刃物のまちとして有名な岐阜県関市にある金属プレス加工会社ツカダ。長年、下請けの町工場として金型の設計や打ち抜きプレス加工などを扱ってきた。そんな同社が製作した自社製品が「キークエスト」だ。この鍵のような形をした多機能ツールがいかにして生まれ、販路を開拓していったのかを追う。
段ボールの開封がきっかけで生まれた多機能ツール
「Key-Quest」(以下キークエスト)は、1個で六つの機能を持った便利なツールである。サイドのギザギザはカートンオープナー(段ボールの開梱用カッター)、先端のくぼみは糸切りやマイナスドライバー、平面部の穴はナット回し、フック部分は栓抜きと、小さいながらさまざまな役割を果たす。
「毎日使うものではありませんが、ふとしたときにあると重宝する機能を盛り込んだ商品です」と開発者であるツカダ社長の塚田浩生さんは説明する。
同商品を思い付いたのは、通信販売で届く段ボールの開封がきっかけだ。梱包に使われているテープが手では切れないため、しばしば家の鍵を使って切っていたという。「はさみを使えばいいじゃないか」といえばそれまでだが、必要なときにそばにないことも多い。ある日、当たり前のように代用している鍵を見て、「こういう形のものなら、うちの設備でもつくれるのでは」と思ったのだという。
同社は昭和45年に創業し、関市の地場産業である刃物の加工をメインに請け負ってきた。刃物をつくるには、プレス、熱処理、研磨、刃付け、調整など10以上の工程があり、それぞれを専門の加工会社が行う分業体制がとられている。同社はプレス加工が専門で、刃物以外にも水回り製品の部品やモーター部品なども扱ってきた。しかし近年では、人件費の安いアジア諸国に仕事が流れ、大きなロットの仕事は減少の一途をたどっている。
商工会議所青年部の仲間と協力し納得できる商品へ
平成25年に社長を継いだ塚田さんは、先代社長である父親が生前よく口にしていた「自社製品をつくらないとダメだ」という言葉を思い出し、鍵形ツールをつくってみることにした。
せっかくつくるなら、切るだけでなく、回す、起こす、抜くなどの機能も盛り込むことにした。似た機能を持つものにマルチナイフがあるが、使うときに折り畳んであるパーツをいちいち取り出さなくてはならないし、厚みもあってかさばる。塚田さんは鍵くらいの大きさで、カバーなしでも持ち運びができ、取り出したらすぐに使える形態にこだわった。そこで何度もデザインを描き、刃の部分を砥石(といし)で削って、指で触れても切れないように工夫した。
「最初は誰にも言わず、1人で試作していました。ある程度形になったところで社員に見せたところ、ほとんど無反応で(笑)。その段階では売り物にしようとは思っていませんでしたが、知り合いの印刷屋さんにパッケージをつくってもらったらそれらしくなったので、初期ロットでつくった分は売ることにしました」
前述のように、関市では刃物の製造は分業体制をとっているため、金属をプレス加工するところまでは同社で行い、それ以降の工程は塚田さんが在籍する関商工会議所青年部の仲間の会社に依頼した。
製品として仕上げるに当たって特に苦労したのは、糸切り部分の刃だった。指を切らないように溝を深く幅も狭くしたために、従来の機械では刃付けができなかったのだ。試行錯誤の末、金型部品をつくる加工機を代用して、ようやく完成にこぎつけた。
クラウドファンディングで販路開拓の突破口を開く
塚田さんは売り先を探すため、地元の金融機関を訪ねた。するとある信用金庫から、クラウドファンディングを利用してみたらどうかと勧められた。
「予期せぬ提案でしたが、広く世間の目に触れる機会になればと、挑戦することにしました。目標金額は100万円。ウェブサイト上でキークエストをPRして買ってもらい、集まった資金を、量産して流通に乗せるための経費に充てることにしたんです」
クラウドファンディングでは、プロジェクト(※1)開始から3日以内に目標の30%を達成したら、最終目標は必ず達成できるというセオリーがある。つまりスタートダッシュが重要なのだ。そこで塚田さんは一計を案じ、プロジェクトのオープニングイベントを企画した。商工会議所青年部の仲間や知り合いなどに集まってもらい、開始と同時にキークエストを注文してもらったのだ。すると、2日目の朝には目標の30%を超えた。すぐに「注目のプロジェクト」としてウェブサイトのヘッドライン(※2)に紹介され、さらに注文数が伸び、4日目には目標金額を達成した。
「それ以降少し伸び悩んだ時期もあったんですが、最終的に2カ月間で763万9100円集まり、商品を注文してくれたサポーターは2377人となりました。この実績がテレビ東京の経済ドキュメンタリーに取り上げられ、700年の伝統を誇る刃物のまちから誕生した“謎商品”と紹介されると、一気に認知が広がり、東急ハンズなどで扱ってもらえることになったんです」
28年7月の発売からの累計販売数は1万8000個にのぼる。1個2800円(税込)で、マルチナイフと比べて割高とも思える価格を考えると、上々の数字といえるだろう。
「下請けとして長年コストダウンに苦しんできたので、キークエストの製造に関わっている仲間には、きちんと利益が出るようにつくってもらった結果、この価格になりました。その分、機能と品質には自信がある。今年初めて展示会に出展した際、中国で扱いたいという引き合いもあったので、今後はグローバル展開も視野に入れつつ、技術を結集した自社製品の開発に力を入れたい」と、塚田さんは力強く語った。
※1 クラウドファンディングで実行される企画のこと ※2 ホームページの一番目立つ場所のこと
会社データ
社名:株式会社ツカダ
所在地:岐阜県関市小瀬554-1
電話:0575-23-2376
代表者:塚田浩生 代表取締役
創業:昭和45年
従業員:21人
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