提言4 社会の構造変化に対応せよ 今後10年、中小企業が取り組むべきこと
河合 雅司(かわい・まさし)/人口減少対策総合研究所理事長/作家・ジャーナリスト
これからの人口減による社会構造の変化に、コロナ禍が加わり中小企業はどのような影響を受けるのか、それに対して経営者はどう対処していくべきなのか。10年先を見据えて中小企業の経営者が取り組んでいくべきことについて、未来の日本の姿を克明に描いてベストセラーとなった『未来の年表』の著者で、ジャーナリストの河合雅司さんに語っていただいた。
ビジネスモデルの転換が「コロナ後」に求められる
新型コロナウイルスのまん延で世界経済は深く傷つきました。その再建にはかなりの年数がかかると予想されます。しかし日本は、他国と同じような政策展開をしていても回復しません。人口の急減期と重なるためです。働き手世代は1995年をピークに減っており、人手不足が続きます。一方、国内マーケットは急速に縮むだけでなく、消費者が高齢化していきます。こうした変化を織り込んでビジネスモデルを早急に転換していかないと、「コロナ後」は日本企業だけが取り残されるでしょう。
進む労働者不足と高齢化にいかに対応していくか
少子化により若い社員の採用が難しくなり、それまで新入社員が担ってきた仕事を中堅社員がやるようになると、仕事に対する意欲が下がります。また、社員が独身の若い時期は賃金を抑え、家族が増える中年以降に分厚く配分するという、終身雇用で一つの会社にいることが前提の賃金モデルが崩れていきます。コロナ後は雇用の流動化が進むとみられ、若い人ほど辞めてしまうかもしれません。それでは、新たな発想が生まれることもなくなり、開発や仕事の進め方のマンネリ化につながります。
それを防ぐためには、当たり前のことですが、年功序列の維持はもう困難なので、企業のミッションに応えて成果を出せた人への給料が高くなる仕組みに変えていくことです。また、若い人の力が必要な部分は、他社との業務提携やアウトソーシングで補っていく。それにより生産性を上げていくことが重要になってきます。
休廃業・解散する企業は増え続けており、東京商工リサーチの「『休廃業・解散企業』動向調査」によると、2019年に休廃業・解散した企業の件数は4万3348件。その約4割が70代の経営者で、60代以上で見ると8割を超えています。しかも、その半分近くが黒字廃業で、経営者の高齢化が廃業の主な理由になっています。
黒字なのに廃業してしまうと、技術や販売ルートなど、その企業を黒字たらしめていたノウハウが霧散してしまいます。技術力の高い年配の従業員は会社がなくなったら自分も引退してしまう可能性が大きく、それでは日本の高い技術力が引き継がれません。若い人が、転職したくても日本にはその受け皿が少なく、海外の企業に転職したりすれば、技術力が海外に流出することになります。
経営者高齢化と後継者不足に早い段階から準備を
この問題に対して経営者は、会社の先行きを誰に託すかの準備を早い段階で行うことが非常に大事になります。親族に後継者がいないのなら、M&Aを行って、企業そのものを存続させる手立てを講じる必要があります。会社の全てを手放すことができないのであれば、一部の事業だけ分割してM&Aを行うということでも構いません。100かゼロかというところに追い込まれる前に、準備をしていくべきです。
小さい規模でも独自の技術を持つのが日本の中小企業の特徴ですが、その技術とマーケットを一度棚卸しして、今までやってきたことをそのまま続けていくだけでいいのか見直す必要があります。例えば福井県の鯖江でメガネを生産している企業が、医療分野のニーズを捉え、自社の高い技術を転用して医療機器の分野に参入して成功した例もあります。
伝統工芸では、これまで伝わってきた技術に新たな付加価値を加えて、新しいマーケットを取り込んでいった例もあります。例えば、兵庫県の播州織などは、着物文化の衰退により日本では売れなくなってしまいましたが、製品を現代風にアレンジして新しいデザインを付加したことで、東南アジアで飛躍的に売り上げを伸ばしたりしています。
新たに若い人が入ってこない中、今持っている技術と人材で他分野に参入できないか、付加価値を加えて新たなマーケットを開拓できないかという、両面での棚卸しをすることが、コロナ後を生き残るために重要なことだと思います。
‶戦略的に縮む〟ことが日本の企業の生き残る道
人口減も少子高齢化も避けられない状況の中で、これからの日本の社会で求められるのは‶戦略的に縮む〟ことだと思っています。これは薄利多売、拡大路線だったこれまでのビジネスモデルから大転換して、少量生産で付加価値の高いものをどうつくっていくか、ヨーロッパの高級ブランド品のようなものをつくり出していくためには何をするかということです。
そのためには、自社で何ができるかを考え、何をしたら高く買ってもらえるのかについてマーケットと対話していくしかありません。ヨーロッパのブランドは常に顧客を仲間に入れて意見を聞き、それに応えていく技術を開発していきます。だから評価されるし、いつの時代になっても廃れずに評価されるのです。日本の中小企業も原点に立ち戻り、顧客中心のモノづくりをしていくことで、少人数の少量生産で利益が出るビジネスモデルに転換していくことです。薄利多売のビジネスは大都市圏のほうが有利でしたが、たくさん売らなくてももうかる仕組みがあれば、都市の人口規模は関係ありません。大組織より、むしろ小回りの利く企業のほうが有利です。コロナ禍で消費が縮んだ今こそ転換のチャンスでもあります。
成功の確率は、変化が大きい時代の方が高いです。平時は、既存の組織構造の中で自分のポジションから脱却するのは難しいですが、今は自身の才覚で切り開けるからです。もしコロナ禍がなかったとしても、人口減や少子高齢化は進みました。その変化を読む力さえ身に付ければ、量的な成功はしないかもしれませんが、質的な成功を収めることはできます。しかもこれは、地方の中小企業の方が圧倒的にやりやすい。この激動の時代に経営者でいられることの幸運を、ぜひ生かしていただければと思います。
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