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真壁昭夫の経済底流を読み解く 日本経済を左右する米国の金融政策 政策金利引き上げがもたらすもの

昨年12月の衆院選挙の結果は、ほぼ事前の予想通り、自民・公明の与党が定数の3分の2を上回った。これによって、当面、わが国の政権は安定し、アベノミクスによる経済運営がなされる。政策運営が安定するという意味では、今後、それなりの効果は期待できる。その期待が現実のものになると、2015年、わが国の経済は緩やかに回復への道を歩むことができるはずだ。

一方、アベノミクスに関する懸念要素は、金融政策に対する依存度が高く、規制緩和など、具体的な成長戦略の進捗が遅れていることだ。これまで安倍政権は、日銀の異次元の金融政策に頼って円安・株高を演出してきた。また、日銀や公的年金資金の運用を行っているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が国内株を購入し、相場の下支え役も演じてきた。しかし、日銀などの公的機関が、相場の方向性を決める〝官製相場〟を永久に続けることはできない。わが国経済の回復が遅れ、企業業績が悪化すると見れば、中長期を念頭に置く投資家は日本株を敬遠する。その場合には、いくら日銀などが買い支えしても、株価を維持することは難しい。安倍政権は、財政・金融政策で時間を稼いでいる間に、しっかりした成長戦略を実行することが不可欠だ。

今年の世界経済と金融市場の動きを考えると、最も重要なファクターは米国経済の動きだ。足元の世界経済を見ると、ユーロ圏の景気は低迷が続き、中国を中心とした新興国の経済にも明確なブレーキがかかっている。わが国の景気も、消費税率の引き上げと天候不順の影響を受けて、昨年4月以降の2四半期連続でGDPが減少した。今後の展開についても、米国頼みという状況にならざるを得ない。

米国の経済指標を見ると、景気回復の動きがすぐに失速する可能性は低いだろう。労働市場の回復は加速しており、賃金が順調に上昇すれば、米国GDPの約7割を占める個人消費はしっかりするはずだ。米国経済が堅調に回復のプロセスを歩むことができれば、世界経済は米国にけん引される格好で、それなりの回復基調をたどることが可能だろう。

ただ、米国経済には、金融政策の変更という重要なリスク要因もある。今まで米国のFRB(連邦準備制度理事会)は潤沢な資金を供給して景気を下支えし、それに伴って、株価も上昇トレンドを描いてきた。しかし、いつまでも金融緩和策を続けることはできない。バブルの発生など、副作用が顕在化する懸念があるからだ。恐らく、今年のどこかのタイミングで、FRBは政策金利を引き上げ、金融をやや引き締め方向に変更することになるだろう。問題は、それをきっかけに株価が軟調になったり、実体経済が足を引っ張られたりすることだ。それが現実味を帯びてくると、市場に与えるインパクトは大きい。その場合には、世界経済に大きなマイナス要因として作用する。

もう一つ気になることがある。それは、金融市場関係者がよく話題にする〝10年周期説〟だ。これは、1987年以降、米国の金融政策がきっかけとなり、10年ごとに世界的に株価が急落するなどの異変が起きる現象を意味する。87年にはブラックマンデーがあり、97年にはアジア通貨危機が発生。2007年にはサブプライム問題が顕在化した。それらはいずれも、FRBの金融政策が緩和から引き締めに転じ、それをきっかけに発生した事例と考えられる。

FRBは、政策金利の引き上げには慎重を期し、拙速に実行することはないだろう。しかし、今までに供給した過剰流動性を吸い上げれば、基軸通貨であるドルの流れに変化が出ることは避けられない。新興国の金融市場に回っていた資金が、少しずつ米国に回帰することなどが考えられる。そうしたマネーフローの変化は、株式や為替市場のトレンドを変えることも想定される。

海外投資家連中とメールのやり取りをすると、彼らが「ここ1、2年は大丈夫だろうが、その後はマーケットが大きく振れる」と見ていることがよく分かる。そうしたリスクを、誰もが頭に入れておいた方が良いだろう。

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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