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テーマ別企業事例 地産食材で人を呼び込め! 新グルメで地域が活性化する

事例3 ブイヤベースで震災後の水産業活性化を

八戸ハマリレーションプロジェクト(青森県八戸市)

東日本大震災により大きな被害を受けた青森県八戸市の水産業を「元気にしたい!」という思いから始まった冬のイベント「八戸ブイヤベースフェスタ」。経済効果を主目的とした食によるまちおこしとは趣旨が異なるが、市民に八戸の魚の魅力を再認識させ「世界で一番地元の魚を愛する街、八戸!」の実現に貢献している。

食材の選択、味付けは各シェフの載量。写真は八戸プラザホテルのレストラン・ジュノーのブイヤベース。自家農園で育てたハーブ・フェンネルを使う

地域の若い世代が 八戸の魚を知らなかった

「自分に何ができるのだろう」

水産加工会社「八戸缶詰」の本社で企画の仕事に携わる古川(こがわ)篤さんは、大半の社員が東日本大震災からの復旧作業に追われる中で自問していた。社命として本社に詰めて復旧の状況をまとめる仕事は重要だが、三陸地方の水産業全体が落ち込む中で、会社の枠を越えた活動を行うべきではないかと考えていたのである。そこで社長に直訴し会社の枠を越えた活動を認めてもらうと、まず同業者の武輪水産など水産関係の企業・団体を回って賛同者を募る。30代の同世代を中心に6人のメンバーで八戸ハマリレーションプロジェクト(HHRP)という活動母体をつくった。「最初は物販・催事の企画を考えていたのですが、話し合ううちに八戸の水産品の価値を高めることを目的としたブランディング活動へシフトしていきまし た」と古川さんは当時を振り返る。

震災からおよそ3カ月後の平成23年6月半ばから予算ゼロの手探りでの活動が始まり、魚離れが進んでいると言われる地元の20代〜40代の主婦層と子どもたちをターゲットに、親子向けの料理教室などを開催しながら生の声を集めた。すると意外なことが明らかになった。実は若い主婦層も子どもも8割が魚好きで、週3回は食べている。決して魚離れなどではなかった。

「ただ八戸の魚は何かと聞くと、特産のイカとサバはすぐに挙がるものの、それ以外の名前が出てこない。魚料理は何かと聞くとマグロの刺し身、サーモンの寿司、ホッケの塩焼き。どれも八戸で取れる魚ではないのです。魚は好きだが、八戸の魚との接点が薄いことが分かった。そこで選んだ料理がブイヤベースでした」

フランスのマルセイユ発祥のブイヤベースは、多種の魚介を煮込むことで味が深まる料理である。一方、八戸の港では、イカやサバ以外に、少量ながら600種類もの魚介が水揚げされる。そのことは弘前市生まれで県外で仕事をしてきた古川さんも知らなかったし、市民にもほとんど知られていない。だからブイヤベースが市民と八戸の魚との接点になると考えた。

洋食店を飛び込みで訪問して理解を得る

「八戸ブイヤベースフェスタ」の本格的な構想は11、12月ごろから始まり、古川さんはメンバーとともに市内の洋食店を回り、協力と参加を求めた。

「和食や割烹(かっぽう)が盛んな土地柄なので、洋食店は数が少ないわけではないが目立たず、イベントに参加する機会もほとんどなかった。そのため趣旨を説明すると、飲食関係や商工団体でもない私たちに驚くのと同時に面白がってもらえました。そのときにお願いしたルールは2つだけ。八戸港に水揚げされる魚介類を最低4種類以上使い、野菜も地元産のものをできるだけ用いること。最初は八戸の魚介類のおいしさをそのまま味わってもらい、最後にスープを生かした各店オリジナルの締めの一皿を用意することです。それ以外のこと(味、値段、提供方法など)は自由にして知恵を絞ってもらいました」

短い準備期間だったが、ホテル内のレストランや個人経営の洋食店12店による「八戸ブイヤベースフェスタ2012」が24年2月から1カ月半の日程で始まり、総計5000食を売り上げた。コース料理もあるため3000〜3500円と手軽な値段ではないが、週末はどの店も満席になった。客の8割は八戸圏から集まり、1割が県内他地域、1割が他県という比率。アンケートでは「ブイヤベースをきっかけに市内の食を巡る楽しみを知った」というような好意的な声が集まった。

1回目の大成功を受けて市の地域観光交流施設である「八戸ポータルミュージアムはっち」からの誘いに応じ、7月に短期イベント「七夕にブイヤベース? 2日限りのブイヤベース!」を開催した。こちらも好評で、現在は「夏のブイヤベースinはっち」として毎夏2日間だけ開催されている。

豊かな地元食材で 美食のまちを全国へ発信

2回目となる25年は参加店を増やし県外にPRするなど、情報発信の仕方を少しずつ変えた。28年の5回目開催の前には、首都圏へのPRを目的とした「プレオープン賞味会」を市と協力して東京・目黒区のレストランで開いた。

「1回目から5回目まで毎年1000食ずつ増えていて、5回目は15店で9500食を売りました。8対1対1の比率は変わらず、半数がリピーター、半数が新規のお客さまですね」(古川さん)

参加店は公募ではなく、HHRPが実際に足を運んで選んでいる。今年は新たに「フェスタに参加することで成長したい」という「農風Kitchen YuI」の根市拓実さんが参加した。HHRPと根市さんとは以前から交流があったが、ひと世代若いシェフということもあって、数年間の交流期間を経て互いの「思い」を高めていった。それがようやく実現した。フェスタは八戸料理界の底上げにも貢献している。

八戸ブイヤベースを地元の人の祭りとして続ける一方、古川さんは今後「美食のまち八戸」を県外の人に知ってもらう活動にも力を入れたいという。「八戸は食資源が豊かで魚はもちろん肉、野菜もおいしい。八戸で多彩な食体験ができるような仕掛けを考えたい」

震災復興から始まった手づくりのプロジェクトは冬の八戸を代表するイベントに成長、その先に八戸の食を全国に知らしめる方策が見えてきた。

※月刊石垣2016年9月号に掲載された記事です。

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