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スポーツライター 青島健太の注目アスリート 羽根田が日本を飛び出した理由

リオデジャネイロ五輪で銅メダルを獲得した羽根田卓也選手 写真提供:朝日新聞社

「かわいい子には旅をさせよ」とは名言だ。親元を離れ外の世界に触れることで子どもたちは鍛えられる。では、成長を遂げた青年やアスリートはどうしたらよいのか。それもやるべきことは同じだろう。ただ、子どもたちと違うのは、そこに自らの意思があることだ。そうでなければ、旅に出る覚悟が決まらない。

リオデジャネイロ五輪、カヌー・スラローム(男子カナディアンシングル)で銅メダルを獲得した羽根田卓也選手は、自ら日本を飛び出して、激流の中を漕(こ)いできた。

「高校までカヌーを続けてきて、これからどうしようかというときに考えたんです。このまま日本にいても強くなれない。もっとうまくなるためにはどうしたらいいのか。そこで強い選手がたくさんいるスロバキアに行くことにしたんです」

日本にいても強くなれないのには明確な理由があった。カヌーのスラローム種目の国際大会は、ほとんど人工のコースで開催される。水の流れ方やゲートの設置場所などがより競技性の高いセッティングになる。そのため日ごろから人工のコースで練習して、試合に通じる実践的な経験を積む必要がある。ところが日本には、その人工コースがひとつもない。世界で戦うためには、日本を飛び出す以外に道はないのだ。

スロバキアには、素晴らしい人工コースがあり、世界各国の選手が集まってきていた。そこに単身飛び込んだ羽根田選手は、現地の大学に通いながら日々練習に明け暮れた。

「カヌーでは腕の力も必要なんですが、決して力だけで漕ぐわけではないんです。水の流れを利用して進む。流れに対してどうやってパドルを使うか。その使い方を瞬時に判断して的確に進路を変える。それはさまざまな流れを経験することで身に付くテクニックなんです」

彼の話を聞きながら、それがそのまま海外で自分をたくましくする方法のようにも思えた。急流や激流を数多く経験することでその乗り切り方が分かってくる。すると今度は、そうした厳しい体験が自信となってその選手をどんどん強くする。

「五輪でも落ち着いて漕げた。今回メダルが取れた要因は、やっぱりメンタルが強くなったことだと思います」

慣れない環境の中でライバルたちと競い合う。その負荷が自分を飛躍させる反発力となって返ってくるのだ。

青島 健太 スポーツライター&キャスター 1958年新潟市生まれ。埼玉県立春日部高校から慶応義塾大学、東芝を経てヤクルト・スワローズに入団。プロ野球初打席で初ホームランを記録。引退後は、オーストラリアで日本語教師を務め、帰国後、あらゆるメディアでスポーツの醍醐味を伝えている。

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