豊かな自然と世界的企業が共存
小松市は石川県の南西部に位置する人口10万人ほどの都市である。交通ネットワークに恵まれており、JR小松駅から東京へは3時間30分ほど、大阪・名古屋へは2時間30分ほどで結ばれており、小松空港から羽田空港へは約45分だ。小松空港と北陸自動車道はそれぞれJR小松駅から車で約10分の距離で、市街地からのアクセスは良好だ。
同市は、かつては城下町として栄えた地域だ。江戸時代に加賀藩第三代藩主である前田利常が隠居後に小松城に住み、城下町としての基礎がつくられた。利常の産業振興政策によって城下に漆器など各種工芸や絹織物、畳表などの職人たちが集まり、ものづくりをなりわいとして繁栄してきた。
江戸時代に形づくられたものづくりの系譜が引き継がれ、現在、同市では世界的な建設機械メーカーである小松製作所が中心となり、その協力企業などによって機械産業を中心とした産業クラスターが形成されている。また、国内シェアトップクラスの「間仕切り」のメーカーや世界的な電子部品メーカー、日本有数のバスメーカーが立地するなど、多様な産業集積が進んでいる。
工業都市である一方、豊かな自然にも恵まれている。同市の北西部は日本海に接し、東には日本三名山の一つとして数えられる白山を望む。恵まれた自然環境を生かし農林水産業も盛んである。同市は古くから米どころであり、現在も県内有数の収穫量を誇る。トマトやニンジン、大麦の収穫量も県内でトップだ。
地域の歴史に隠された石のストーリー
文化庁は、地域の歴史的魅力や特色を通じてわが国の文化・伝統を表すストーリーを「日本遺産」として認定している。同市の歴史には、石や鉱物にまつわるさまざまなストーリーが隠されており、同市の「石の文化」が2016年度に日本遺産に認定された。
同市に本社を置く小松製作所は、そもそも鉱山を開発する機械の製造から始まった。吉田茂元首相の実兄である竹内明太郎氏が、同市の遊泉寺銅山の開発に当たって設立した「小松鉄工所」が小松製作所の前身だ。また、海外でも人気がある磁器「九谷焼」は、同市で産出される「花坂陶石」が原料となっている。
同市で採れる豊富な鉱物を用いて、弥生時代には装飾品を加工していた。碧玉(へきぎょく)を材料として「管玉(くだたま)」、ヒスイを材料として「まが玉」などをつくり、それらを組み合わせて首飾りなどをつくっていたのだという。管玉は、直径2㎜の石の円柱の中心に1㎜の穴を開けたもので、作製に当たっては精緻な技術が求められる。
同市で産出されるさまざまな石は、昔から数多くの建築物にも用いられてきた。江戸時代には、小松城の本丸の土台に同市で産出された「鵜川(うがわ)石」などが用いられ、見た目にも美しく積み上げられた。現代では、同市で産出される「観音下(かながそ)石」が、国会議事堂の建材の一部として使用されている。
豊富な鉱物が採れるようになったきっかけは、およそ2000万年前までさかのぼる。急激な地殻変動により日本海側の地域で火山活動が活発になり、その結果、金や銅などの鉱石、碧玉、ヒスイ、水晶などの宝石や、九谷焼の原料となる陶石などが産出するようになった。
江戸時代から受け継いだ文化が色濃く残る
同市には、江戸時代にルーツを持つ文化が今も息づいている。九谷焼は、江戸時代初期の1600年代半ばに、現在の加賀市で発祥したといわれている。その100年ほど後に、現在の小松市で材料となる良質な陶石が見つかり、現代の九谷焼につながっている。明治維新後には一部の陶芸家が販路を海外に求め、結果として海外でも高い評価を得ることとなった。同市が輩出した三代徳田八十吉氏と吉田美統氏は人間国宝に認定され、伝統的な技法を身に付けながら新しい技法に挑戦するなど、九谷焼のさらなる発展に寄与した。
市民に親しまれている歌舞伎も、江戸時代から同市に根付いている。現在、毎年5月に開催されている「お旅まつり」では、「曳山(ひきやま)子供歌舞伎」が披露されている。絢爛(けんらん)豪華な山車がまちを練り歩き、山車に設けられた舞台で子どもたちが歌舞伎を披露するというものだ。1700年代半ばに始まったといわれ、以来250年にわたって受け継がれている。
また、同市には、歌舞伎の演目「勧進帳」の舞台である「安宅(あたか)の関」がかつて存在していた。歌舞伎十八番の一つである勧進帳は、源頼朝の追及の手を逃れ東北に向かう源義経一行を描いたものだ。義経の前に関所「安宅(あたか)の関」が立ちはだかったものの、随行していた弁慶の機転により関所を無事通過する。弁慶の主君・義経を思う気持ちが感動を呼ぶドラマだ。
同市では、全国に「歌舞伎のまち」の魅力を発信すべく、1999年から「全国子供歌舞伎フェスティバルin小松」も開催している。全国から子ども歌舞伎を招き、約20mの花道を備えた本格的な歌舞伎ホールで公演。子どもへの指導のため、故十二代目市川団十郎氏や市川海老蔵氏も同市を訪れた。
