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まちの解体新書 悠久の歴史を今に伝えつつ パンで誘う桃太郎伝説のまち

鬼ノ城(西門):日本百名城の一つ、鬼城山に築城された古代の山城で「桃太郎伝説」の舞台

温暖で豊かな自然に恵まれている“総社”

岡山県総社市は同県南部に位置する人口約7万人のまち。岡山市と倉敷市に隣接し、岡山駅から総社駅までは30分ほど、倉敷駅からは約10分という距離だ。こうしたアクセスの良さから、2018年の転入超過数は549人で中国地方最多である。

また、岡山駅から総社駅までのJR吉備線は、昔話「桃太郎」にまつわる伝説が残る「吉備国(きびのくに)」の中心を走行する路線。16年3月26日から“桃太郎線”という愛称が使用され、今ではすっかり定着している。

「総社市は、温暖でかつ豊かな自然を有している地域です。特に、水に関しては当市の西側を流れる高梁川(たかはしがわ)のお陰で水不足になったことはありません。近隣で水不足が生じても、当市では普段と同じように水を使っています。そのため高梁川は『枯れない川』と言われています」と話すのは、総社商工会議所の清水男(だん)会頭だ。

昨年7月の西日本豪雨では、市域の一部に大きな被害が見られたものの、中心市街地は軽微だった。そうしたことから同市では、甚大な被害があった倉敷市真備町(同市に隣接し、歴史的つながりが深い地域)への復旧支援の拠点として、避難住民の受け入れやボランティア派遣などを行った。

昔の人は、このように自然災害(の影響)が少なく、温暖で水にも恵まれた地域であることを知っていたのか、同市およびその周辺地域には、古代から人々が暮らしていたことを物語る歴史的文化的な資源が数多く残っている。

総社商工会議所 会頭 清水 男 氏

古代地方国家「吉備国」の中心地“総社”

「弥生時代末期から古墳時代にあたる5~6世紀ごろ、この辺りは、古代日本の地方国家の一つである『吉備国』と呼ばれていました。その領土は、現在の岡山県全域と広島県東部(福山市など)、香川県島嶼(とうしょ)部および兵庫県西部(赤穂市の一部など)まで広がっており(伊予国(いよのくに)の一部も含むという説もあり)、大和国(やまとのくに)や出雲国(いずものくに)に並ぶ勢力を誇りました。総社は、その中心地でした」と清水会頭は話す。

「温暖な気候でもあり、稲作先進地でした。また、瀬戸内海沿岸地帯は日照時間に恵まれていたことから製塩業も盛んでした。一方、中国山地から砂鉄が産出されたことで、出雲国とともに重要な産地となりました。その砂鉄は渡来人の知恵と大陸からもたらされた優れた製鉄技術によって、農具や武具に使用されるなど、吉備国が強国に至る原動力にもなりました。この鉄の文化こそ、吉備文化の象徴であり、総社が吉備文化発祥の地と言われる所以(ゆえん)です。また、岡山県が刀剣の生産シェアの45%ほどを占め、全国1位であることは、その名残です」(清水会頭)

「5世紀になると、大和政権(雄略天皇の時代に)は、全国にいくつかある国を臣従させて中央集権を進めるため、吉備国にも『反乱鎮圧』の名目で屈服を迫りました。それに対抗するための戦いを二度起こしましたが、いずれも負けてしまい、ついには大和政権の下に入りました。律令制が敷かれると689年、吉備国は、備前国、備中国、備後国の三カ国に分けられました。713年には備前国が南北に分割され、北側が美作国(みまさかのくに)となりました。これ以降、この四カ国を吉備四国と呼ぶようになり、総社は備中国に属しました」と清水会頭は歴史の変遷を語る。

備中国分寺:聖武天皇の詔で建立された国分寺の一つ。江戸時代に再建

歴史的文化的な資源が、古を今に伝える“総社”

総社は、古墳、古城、寺社などの歴史的文化的な資源が多く、全てを見るには一日では足りない。

全長282mで3段(高さ24m)からなる前方後円墳の「作山(つくりやま)古墳」は、5世紀中ごろの吉備国の有力豪族の墓といわれ、全国で10番目の規模を誇る国指定史跡だ。

「備中国分寺」は奈良時代、聖武天皇の詔(みことのり)により全国に建てられた国分寺の一つ。当時境内には七重塔があったそうだが、南北朝時代に焼失、現在は江戸時代に再建された五重塔が、総社のシンボルとして気品を携え立っている。また周辺のれんげ畑では、春に「吉備路れんげまつり」が開催される。

市内北部にある標高400mほどの鬼城山(きじょうさん)の8、9合目あたりには、日本百名城の一つで国指定史跡の古代の山城「鬼ノ城(きのじょう)」がある。築城の目的は諸説あるが、「白村江の戦に敗れた後、唐、新羅(しらぎ)の侵略に備えて築城されたとする説が有力です。城からは、瀬戸内海まで一望できるため、戦略的にも重要な城であったと思います」と清水会頭は説明する。また「鬼ノ城」は、吉備津彦命(きびつひこのみこと)の温羅(うら)退治(昔話「桃太郎」の原型といわれる温羅伝説)の舞台としても有名だ。

水墨画を大成した、“画聖”雪舟は、総社の生まれ。その雪舟が幼少期に禅宗の僧となるため修行したのが、臨済宗東福寺派中本山の「井山宝福寺」。その方丈には、修行中の雪舟が流した涙でネズミの絵を描いたとされる逸話が残る。修行場は今も残っており、現在では企業研修や訪日外国人(主に中国人)向けの座禅が行われている。

