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まちの解体新書 コンビナートを核に共創の観光まちづくり

瀬戸内海国立公園に指定されている「太華山」から工場を望む

石油化学製品の製造拠点として発展

コンビナートのまちとして名高い周南市。沿岸部には全国有数の石油化学コンビナートが広がっている。製造品出荷額は県全体の4分の1を占め、県経済をけん引する存在となっている。

周南コンビナートの特徴は、財閥系や同一資本グループ主導ではなく、個別の企業が混在する形でつくられている点だ。第二次世界大戦後、旧海軍燃料廠(しょう)跡地の払い下げを受けた出光興産が当時この地域に立地していた二大電解ソーダメーカーの徳山曹達(現トクヤマ)と東洋曹達(現東ソー)と連携して一大化学コンビナートをつくり上げた。現在は出光興産からの原料供給を受け、プラスチック原料メーカーや合成ゴムメーカーなど、多様な企業が集積している。主要製品であるプラスチック原料や製紙・せっけん原料の生産量で国内トップクラスであり、石油化学製品の製造拠点としての地位を確かなものにしている。

徳山商工会議所の宮本治郎会頭が「新幹線からコンビナートの煙突やそこから立ち上る白い煙が見えると、ふるさとに帰ってきたと実感し、ほっとする」と言うように、市民にとってコンビナートはまちのシンボルとなっている。

徳山商工会議所 会頭 宮本 治郎 氏

平成30年2月オープンの新駅ビルを交流拠点に

宮本会頭は周南市を石油化学コンビナート中心の工場集積が進んだ、全国有数の工業都市として自信をのぞかせる。その上で、「周南市には棚田や温泉、山や海といった自然も豊富ですし、徳山駅エリアを中心に、市役所をはじめ、金融機関や医療機関、大学、文化会館などの都市基盤も整っています。司馬遼太郎氏の小説『坂の上の雲』で知られる明治時代の陸軍大将・児玉源太郎氏の生誕の地でもあり、文化や歴史もあります」と周南市について語る。

周南市は平成15年、徳山市と新南陽市、熊毛町、鹿野町の2市2町が合併して誕生した。山口県の南東部に位置し、人口14万6000人、面積は656・32㎢である。北部には中国山地が広がり、瀬戸内海を臨む南部の半島部や島しょ部は瀬戸内海国立公園区域にも指定され、美しい景観を有している。平野部の海岸線に沿って大規模な工場が立地し、それに接して東西に長い市街地が形成されている。

周南市の玄関口であるJR徳山駅は、在来線の山陽本線と山陽新幹線の接続駅であり、広域交通と地域内交通の結節点となっている。昭和44年に民衆駅(国鉄と地元商工業者などが共同で駅舎を建設し、商業施設を設けた駅ビルのこと)として営業を開始。市民の要望により新幹線が入ってくるようになり、平成15年以降、新幹線のぞみの停車駅となっている。

また、駅の南北を一体的に捉え、まちの活性化を図ろうとさまざまな整備が行われている。26年に工業地帯が広がる徳山港側の南口と市街地方面の北口とを結ぶ自由通路「ぞうさんのさんぽみち」が完成。この通路は市内にある徳山動物園や周南市出身の詩人・まどみちお氏の童謡「ぞうさん」にちなんで名付けられたという。駅は全面ガラス張りのため明るく開放的で、隣接する瀬戸内海や徳山港への眺望に配慮されている。

この徳山駅がいよいよ来月の2月3日、‶にぎわい交流拠点〟として生まれ変わる。周南市立徳山駅前図書館などを中核とする駅ビルがオープン予定とあってまちへの期待が高まる。駅ビルは3階建てで、書店やカフェ、学習室を備えた図書館のほか、市民活動支援センターや交流スペース、飲食店、交番などが入る。このまちへ来る人へのおもてなしの場、このまちに住んでいる人たちの居場所、人が集い楽しむこのまちのにぎわいと交流の場がコンセプト。TSUTAYAを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が指定管理者として管理・運営する。集客の目玉はなんといっても図書館と併設のブック(書店)&カフェで、スターバックスと蔦屋書店が入店することが決まっている。

市の中心部にある約650mの桜並木。ソメイヨシノ約100本が桜のトンネルをつくる

重要な役割担う天然の良港・徳山下松港

周南市では港も重要な役割を担ってきた。徳山下松港は国際拠点港湾に指定されており、瀬戸内工業地帯の一角である周南コンビナートや周辺の工場群と各地を結ぶ拠点港湾として機能している。15年に総合静脈物流拠点港(リサイクルポート)に指定された後、23年には国際バルク戦略港湾に選定され、石炭の輸入拠点としての整備が進められている。また、大分県国東市竹田津港へのフェリーが発着するほか、戦争末期に搭乗員らが秘密裏に訓練した基地跡が残り、人間魚雷「回天」で知られる離島・大津島への航路がある。

周南市で工業が発達したのは、運搬が便利な瀬戸内の中心であり、大型船の入港が可能な天然の良港であったことが大きな理由といえる。徳山下松港は江戸時代に正税米の積み出し港として栄えた史実があり、米・塩・紙の殖産政策により海岸線一帯に開作事業が進められた。瀬戸内海航路の主要な寄港地であるとともに、生産品の積み出し港として発展したとも伝えられている。

