3月の月例経済報告の中で内閣府は、景気の基調判断を「景気は、企業部門に改善がみられるなど、緩やかな回復基調が続いている」に上方修正した。この背景には、わが国の雇用や所得の環境が改善し、昨年4月の消費税率引き上げを受けた需要の反動減がほぼ吸収されたとの見方がある。
2月の全国百貨店売上高は、前年比1・1%増と11カ月ぶりに増加。大手百貨店5社の3月の売上高は、消費税率引き上げ前の2013年3月の水準を上回った。それらの数字を見る限り、わが国経済はようやく回復軌道に戻りつつあるとみられる。
一方、4月に発表された日銀の短観を見ると、企業経営者の景況感は期待されたほど改善していない。むしろ、不透明な海外要因などを反映して、企業経営者は景気の先行きにかなり慎重な見方をしている。月例経済報告と短観の間でやや景気の見方に〝ねじれ〟が存在することが気になる。
月例経済報告を詳しく見ると、基調判断のうち、個人消費、生産、企業収益に関する判断が修正された。個人消費は、総じて底堅い動きであると報告されている。個人消費の動向を考える際、エネルギー価格の下落が消費者物価指数(CPI)を押し下げている点を頭に入れておく必要がある。原油価格の低位安定によるガソリン価格の下落は、わが国経済にとって大きなプラス要因であることは間違いない。エネルギーに対する支出が、他の消費財の購入に回ることも考えられる。
一方、エネルギー価格の下落は、2%の物価目標を掲げている日銀にとってはマイナスに作用する部分もある。人々のデフレマインドが抜け切らないからだ。デフレマインドが払しょくできないと、個人消費は盛り上がりにくい。
消費者物価は、ある意味で国内の需要のレベルを示す指標だ。需要が高まれば、生産など、供給サイドの動きも活発になるだろう。しかし、CPIから生鮮食品を除いたコアCPIは昨年7月以降、低下している。2月のコアCPIは消費増税の影響を除くと前年比0%にまで落ち込んだ。つまり、国内の需要はあまり盛り上がっていないということになる。
今後、春闘などによる賃上げが期待されるものの、それによって人々の財布のひもが急に緩んで消費性向が大幅に上昇することは考え難い。むしろ、景気全体の上昇が続く中で、人々の景気先行きの安心感が醸成され、それが徐々に消費行動へとつながっていくと考えるのが自然だ。安倍政権が推進してきた賃上げの動きは、まだ中小企業にまで広がっていない。今後、企業業績に伸び悩み感が出ると、賃上げ効果にも息切れ感が出ることも危惧される。
景気の先行きに慎重論が増えると、消費者心理は再び冷え込むことも懸念される。その場合、日銀はそうしたリスクを回避するため、さらなる追加緩和を打ち出す可能性が高い。
問題はその追加策の効果だ。追加緩和策の実施は需要の喚起よりも、金融市場で資産価格を押し上げることが考えられる。結果として、株価などの資産価格が経済の基礎的条件(ファンダメンタルズ)で説明できる水準以上に上昇する〝バブルのリスク〟を膨張させる恐れもある。
もう一つ気になるのは、わが国を取り巻く海外の経済要因だ。足元で中国経済の減速は顕著になっている。中国政府は金利の引き下げなど金融政策を実施しているが、期待されたほどの効果はみられない。米国でも3月の雇用者数の伸びの鈍化や企業業績の伸び悩みの傾向が目立つようになっている。欧州でもギリシャの問題がくすぶり続けている。さらに、一部新興国が財政立て直しのために増税に向かう動きが出ており、こうした国の経済にはブレーキが掛かると見られる。
そうした海外のリスクが顕在化するとわが国の輸出が鈍化し、日銀の積極緩和策の効果が減殺され、わが国経済の回復過程が下押しされることも考えられる。そうしたリスクシナリオは、頭のどこかに入れておいた方がよいかもしれない。
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