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真壁昭夫の経済底流を読み解く わが国企業の信頼回復に 必要な経営力

最近、わが国の有力企業の不祥事が世界的にメディアをにぎわせている。すぐに思いつく案件だけを取り上げても、東芝の多額粉飾決算、タカタのエアバッグ大量リコール、日産自動車の無資格検査、さらには神戸製鋼所の検査データ改ざんなどがある。こうした相次ぐ不祥事の発生によって、海外の日本企業に対する見方は変わっている。欧州のメーカーに勤務する友人は、「日本製品に裏切られた気がする」とメールを送ってきた。かつて、高い信頼性と高品質を誇った“メード・イン・ジャパン”は、既に一部の神通力を失ってしまったかもしれない。

日本企業の不祥事はなぜ起こっているのだろうか。企業経営者や実際の製造の現場、製造関係の専門家に話を聞いてみた。その結果、いくつかの共通点が見えてきた。最も多かった指摘は人員削減だ。1990年代以降、国際競争が激化するにしたがって、国内企業がコストカットのために現場の人員を削減せざるを得なかった。90年代初頭、わが国で大規模なバブル崩壊が起こり、主に中国などから低価格な製品が流入した。その後、輸出中心に景気は回復したものの、さらに追い打ちをかけるようにリーマンショックが発生した。その間、多くの企業は大胆なコストカットを実行せざるを得ず、現場の人員はかなり削減されることになった。その一方、近年、コンプライアンス=法令順守のルールが厳正化されたこともあり、現場、特に中間管理者層の資料作成などの負担はかなり増えたと言われている。そうした状況では、どうしても製造現場の隅々まで経営の目が行き届かなくなっている。

また、少子高齢化の影響もあり、わが国の国内市場の伸びに大きな期待を持つことが難しく、どうしても国際市場への積極的な展開を余儀なくされたことも見逃せない要素だろう。国際市場への展開が進むと、必然的に海外企業との取引の割合が増える。そうなると、国内企業同士の結びつきも弱まる。それまで国内スタンダードに守られてきた業務が、国際スタンダードに向き合わざるを得ない。それは口で言うほど容易なことではない。国際スタンダードに合わせるために、多くの手間と手続きが必要になることもあっただろう。そのため、どうしても品質管理などに割く時間が限定される可能性が高まる。

そうした状況を考えると、わが国企業は90年代初頭以降、厳しい経済環境の下でコストカット、リストラ、生産性向上による収益の確保に追われた結果として、一部の分野でかつての信頼性を維持することができず、“メード・イン・ジャパン”の信頼性を維持できなかったと思われる。

ただ、こうした問題の多くは単に現場の問題ではなく、突き詰めて考えると、企業経営者の経営力の問題に行き着く。多額の粉飾決算は、経営トップが直接に関与していた案件だ。エアバッグの欠陥や検査結果の偽装なども、経営陣がしっかりした経営方針を組織の末端まで浸透させていれば、発生を防ぐことはできたはずだ。それができなかったのは、経営陣の管理能力が十分でなかった証拠であると言わざるを得ない。

ある中小企業の経営者は、「築城3年、落城3日」という話をしてくれた。その言葉が意味することは、企業にとって最も重要な要素の一つは“信用”ということだ。本当に信用してもらえなければ、取引先や顧客との良好な関係を築くことはできない。その信用を築くには長い時間を要するのだが、逆に、何か不祥事があると、信用は簡単に消えてしまう。だからこそ、信用を失うことは、何としてでも避けなければならないというのだ。この指摘は、経営者にとってとても大切だろう。

経営者たるもの、時間を割いて現場とのコミュニケーションを図り、常に現場で何が起きているかを把握する必要がある。現場で無理が生じているのであれば、それが不祥事につながる前に手を打つことが求められる。それが経営者としての役割であるはずだ。

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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