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真壁昭夫の経済底流を読み解く 中国の壮大な構想 シルクロード経済圏の影響力

米国に次ぐ世界の経済大国にまで駆け上がった中国が次に狙うのは国際社会での発言力を高め、自国のポジションを安定したものにすることだろう。具体的には中国を中心とする経済圏を形成し、ライバルである米国と対峙する構図をつくり上げることを構想しているようだ。中国が掲げている政策の中に、「一帯一路」と表現する壮大な地域を包含する経済圏を形成するプランがある。それはシルクロード経済圏と呼ばれる構想だ。

この経済圏構想は、陸のシルクロード経済ベルト、海のシルクロードの二つの考えから成立している。陸のシルクロード経済ベルトとは、陝西省の西安から中央アジア、中東のイラン、そしてトルコを経てロシア、欧州にまで続く地域を指している。つまり、中央アジアを分岐点にしてロシアから欧州、中東から地中海沿岸地域を含む経済圏を陸続きで形成しようという考えだ。

一方、海のシルクロードとは台湾の対岸の福建省からスタートし東南アジアまで南下し、インド洋を経て、アフリカ、欧州へと続く地域をつなぐルートである。陸と海の道を経由することで、北はロシア、南はインド洋、アフリカ地域を射程に収め、最終的には欧州に至るルートを形成する構想だ。

中国が陸海の両方から欧州経済への接続を確立しようとする狙いの一つは、EUが中国にとって最大の貿易相手という点もある。中国にとって欧州経済への影響力を高めることは輸出の安定を図る上で極めて重要だ。そのために、同経済圏構想を打ち出し、欧州経済を取り囲む地域を自らが提唱する経済圏に含めることで、地政学的なポイントからもイニシアチブを握りたいとの狙いがある。

そこで重要なポイントの一つは、中国は力ずくではなく、資金力や経済力によって強い影響力を形成しようとしていることだ。世界最大の外貨準備を使って資金を供給し、新興国のインフラ投資のビジネスチャンスをつかむ。つまり、中国は欧州経済に至るまでの陸路と海路を囲い込み、各国のインフラ開発を支援し、中国企業の受注を増やすことで、当該地域における存在感を高めようとしている。その構想は壮大な規模だ。

2014年11月、北京で同経済圏構想に関する会合が開催された。その場で中国は400億ドルを拠出してファンドを組成し、構想に含まれる地域のインフラ開発を促進する考えを打ち出した。いわばシルクロード・インフラ・ファンドともいうべき基金の創設である。

基金の設立はアジアインフラ投資銀行(AIIB)と並んで、同経済圏に含まれる国の外部経済を形成するだろう。それは、関係各国の道路網や都市開発が進むだけでなく、過剰な生産能力を抱える中国企業に、新しい進出先を提供することにもつながる。これから中国の経済成長をどれだけ底上げできるのかは、新興国向けインフラ投資をいかに増加させられるかにかかっている。

これまで中国にとって、内需拡大が喫緊の課題だった。しかし、内需を拡大するためには、国民の消費行動を変えることが必要である。生産年齢人口の割合が減少に転じた環境下では、短期間で消費を増やすことは容易ではないし、沿海部と内陸部の発展の格差を考えると、迅速に経済基盤を強化することも難しい。

一方、同経済圏に含まれる国を見渡すと、東南アジアを中心にインフラ投資の必要性は高く、中国によるインフラ開発と企業の進出をきっかけとして経済基盤の整備が進むだろう。そして、世界の一大消費地としての中国に加え、EUへのアクセスも可能になる。

そのコンセプトと期待の大きさは、開発途上国を同構想に参画させるに足る誘因である。それがフィリピンなど中国との利害衝突を抱える国だけでなく、英、独などG7メンバー国をもAIIB構想に駆り立ててしまうのだ。AIIBや同経済圏構想には、透明性やガバナンス、中国の影響力の大きさなどの問題点があるにせよ、無視はできない。わが国としてもビジネスチャンスを逸失しない取り組みが必要だ。

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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