Q 当社の社員が、社用の携帯電話に届いたメールに記載されたURLをクリックしたところ、有料サービスの登録がなされ、代金を支払うようにとの表示が画面になされました。このような場合には代金を支払わなければならないのでしょうか。
A このような場合にはクリックが契約の申し込みであると認識してなされたとはいえず、契約の申し込みの意思表示があるとはいえませんので、契約は成立していません。したがって、代金請求の根拠はなく、請求に応じる法的義務はありません。
ワンクリック請求とは
ワンクリック請求とは、携帯電話やパソコンに届いたメールなどに記載されているURLを1度クリックしてアクセスしただけで、有料サービスの登録が完了したなどの画面表示がなされ、当該有料サービスの代金が請求されるというケースです。その多くは、詐欺的手法で金銭をだまし取ることを目的とした、架空請求の一種であるとされています。
ワンクリック請求と契約の成否
ワンクリック請求の場合、当該ワンクリックが契約の申し込みであるといえない場合には、そもそも申し込みの意思表示がないとして、契約は成立しません。「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」では、契約が不成立であると判断できる事例として、単なる宣伝メールを装って特定のURLを表示しているケースや、「契約の申し込みをしますか?」の問いに対して「はい」「いいえ」のボタンはあるが、「いいえ」をクリックしたにもかかわらず自動登録されるケースなどは、契約の申し込みだと認識できないため契約が成立しないと考えられるケースであるとしています。
多くのワンクリック請求はこのように、契約の申し込みであると認識できないことを理由に、契約が成立していないと主張できるものと考えられます。
契約が成立する場合の対応
ワンクリック請求であっても契約が成立してしまう場合も皆無ではないため、その場合の対応について検討します。
例えば、契約を申し込む意思がなかったのに誤って申し込みのボタンをクリックしてしまった場合には、錯誤無効を主張できる可能性があります。錯誤無効の主張には①契約の要素に錯誤があること、②申込者に重過失がないことが民法上は要求されています。もっとも、電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律上の「電子消費者契約」に該当する場合には、事業者側が申込内容の確認措置(例:最終的な申し込みを行う際に、この内容でよいかの確認画面を設けて、確定的な申し込みをする前に申込内容を表示し、そこで訂正する機会を与えることなど)を講じていた場合を除き、申込者の重過失の有無にかかわらず、錯誤無効の主張をすることができます。錯誤無効により契約の無効を主張できる場合には代金請求の根拠がなくなりますので請求に応じる義務はありません。
また、①消費者契約法違反の条項があり当該条項が無効となる場合(例:代金請求に際して高額な遅延損害金が発生する旨が記載されている場合には、消費者契約法9条2号に反しないかが問題となります)や、②契約の内容が公序良俗に反する場合(例:提供されるサービスとその対価が著しくバランスを欠く場合や著作権処理がなされていない画像の販売など取引自体が法律に違反する場合)は無効主張が可能といえます。
そのほか、ワンクリック業者が申込者に対して欺罔(ぎもう)行為を行い、その結果として申込者が錯誤に陥り申し込みの意思表示をした場合には、詐欺による取り消しを主張し得る可能性もありますし、申込者が未成年者である場合には、そのことを理由に取り消しを主張し得る可能性もあります。 (弁護士・佐々木 奏)
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