事例1 〝日本一〟の強みを生かした ご当地グルメで観光客を呼ぶ
都城商工会議所(宮崎県都城市)
牛肉、豚肉、鶏肉のいずれも産出額日本一を誇る宮崎県都城市。その強みを生かしてまちを活性化しようと、平成23年からご当地グルメの提供を開始した(25年に「都城焼き肉三昧舟盛り御膳」にリニューアル)。これを目当てに、より多くの県外客が足を運んでくれるようにと、積極的なPR活動を展開している。
牛・豚・鶏の産出額日本一は大きなブランドになる
平成27年度上半期のふるさと納税寄付金額が全国1位となった都城市。それは、返礼品の肉と焼酎が大きな動機付けになっているといえるだろう。温暖な気候と豊かな土壌に恵まれた同市は農業や畜産業が盛んで、農林水産省が18年まで作成していた市町村別農業産出額畜産統計において、牛肉、豚肉、鶏肉の産出額がいずれも全国1位となっている。また、焼酎で全国的に有名な霧島酒造を擁すことから、近年では「肉と焼酎のまち」として大々的にPRを展開しているが、以前はそれが特別なことだとは捉えていなかった。
「今まで何度となくまちおこしの取り組みが立ち上がりましたが、どれも長続きしませんでした。それが6年ほど前、隣の日南市でご当地グルメの開発をプロデュースしたヒロ中田さんから、『牛・豚・鶏の産出額が日本一という実績はブランドになる』と指摘され、肉を最大限活用したご当地グルメをつくろうということになったんです」と都城商工会議所の経営指導員である村上昌弘さんは、地域食材によるまちおこしのきっかけを説明する。
地元の人間からは「よく焼き肉店を利用するが、『都城といえば肉、肉といえば都城』というものの、接待などで県外客を連れて行ける店がすぐ思い浮かばない」という声があがっていた。今後人口が減少し、経済規模の縮小が予想される中、このままでは発展性がない。そこで〝肉の都〟として県外から人を呼び込もうと、22年末からご当地グルメ開発プロジェクトがスタートした。
1600円以下で提供する 贅沢な焼き肉メニュー
同プロジェクトのメンバーには、市内で日本料理店を経営する天水富士雄氏をはじめ、ホテルや旅館の経営者、料理人、精肉店従業員、旅行代理店の女性スタッフなどが集結し、商工会議所が事務局となった。経営者を中心に幅広く参加を呼び掛けたのは、単にメニューをつくるだけでなく、「どうPRして認知を広げるかというマーケティングの視点が必要」というヒロ中田さんの意見をくんだものだ。
最初に取り組んだのは、ご当地グルメ開発の基準となるルールづくりだ。これはデビュー後、組織にありがちな「なれあいや妥協」を防ぐための予防線を張る役目も担っている。地場産の牛肉、豚肉、鶏肉、旬の野菜を使うことを大前提とし、参加店ごとにこだわりのタレを3種類用意する、霧島火山の新燃岳の灰を配合した七輪を使用するなどのルールが決まった。それをもとに、ご当地グルメを提供する8つの加盟店がそれぞれメニューを考案。月1回のプロジェクト会議で試食会を行って改良を重ね、ついにメニューが完成する。「都城焼き肉三昧炭火定食」の名で、23年6月29日(肉の日)に提供を開始した。
「肉や野菜の新鮮さ、ダイナミックさをアピールするために舟盛りにしたことや、副菜2品、香の物、汁物、デザートまでついて1600円(税込)以下で提供することが、最もこだわったところです。県外客がわざわざ足を延ばしてでも食べに行きたくなるような、味と価格を実現したわけです」
実際に同グルメを食した観光客は、コストパフォーマンスの高さを「ご当地ならでは」と高く評価する。一方で、同市が四方を観光地に囲まれている通過型都市であることを踏まえPR活動を開始。グルメ単体では県外からなかなか人を集められず、パッケージで地域を売り込む必要性を痛感した。
わざわざ立ち寄りたくなるまちとして売り出せ
流入人口増加を目指す着地型観光振興に向け、模索し始める。そこで同市を囲むように立地する宮崎市、日南市、霧島市、鹿児島市を訪れる団体旅行客に、次の目的地に移動する道すがら、同市に立ち寄ってご当地グルメを食べてもらおうと、各地の旅行会社や観光施設などにプランを提案して回った。また、観光商談会にも積極的に参加して、地元食材の魅力をPRした。その結果、ある旅行会社の募集ツアーの昼食に、「舟盛り御膳」を組み込んでもらうことが正式に決まった。
各店が肉の仕入れロスを減らしたり、宿泊プランにメニューを組み込むなど企業努力を行ったことで、売上を伸ばす店も出てきた。ようやく成果が見えてきた同プロジェクトだが、村上さんは今後の展望をどのように描いているのか。 「現在、市が積極的に「肉と焼酎のまち」として外貨獲得に向けたPRを積極的に展開しており、全国的にも名が知られるようになってきました。この認知度向上は着地型観光を推進していくうえで、大変ありがたいものです。今後官民の垣根を越えた包括的な動きができるように実績を積み上げていきたいです。そして、さらに推進していくためには、観光プラットフォームのような地域観光振興のベクトルを合わせる場が必要になると思います。そのためにも、今のうちから各団体の実働部隊同士の、横の連携を密にしていきたいですね」
※月刊石垣2016年9月号に掲載された記事です。
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