム®ビデオカメラも話題になりました。当時トレンディードラマで大人気だった浅野温子さんを起用したテレビCMは、『発売をお楽しみに』と言って商品を見せない予告CMという斬新な手法が注目され、予約が殺到。夏休み商戦直前の発売、海外旅行ブーム、トレンディー俳優の起用、そして発売前に人気をあおる手法が功を奏し、2日間で5万台売れ、3カ月間生産が追いつかない大ヒット商品となりました」

どちらのヒットも、2020年現在ではまるで異国の夢物語のように聞こえる。

ブランド名よりもインスタ映え重視の時代へ

「今よりメディアの選択肢がないので、広告を打ちたい企業のニーズを満たすべく雑誌もたくさん創刊されましたね。グルメブームも巻き起こって、ティラミス、ナタ・デ・ココ、イタ飯などもはやりました。それが、バブル景気が弾けた第2期になると〝安くていいもの〟へと購買意欲が移行していきます。モノは必要最低限、機能性重視の時代になり、無印良品、ユニクロ、100円ショップのダイソーなどが頭角を現します。コンビニも価格が抑えられるプライベートブランド(PB)商品が増え始め、車も高級車から一転、軽自動車が全体の4割を占めるまでになりました」

バブル時代の華々しいヒット商品は影を潜め、原田さんにとっても印象に残るものは特にないという。では第3期はどうか。

「第2期の景気がどん底なら、第3期は実感のないものの、回復期と捉えています。インターネットが普及し、ネットショッピング、SNSも日常化していく第3期は、17年の流行語大賞に輝いた〝インスタ映え〟が象徴するようにカフェ文化が広がっていきます。若者のブランド離れも顕著で、高級ブランドが次々とカフェを運営し始めたのも、ある意味ブランドが若年層に歩み寄っていったとも見てとれます」と分析しつつ、第3期を「小粒なヒット時代」と呼ぶ。

「14、15年のレッドブルなどのエナジードリンクブームや豆乳ブーム、17年ごろから始まったレモンサワーブームなどがありますが、ブームを牽(けん)引した商品は大企業のものばかりではありません。特に若年層のマーケティングの結果では、従来の常識、流行、ブランドにとらわれない、ある種の〝偏見〟がなくなっていることが分かりました。有名ブランドじゃないとダメ、日本製じゃないとダメというこだわりは年齢が上がるほど強いのですが、若者にはこれがない。つまり、中小企業でも若者の心をつかむ商品を開発すればヒットしやすい時代であるといえます。バブル期のような大ヒットさえ夢見なければ、まさにチャンスありです」と原田さん。

未来を切り開くのは若年層を狙った商品開発

あの頃の夢をもう一度とばかりに大ヒットを狙おうとすると、人口ボリュームのある世代を追いがちだが、目を向けるべきは「若年層」だと原田さんは強調する。

「国内だけ見れば、少子高齢化でパイは小さいように見えますが、しかし、世界の若者人口(15〜29歳)の60%をアジア圏が占めています。SNSによってボーダーレス化が進む今、バズれば国境を超えて広がるチャンスもあります。拡散のスピードが速いので、このスピード感に対応できるのは大企業よりも中小企業です。先ほどインスタ映えの話をしましたが、インスタ映えする画像を毎日見ている若者たちは審美眼が養われており、ビジュアル重視、主役意識が高い傾向にあります。機能性が良いだけでははやりません。スピードとビジュアル、この二つはこれからの10年の必須条件になっていくと思います」

それにはまず「若者はこういうもの」といった先入観を払拭(ふっしょく)し、マーケティングをしっかり行って、若者たちの実態を把握することが大事だという。

「たとえば若者はコンビニをよく利用するというイメージがあるかもしれませんが、今は50代が主流なんです。なぜなら、コンビニ商品にインスタ映えする商品が少ないから。リサーチ力とPR力は中小企業の弱い点ですが、外部のコンサルを入れてでも強化して、小粒なヒットをコンスタントに狙っていく。それをやるかやらないかで大きな差がつきます」

コロナウイルスのまん延による大恐慌下にある今、今までの〝定石〟は通用しなくなっている。その状況を踏まえて原田さんは言う。

「25年に団塊の世代が超高齢化するときが、大きなターニングポイントです。過去の40年間は高齢化が進み、固定客をつかめば長期間経営が安泰だったかもしれません。老舗企業には三世代ご贔屓(ひいき)にしてくれた顧客も多いでしょう。しかし、次世代を担う若者を意識した商品開発をせずに、未来があるのかどうか。国内の若者人口はこの40年で約700万人減っていますが、大企業と同じように人口ボリュームのある世代をターゲットにするのではなく、若年層に響く商品開発こそが中小企業の生き残る道です。中小企業の強みを生かして、ぜひともチャンスをつかんでほしいですね」

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