事例2 「三次唐麺焼」で、熱く、楽しく、まちおこし!
三次商工会議所青年部(広島県三次市)
地元で製造された特製ソースと唐麺でつくる「三次唐麺焼(みよしからめんやき)」。まちに人を呼ぼうと、三次商工会議所青年部が中心となって生み出したご当地メニューだ。メンバーや支援者の熱い思いをのせた活動により、市、県、全国へと着実に知名度をアップ。今や押しも押されもせぬ地元グルメとして、地域の顔となりつつある。
ここにしかない〝お好みそば〟をご当地メニューに
水で溶いた小麦粉の中に、刻んだ具材を混ぜてから焼くのがお好み焼のスタンダードとするなら、広島では少し違う。薄く焼いた生地に、キャベツ、もやし、青ネギ、豚バラ肉などをのせ、そこへ別に焼いたそばと卵を重ね合わせるのが広島風。さらに地域によっても、具材や味付け、焼き方などに特徴がある。県北に位置する三次市では、10年ほど前から、そばに唐辛子を練りこんだ「唐麺」を使ったお好み焼が登場し始めた。徐々に人気を集め、今では市内のお好み焼店の7〜8割が採用するほどポピュラーなメニューとなった。それが「三次唐麺焼」である。唐麺を製造販売する江草商店社長で、三次商工会議所青年部副会長を務める江草大地さんは、その誕生秘話となる平成24年9月のあるエピソードを話してくれた。
「青年部の役員会が終わった後、広報委員4人でなじみの鉄板屋に寄ったんです。広報委員長がいつものように『お好みそば、肉玉、麺は唐麺で』と注文したら、メンバーの1人がお好みそばに唐麺があることを知らなくて。驚いて説明したところ、これに簡潔な名前を付けて、大々的にPRしようと言い始めたんです」
その場の思い付きと思いきや、2日後、本当に企画書を書き上げてきた。そこには、県外の人で「三次」を「みよし」と読める人は少ない。そこで三次を冠したご当地メニューをつくってPRし、まちの知名度を高めて多くの人に足を運んでもらおうという趣旨が書かれていた。その企画が役員会で承認されたのを受け、早速行動を開始する。市内のお好み焼全店にアンケートを取って実態調査を行ったり、メニューの名前を考えたりした。年末には「三次唐麺焼」と決まり、その定義を広島風お好み焼であること、毛利醸造のカープソース辛口を使うこと、江草商店の唐麺を使うことと決め、正式にプロジェクトを発足させた。
市、県、全国と順を追って徐々に露出を高める
まずは地元で周知しようと、市内のお好み焼店向けに説明会を開き、加盟店への参加を呼び掛けた。毎年4月に開催される三次さくら祭をお披露目の場と決め、販促用のぼり旗やTシャツづくりも進めた。
「さくら祭では1日に約200食を想定して用意しましたが、昼には完売してしまいました。事前に告知していたとはいえ、販売開始前から行列ができ、口々においしいと言ってもらえたときは、うれしかったですね」
想像以上の結果に、次の目標を「広島てっぱんグランプリ」に定めた。これは広島一のご当地お好み焼を人気投票で決めるイベントで、県内各地から味自慢が集う。ここで県全域に認知度を高めようと考えたのだ。しかし、優勝するには味だけでなく、数多くつくるスピードも求められる。そこでメンバーは仕事が終わったあとに集合し、焼く練習に明け暮れた。協賛する毛利醸造や加盟店の協力もあり、準優勝を果たす。だが、それに満足せず、翌26年の大会にも参加して見事優勝を勝ち取った。こうした活動が地元のテレビ番組で紹介されたり、NHK BS放送でも取り上げられたことで、一気に注目が集まった。
「ほかにもプロ野球交流戦の時期に、マツダスタジアムで広島の選手がプロデュースするご当地グルメフェアが開催されるんですが、梵(そよぎ)英心選手が三次唐麺焼を推してくれたんです。マツスタでお好み焼を食べているのはほぼ県外の人なので、セ・パ両リーグの幅広い野球ファンに認知してもらえたんじゃないでしょうか」
こうした露出度の高い活動に加え、尾道と松江を結ぶ中国やまなみ街道が全線開通したことも手伝い、県内はもちろん、島根、鳥取、岡山、愛媛など県外からも訪れる人が増えてきた。
地域全体で活動すると多くの人を引き付ける
現在では、加盟店も東京や福岡を含む35店舗を数えるまでになった。西日本を営業地域とするコカ・コーラウエストの協力により、三次唐麺焼のラッピング広告を施した支援型自動販売機が市内各所に設置され、認知度アップに貢献している。また、メンバーたちが地元の小中学校での講演に力を注ぎ、地域を大切に思う気持ちを繰り返し訴えてきたことで、多くの子どもたちが活動を応援してくれるようになった。
こうした各方面からの後押しを受けて、地道に成果を上げてきた同プロジェクト。その秘訣は、関わる人たちが皆楽しんで取り組んできたことにありそうだ。同プロジェクトのHPにあるブログをのぞくと、メンバーたちのおどけたポーズや加盟店の人の笑顔、イベントの盛況ぶり、子どもたちの元気な姿などが、前向きなコメントと一緒にアップされている。三次唐麺焼もクセになる味だが、それ以上に地域の熱さが多くの人の心をつかんでいると感じた。
※月刊石垣2016年9月号に掲載された記事です。
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