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真壁昭夫の経済底流を読み解く 予想外のGDPマイナスの波紋 政府は本気で地方創生を

11月中旬に発表された昨年7-9月期のGDPの1次速報値は予想外のマイナス1.6%となり、一時は株価が大きく下落するなど、金融市場を震撼させるネガティブサプライズとなった。この数字によって、わが国経済の先行きの不透明感がさらに増幅されたのだ。

昨年4月の消費税率引き上げの反動もあり、4-6月期のGDPは年率換算でマイナス7.1%と大幅にダウンした。当初、経済専門家の予想では、7-9月期には景況感がやや回復し、GDPは少なくともプラス成長になると見られていた。その予想の平均値が、前期比プラス2.4%程度となっていたことを見ても、相応の回復が見込まれていたことが分かる。ところが、ふたを開けてみれば、マイナス1.6%と、思いもよらぬ2期連続のマイナス成長となった。そのインパクトは大きく、金融市場の参加者が驚くのも無理はない。

2期連続のGDPマイナス成長について分析すると、落ち込みの主な要因は二つあることが分かる。一つは、何といっても個人消費の回復の遅れだ。今年は梅雨明けが遅れたことに加えて、四国、九州など西日本を中心に、夏場に豪雨が続いた。「これほど雨が降った年は記憶にない」といわれるほどだった。そうした天候不順が続いたこともあり、夏物衣料などの消費が期待されたほど盛り上がらなかった。その結果、7-9月期の個人消費は、前期比でわずか0.4%の増加にとどまった。事前の予想では、多くの経済専門家は0.8%から1.0%程度の改善を見込んでいたが、そこに大きな誤差が生じた。天候不順が個人消費にどれほどのマイナス要因となったかを正確に判断するのは難しいが、かなりの影響を及ぼしたことは間違いない。

もう一つの要因は、企業の在庫が大きく減少したことだ。企業は製品の売れ行きが思わしくないと、在庫調整のために生産活動を抑える。それによって、在庫水準を適正化するのだ。今回の結果を見ると、7-9月期に積極的に在庫調整を行ったため、その減少分だけでGDPを0.6%押し下げる結果となった。ただし、別の統計を見ると、6月末から9月末で在庫がそれほど大きく変動していないこともあり、専門家の中には在庫のマイナス寄与にやや違和感を持つ向きもあるかもしれない。一方、GDP統計が示すように7-9月期に在庫調整が進んだとすれば、在庫水準が低い分、今後のGDPはプラスに振れることが考えられる。この点については、これから企業部門の生産活動の水準を注視することが必要になる。

その後に発表された経済統計を見ると、輸出に増加の兆しが見え始めていることが注目される。今まで円安傾向が鮮明化したにもかかわらず、輸出が伸びていなかったのだが、9月以降はその傾向に少しずつ変化が見え始めている。10月の貿易統計速報によると、わが国の輸出は自動車や船舶、鉄鋼などの伸びに支えられ、前年同月比で9.6%増加し、2カ月連続で増加した。今後もそうした傾向が続けば、輸出がわが国経済の回復を下支えすることも期待できる。

ただ、輸出の伸びだけでは経済の本格回復を先導するには力不足だ。GDPの約6割を占める個人消費が盛り上がらないと、わが国経済の景気回復の絵が描きにくい。足元の家計をめぐる経済状況を見ると、物価上昇率の方が賃金上昇のスピードを上回っている。つまり、実質ベースで見た「物を買う力=購買力」が低下しているのだ。その一方、大手企業を中心に企業業績は回復しているため、それらの企業が賃金水準を引き上げることが大切になってくる。

さらにもう一つ無視できないポイントは、中小企業を中心とした地方経済の回復を軌道に乗せることだ。ここが回復しないと、わが国経済全体が明るさを取り戻すことは難しい。地方創生が重要視されているが、それぞれの地方の特性を生かした産業振興の方策を、規制緩和など強い改革志向を持って推進することが不可欠だ。以前のようなバラマキでは、本当の意味での創生はできない。政府は今こそ本気で、地方創生を考えるべきだ。

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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