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真壁昭夫の経済底流を読み解く 「成長戦略」なくして経済再生ならず求められる改革断行

最近、人々のアベノミクスに対する関心が低下している。当初の期待が、次第に剥落してきているということだろう。アベノミクスの金融・財政政策で一時的に株価が上昇し、景気回復への期待感が醸成されたのだが、肝心要の「成長戦略」に目ぼしい政策が出てこない。今年に入り、久々に給与が上がり始めたものの、足元のインフレ率上昇で実質所得が低下し、「生活が苦しくなった」という家庭が増えている。また、〝金余り〟によって一時的に株価は上昇したが、景気先行き懸念などの影響で株価の上昇トレンドは長続きしていない。加えて、日銀のサプライズ追加金融緩和や世界経済の下振れリスクの顕在化などによって、最近では株価そのものが大きく揺れ動いている。さらに相次ぐ閣僚の辞任もあり、アベノミクスの神通力は明らかに低下している。

われわれが期待を抱いた、アベノミクスのセールス・ポイントは主に二つあった。一つは、日銀に黒田東彦総裁を誕生させ、思い切った金融緩和策を実施することだ。就任した黒田総裁は、昨年4月4日の政策委員会・金融政策決定会合で、異次元の金融緩和策をぶち上げた。具体的には、大量のお札を印刷し、それを市中に供給することで景気を刺激すると同時に、円安傾向を演出するというものだ。それによって、株価が一時大きく上昇したり、財政支出の拡大で景気が拡大したこともあり、少なくとも一時的に景気の先行きに明るさを取り戻した時期があった。また、輸入物価の上昇によって、長く苦しめられてきたデフレから脱却する兆しが見えたことも確かだ。しかし、今年4月の消費税率の引き上げに伴う駆け込み需要の反動と、その後の天候不順もあり、消費が思ったほど伸びなかった。それに加え、円安にもかかわらず輸出がほとんど拡大しないことも、景気の先行きに不安感を醸成し始めている。こうした状況を見ると、金融・財政政策だけでわが国経済の復活を目指すのは難しいことがよく分かる。

もう一つのセールス・ポイントは、思い切った規制緩和や大胆な改革に基づく成長戦略だ。わが国には、過去につくった制度や仕組みで、現在の状況に適合しないものが残っている。それらを思い切って変えることで、社会全体の効率を上げる取り組みが必要だ。もちろん、それを遂行するには痛みを伴う政策もある。既得権益層から猛反対が出ることは必定だ。しかし、その反対を押し切ってでも改革はすべきなのだが、遅々として進まない。その意味では、アベノミクスは国民の期待を裏切っているといえる。

安倍首相はいろいろな場で、「岩盤に〝アベノミクス〟というドリルで穴を開け、改革を実施していく」と発言している。その言葉に真剣な期待を寄せた人は少なくなかった。ところが、実際にアベノミクスで実現した主な政策は、異次元の金融緩和策と古典的な財政出動が中心だ。円安によって大手企業の業績回復の道筋はついたものの、改革によってわが国経済の本格的な再生を図るまでには至っていない。最近、中小企業の経営者と話したところ、彼は「政権と国民との信頼関係が希薄化するのでは」と懸念していた。信頼関係が薄れれば、必然的に安倍政権の支持率は下がる。支持率が下がれば、特定の既得権益層をバックにした族議員の声が大きくなり、改革は一段と困難になる。そうなれば、アベノミクスは、従来と同様の金融・財政政策による景気刺激しか行えなくなってしまう。このままではわが国経済の再生への道は霧消し、国内外の投資家の期待は後退、株式市場はさらに不安定な状況になる可能性が高い。

かつて経済専門家の一人が、「日本という国は本当にダメにならならなければ改革などできない」とため息をついたことを覚えている。そうないためにも、安倍首相にはアベノミクスで最も重要な成長戦略を積極的に推進してほしいものだ。改革は時に、国民に痛みを強いることもあるだろう。しかし、今それをしなければ、われわれの子孫にさらに大きな痛みが及ぶことにもなりかねない。政府は国民にそれを分かりやすく説明し、理解を求める努力を惜しんではならないだろう。

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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