このほか、地名の由来にもなった「総社宮」や「小野小町の墓」などもあり、総社の歴史的文化的な資源はまだまだ尽きない。

また、2018年5月24日、文化庁認定の「日本遺産」に、総社市など4市が共同で申請した「桃太郎伝説の生まれたまち おかやま ~古代吉備の遺産が誘う鬼退治の物語~」が選ばれた。 「この認定で、“桃太郎”が岡山のものになりました」と清水会頭は喜びを隠さない。

スマホで読み取って「So-ja!パンわーるどの歌」にアクセス)

パンを核にまちを盛り上げる“総社”

18年3月15日、日本商工会議所の第127回通常会員総会で総社商工会議所が表彰された。同所の「パンわーるど総社/So-Ja!pan」事業が「事業所支援と地域活性化が連動する事業」として、高く評価されてのことだ。

パンの消費量が京都市、神戸市に次いで全国第3位の岡山市。その岡山市に隣接している総社市の人口1万人当たりのパン屋(パンの製造・販売店舗)の割合は、岡山市とほぼ同じ。1979年、山崎製パンの工場が同市内に開業すると、パンの製造出荷額は県内1位に。こうしたことから、地元タウン誌では総社のことを「パン王国」と紹介している。

「あまり自覚していませんでしたが、身近にパン屋が多いこともあって、パンはよく食べますね。パン食の文化が自然と市民の中に浸透しているようです」と話すのは、本事業の同所担当者だ。

総社には歴史的文化的な資源が多く残っている半面、“これ”というべき「総社ブランド」がないことが、近年の悩みだったという。そこで同所では、市民に浸透しているパン食の文化を生かす新たな事業に着手。同市内に点在しているパン屋を面でつなぎ、情報発信力を強化して「総社ブランド」の確立と地域活性化を図ることを目的に、15年6月、「パンわーるど総社/So-Ja!pan委員会」を組織した。

5人の専門家と9人の委員、10の事業者(パン屋、カフェ、レストランのオーナーなど)で構成された委員会では、総社ならではの独創的なご当地パンづくりのために、あらゆる角度から議論した。その結果、同市内で栽培されている「赤米(あかごめ)」(神事の際に使用するコメのこと。かつては各地で栽培されていたと推察されるが、今では総社のほか、長崎県の対馬と鹿児島県の種子島の3カ所でしか伝承されていない希少性の高い古代米)に着目。その粉を入れた生地を使用することと、その生地でできたパン(ホップオーバー)の中にフルーツあん(白あんにご当地フルーツジュースなどを加えたもの)を入れることをルールとするご当地パン「フルーツシューケーキ」が、同委員会で考案された。

16年度に入ると、本事業に賛同する12店舗は、試作品の製造に取りかかった。16年8月にマスコミ・来賓向けの試作品発表会を、10月に一般の方向けの試食会を、それぞれ開催するといずれも大成功。多くのメディアの注目を集めた。

16年11月、各店舗で完成した商品を一斉に販売すると、たちまち評判となる。翌年(17年)の3月に「イチゴVer(バージョン)」、7月に「アイスパン」、9月に「秋Ver」と、続々に新商品を投入。16年11月から17年9月末までの11カ月間で、1万7000個を販売した。

17年11月12日、発売1周年記念イベント「プレミアム総社パンマルシェ」が「サンロード吉備路」で開催された。市内外の多数の応募者の中から選ばれた約100人に、各店舗の秋の新作が振る舞われた。また、シンガーソングライター・嘉門タツオ氏が作詞作曲した本事業の応援歌「So-ja! パンわーるどの歌」も披露された。

18年度もこの勢いは続く。メディア経験者を広報戦略アドバイザーに迎え、参加店会議を毎月開催する中で、広報戦略などを強化する体制を整備した。その効果はすぐに表れ、テレビでは全国放送のBSフジや地元の瀬戸内海放送、山陽放送、テレビせとうち、ラジオではRSKラジオなどで紹介されると、県外からの来訪者が増加。さらに18年7月に「カルピスパン」、9月に「あまい・からい企画」を投入した効果も加わり、販売数は累計で3万個を超え、直接的経済効果は、事業開始2年間で1億8700万円に達した。

18年11月11日、前年同様に来場者数を100人に限定して開催した販売2周年記念イベントでは、嘉門タツオ氏が応援歌の2番を初披露し、一層の盛り上がりを見せた。また参加各店舗が一押しのパンやスイーツを提供した試食会も大盛況で、本事業の勢いを感じさせるイベントとなった。

「この事業をきっかけに、パンの激戦地“総社”で、あえてパン屋を新規開業する方やこれから開業したいという方から相談が寄せられています。私たちは、パンを目的に総社に来ていただき、パン屋さんと一緒に当市の活性化を図っていきたいと考えています。現状に決して満足せず、新たな発信を続けていきます」と同所担当者は力強く語る。

さらに同所では、地元産品を2品以上使用することなどが条件のホットドッグ「総社ドッグ」と、市内のアサヒ飲料岡山工場(旧カルピス)とコラボしたご当地カクテル「PEACH SOJA」を企画し、目下、市内飲食店で好評販売中だ。「パンわーるど」とともに、同商品の今後の展開にも期待が膨らむ。

また、同所では総社の文化的素地を生かして、岡山県立大学を誘致(1993年開学)したことに加え、現在は、同県の貴重な文化財を保護する観点から新県立博物館の誘致活動に取り組んでいる。吉備国の中心地で、吉備文化発祥の地である“総社”の地域活性化に向けた活動は止まらない。

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