Q 従業員の採用面接に際して、応募者に質問してはいけない事項はありますか。
A 採用面接では、応募者の職務上の能力や技能、従業員としての適格性を判断するために必要な事項について質問をすることができますが、応募者の人格権を不当に侵害する質問などはしてはいけません。具体的には、思想・信条や本人の出生地・本籍地があげられます。
また、健康状態や家族の職業などの質問も、職務上の能力や技能、適格性を判断するうえで職務との関連性がある場合には認められる場合もあります。
採用・調査の自由と限界
使用者は「採用の自由」を有し、その内容の一つとして使用者が応募者の職務上の能力や技能、従業員としての適格性などを判断し、採否を決定するために必要となる情報を収集・確認する「調査の自由」が認められています。
応募者の健康状態などプライバシーに関する事項であっても、職務との関連性が認められる限りで質問できる場合があります。
しかし職務との関連性も無く、プライバシーや人格的尊厳を不当に侵害するような質問については、不法行為として慰謝料請求を受ける可能性もあることに注意が必要です。質問の適否について疑問を持った際には、厚生労働省の「雇用分野における個人情報保護に関するガイドライン」や「公正な採用選考チェックポイント」などを参照して、適切な質問か否かを判断するとよいでしょう。
具体例として、次の4項目についてご説明します。
①思想・信条について
思想信条は、職務上の能力や技能、適格性との関連性が乏しいことから、質問としては不適切と考えられます。
また、面接を行う際には、尊敬する人物や愛読書、人生観など、直接的には思想信条を尋ねるものではないものの、その回答から思想信条を推知できるような事項についてもうかつに質問しないよう注意することが必要です。
②病歴・健康状態について
健康状態は職務遂行に支障を来す恐れがある一方で、個人のプライバシーに深く関わる事項でもあるため、慎重に吟味して質問する必要があります。タクシー運転職や航空機のパイロット職の採用面接で視力を質問することや、医師や看護師の採用時に感染症の有無を聞くことは、職務との関連性が明らかであると考えられるため許容されるでしょう。
また、うつ病など精神疾患については、長期欠勤などの職場規律上の問題や職務上のミス、事故を引き起こす恐れなど職務上の能力や技能、適格性とも密接に関わってくる問題ですから、その範囲で質問することは許容されます。
③出生地・本籍地について
出生地などは職務に関係が無いうえに、社会的な差別を引き起こす恐れがあるため、面接の際に質問することは不適切です。
④その他
体調が優れない家族や入院している家族が居るかという質問は、欠勤や早退、勤務場所の配慮をすることが必要になるなど、職務との関連性が認められる場合には質問が可能です。家族の職業については、基本的に職務との関連性が認められないと考えられますが、家族に自社OBや同業他社の従業員がいないことを採用条件としている場合には、質問することも許容されるでしょう。
なお、不当な質問でない限り、応募者は自己に有利不利を問わず誠実に回答すべき義務を負っているので、応募者が虚偽の回答を行ったために使用者との信頼関係が破壊されれば、使用者は解雇などの措置を講じることができる場合があります。 (弁護士・苧坂 昌宏)
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