大津島に展示されている戦時中の特攻兵器「回天」

地域資源を活用した産業観光と工場夜景

徳山商工会議所では、このコンビナートを構成する工場群を地域資源とし、「産業観光」として観光分野にも生かしてきた。

徳山商工会議所は広域で連携し、産業観光事業に着手。生活圏・経済圏が同じことから、新南陽商工会議所の呼びかけに応じる形で、光商工会議所と下松商工会議所とともに周南地域の4商工会議所で取り組みを開始した。16年に4商工会議所と企業が事業実施について協議し、17年に産業観光ツアーをスタートさせ、10年以上継続している。産業観光ツアーは経済活動が同一エリアながら主要産業や特産品が異なり、互いの強みが発揮されていることから評判は上々だ。工場見学に観光地や郷土料理、地産地消のメニューといった食の要素を加えたり、夏休みに親子教室を実施したり、お見合いパーティーを組み合わせた婚活コースを設けたりと、工夫と改良を重ねてきた。年間20コース以上実施し、参加者は延べ約500人、受け入れ企業は40カ所近くになる。申し込みが定員を大幅に上回るコースもあるほどだ。

そして、コンビナートを地域資源として活用した取り組みとして、「工場夜景」も挙げられる。23年に工場夜景観賞ツアーや宿泊プランが商品化されて以来、官民が連携して夜型観光を推進している。24年には全国の工場夜景都市が共同で開催する「全国工場夜景サミット」に参加し、26年には第5回全国工場夜景サミットを周南市で開催した。

昼間とは違った工場群の表情を楽しめるとあって工場夜景は全国的に人気を呼んでいるが、周南市の工場夜景の最大の魅力は身近に見られることだろう。徳山駅からのアクセスが良く、徒歩圏内のビューポイントがいくつかある。また車で工場夜景スポットを巡る場合も、工場が臨海部に集約されているため回りやすい。徒歩や車のほか、観光タクシーを使うのもよし、クルージングツアーで海上から眺めるのもよし。希望に応じて選択できるプランが多数用意されている。

夜景といえば、日本夜景遺産に認定されている「晴海親水公園」と「周南冬のツリーまつり」も外せない。晴海親水公園は工場夜景ビュースポットの一つ。周南冬のツリーまつりは毎年11~12月に徳山商工会議所などが行う周南市の冬を代表するイルミネーションイベント。冬の風物詩になっており、家族やカップルなど多くの人でにぎわう。33回目のこの冬は、約80万球のLEDにより徳山駅前を中心に市街地一帯に装飾が施された。また、青空公園には大型キャンドルツリーと「天空のライティングフラワー」が設置され、まちへの回遊性が高められている。

工場夜景はいくつもビュースポットがあり圧巻

次世代へつなぐまちのにぎわい創出へ

工業が好調で観光振興にも力を入れる一方、宮本会頭は来月に迫った駅ビルのオープンを千載一遇のチャンスと捉え、商業復活を目指す。「このまちの元気な姿を見れば、若い人たちもまちに誇りを持てると思います。交流人口が増加すれば、それも自信につながるはず。まちににぎわいを創出し、次代へつないでいく」と意気込む。

周南市では、商店街を含めたまちなかが子どもから高齢者まで誰もが気軽に集えてにぎわいが生まれる‶皆の公共空間〟となるよう、民間と行政による共創のまちづくりが進められている。そのかいあって、目標の一つに掲げる中心商店街などへの新規出店数にも、その成果が表れてきている。

徳山駅東側には6つの中心商店街があり、かつては一大商業地として栄えた。だが近年、店舗の閉鎖が相次ぎ、25年に山口県東部で唯一の百貨店が撤退したことで拍車がかかり、かつての商店街の姿ではなくなっていた。

そのような中、徳山商工会議所の「若い人たちでまちづくりを進めてほしい」との要請により設立された株式会社まちあい徳山。その代表取締役である河村啓太郎さんは、これまでに30店舗以上の出店を支援してきたほか、徳山駅近くの空きビルのリノベーションも手掛け、そこにコミュニティースペースを設けるなど、商店街全体の活性化に力を注いでいる。「今までニーズがあるのに商店街にはカフェなどがなかった。それらの出店をサポートできて、次の世代が少しずつ育ってきたと感じます。今後も新しいプレーヤーをまちに呼び込んでいきたい」と意欲を示す。そのほかにも、旧映画館を改装してつくったライブやイベントが可能な「ライジングホール」や複合施設がオープンするなど、皆が行きたくなるモノやサービスを提供できる環境が整いつつある。

また、ハード面だけでなく、ソフト面でも進化し続けている。例えば、情報発信の一環として行っている「しゅうなんまちなか探訪マップ」の発行。女性メンバーが中心となって商店街の店舗を取材し、女子ランチ編、激戦区のカレー編など、各号でテーマを決めてお店の魅力を伝えている。中心的な役割を果たしてきた徳山商工会議所の小林和子専務理事は「こんな良いお店があると紹介することで、用事を終えてすぐ帰るのではなく、寄り道したり、まちを回遊したりするようなきっかけをつくりたいとの意見から生まれました」と、マップ作成の狙いを語る。

人も産業も勢いのあるまち。新駅ビル開業を機に、まちづくりがさらに加速するだろう。まちのにぎわい創出も定住人口の増加も遠い話ではない。

JR徳山駅のすぐ近くにある、特産品セレクトショップを備えた観光案内所「まちのポート」

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