地域資源を生かし地方創生目指す
小松商工会議所が中心となり、地方創生事業の一環として、本年8月に「第1回小松勧進帳高校野球交流試合」を開催した。同交流試合は、他地域から野球の強豪校を招待し、同市内の高校と試合を行うというものだ。今回は、大阪府の履正社高等学校を招待した。「強豪校と試合をすることで、チャレンジ精神を養ってほしい」と同所の西正次会頭は語る。また、チャレンジ精神を養うとともに、学生たちが思い出をつくり、地元に対する良いイメージを持ってもらうことも狙いの一つだ。
「良いイメージを持つことで、若者が将来地元に戻ってきてくれるかもしれない。その上で、チャレンジ精神を生かして地元で会社を興すなど、地域を盛り上げてくれるとうれしい」(西会頭)
また、同所は、猪(いのしし)や鹿の肉を魅力ある食材として提供し、普及を促進する「こまつ地美絵(じびえ)」という試みを行っている。近年鳥獣害が増加しており、それに伴って猪や鹿が捕獲されることが増えたという。しかし、以前は捕獲された猪や鹿のほとんどがジビエとして活用されることなく焼却処分されていた。貴重な地域資源を活用し、九谷焼の器を使って地酒と共にジビエ料理を提供することで、イメージの向上を図る。
利便性向上へインフラ整備を提言
同所は、地域のさらなる発展に向けてインフラの整備について国などに働きかけている。北陸新幹線は2015年に金沢市まで開業し、石川県内に大きな経済効果をもたらしている。今後、22年度末には福井県敦賀市までの開業を計画しており、46年には大阪までの全区間の完成を予定している。
「北陸新幹線は、地方創生に向けた東京一極集中の解消という点からも、早期の全線開業が必要である。そのため、全線開業予定を46年から前倒しして、30年度を目標に整備を進めてほしい。また、北陸新幹線が延伸することにより、中京圏との交流が希薄になる恐れがあると思う。そのため、北陸新幹線の整備と並行して、中京圏とのアクセスも引き続き確保していただきたい」(西会頭)
また、同所は、県内経済界で構成する小松空港国際化推進協議会の事務局を有するなど、小松空港の利用促進にも取り組んでいる。台北便が15年6月より本格的に貨物の取り扱いを開始したことを受け、同協議会は本年11月、同空港の活用や貿易促進を目的に台北市で商談会を開催した。
古いまち並みを残し観光客を誘致
同市は江戸時代に城下町として栄え、町人文化が花開いた土地だ。現在も当時の面影を残す民家「町家」が多数残っており、同市では、町家の再生を図り地域資源として活用するため、08年度から「こまつ町家認定制度」を導入した。条件を満たす民家を町家として認定し、ホームページなどで情報を発信している。
小松市文化協会の関戸昌郎理事長は、町家の保存に尽力し、同市のまちづくりに貢献している。「町家に住んでいても、自分の家の価値に気付いていない人が多い」と関戸理事長は語る。
「住人の皆さんに、町家保存の意義を理解してもらうことに苦労した。しかし、町家を保存することによりまちの価値が高まり、その結果、観光客が増加するなど活性化につながる。最終的には多くの人にご理解をいただき、町家保存の活動が広がっていった」
多数の観光スポット・魅力的なグルメ
同市には、全国的に有名な加賀温泉郷の一つとして「粟津(あわづ)温泉」がある。718年に発見されたと伝えられており、開湯1300年を迎える歴史ある温泉だ。豊富な湯量を誇り、切り傷ややけどに効能があるという。また、肌が滑らかになる「美人の湯」としても知られている。
豊かな自然も同市の魅力である。加賀三湖の一つである木場潟には多数の野鳥や水生植物が生息しており、地元の人も「木場潟から見る白山は絶景だ」と口をそろえる。木場潟の周囲には1300本の桜並木もあり、春には桜を楽しむことができる。また、紅葉で全国的に有名な「那谷寺(なたでら)」や、古民家の庭一面にさまざまな種類の苔(こけ)が生えている様子を見ることができる「苔の里」も豊かな自然や四季を感じることができるスポットだ。
同市のグルメで近年特に人気なのは「かに甲羅揚」だ。日本海の冬の味覚として知名度が高いカニを使い、甲羅に具をつめて揚げたもので、石川県の名物をつくろうと考案された。また、「小松うどん」も同市の名物グルメの一つだ。松尾芭蕉も好んだといわれ、細めでコシのある麺と、合わせだしに薄口のしょうゆでつくるつゆの口当たりの良さが特徴だ。
「小松市は江戸時代に町人文化が花開いた地域であり、昔ながらの文化・伝統を引き継いでいる。世界的な企業が立地している一方で、自然も豊か。おいしい料理もあるし、温泉も魅力的だ。魅力あふれる小松市の発展に向け、インフラ整備に向けた提言や若者の定着に向けた活動などを通し、貢献していきたい」(西会頭)
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