中小企業のTPP活用術 Vol.3 累積原産地規則を活用

「メイド・イン・TPP」という原産地定義が生まれる

低関税率の適用が可能に

「原産地規則」とは輸出入する貨物の原産地(物品の「国籍」)を決定するためのルールである。TPPにおける「原産地規則及び原産地手続章」では、TPPの特恵関税率を活用して輸出入するための条件・手続きが定められている。

FTA(自由貿易協定)において必ず取り決めがある原産地規則であるが、二国間FTAと違い、複数国間で締結されるTPPのようないわゆる「広域FTA」には、サプライチェーンの見直しにつながる「累積原産地規則」というルールが適用される。これは「原産性」の判断の際に、締約国それぞれの加工工程で生じた付加価値を複数足し上げて(=累積して)計算する考え方だ。

これにより、「メイド・イン・TPP」という原産性を持った産品をつくり上げ、低関税率を適用することが可能になる。この制度を活用することで企業がサプライチェーン設計の自由度を高めることができる。

例えば自動車生産ネットワークにおいて、日本やベトナムで生産した部材の完成車を米国に出荷するサプライチェーンがあったとする。既存のFTAである北米自由貿易協定(NAFTA)に基づき、関税ゼロで米国に出荷するには、製品の原産地が「メイド・イン・NAFTA」であることが認められる必要がある。これには、NAFTA加盟国である米国やメキシコの工場だけで高い付加価値を付ける必要がある。

TPPが発効すると、TPP加盟国である日本やベトナムの工場で付けた付加価値と米国やメキシコの工場で付けた付加価値を合算(累積)できる。これによりTPPで定めた自動車原産地規則の閾値(付加価値55%)を超えれば、「メイド・イン・TPP」という原産性を得てTPPの関税メリットを享受できるのだ。

ツールを使い事前準備

このように太平洋をまたいだ複数の域内国の足し上げ(累積)を可能とするTPPの「累積原産地規則」は付加価値のみならず、生産工程の足し上げにも適用できる。この「累積原産地規則」により、日本国内に高度な基幹部品の開発・生産をとどめた形で米国向け製品のサプライチェーンを最適化したり、同じくTPP域内のメキシコやベトナム・マレーシア生産拠点の戦略的位置付けが高まることにつながる。

企業のサプライチェーン戦略を大きく左右する「累積原産地規則」であるが、これまでルールの難解さからあまり理解を得てこなかった。TPP利用促進のため、デロイトトーマツコンサルティングはTPPに関して累積原産地規則を用いた貨物の原産性の判定ができるWebベースのTPP原産地証明支援サイト(https://www.tpp-shoumei.jp/)を無償提供している。

今後は「累積原産地規則」の扱いによって、各企業のサプライチェーン戦略に差が出てくるため、このようなツールを活用し、TPP発効前の段階から準備しておくことが望ましい。

(佐々木栄二・デロイトトーマツコンサルティング シニアコンサルタント)

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