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まちの解体新書 明るく開放的な気質で進化する 「山陰の商都」

国指定史跡・米子城跡の天守台からは西伯耆を一望できる

市街地と郊外が融合する暮らしやすいまち

鳥取県の西の玄関口にあたる米子市。8月上旬、空路で東京から米子へと向かった。米子鬼太郎空港に降り立つと、機内に預けた荷物の受け取りターンテーブルに乗っている目玉おやじなど、ゲゲゲの鬼太郎の仲間たちがまず出迎えてくれた。まちなかにはゲゲゲの鬼太郎のラッピング列車やバスが走る。市内を歩くと、中国地方最高峰の大山(だいせん)がひょっこり顔を現し、こんな近くにくっきり見えることに驚く。夜、ホテルの窓から外をのぞくと、期間限定でライトアップされている米子城跡の石垣が目に入り、おごそかな気分になる。

米子市は、鳥取県の西部、山陰のほぼ中央に位置している。南東に大山、北に日本海、西にコハクチョウ渡来南限地でラムサール条約登録の中海に面する、豊かな自然に恵まれたまちである。

市の大半は平坦な地形で、東にある標高751・4mの孝霊山(こうれいさん)とそれに連なる大山の山すそ、また南部に標高100mほどの山が点在する程度だ。その一帯には、大山や中国山地に源を発する日野川のほか、法勝寺川、佐陀川、宇田川などが流れ、日本海へと注いでいる。

日本海に面して、海に湯が湧く皆生(かいけ)温泉は、「トライアスロン日本発祥の地」である。1981年から毎年開催している「全日本トライアスロン皆生大会」には全国から鉄人が集結し、過酷な熱いレースが繰り広げられている。

また、四季を通じて海水浴、登山、サイクリング、スキーなど、日常生活の中でレジャーを楽しめる。日本海に面した弓ヶ浜海岸は「キス釣りの聖地」として知られており、毎年7月に投げ釣りの全国大会が開催されるほどだ。また皆生温泉に近接して、潮風と青松に包まれたシーサイドコース、米子ゴルフ場があり、気軽にゴルフを楽しむこともできる。

レジャーのほかにも、米子城跡や飛鳥時代後期の遺跡、上淀廃寺跡(かみよどはいじあと)、彫刻ロードなど見どころが数多くある。普段の生活の中に歴史や文化、芸術を身近に感じることができるのも魅力だ。

大山山麓の地下水を原水とする水道水は、ブナ原生林の豊かな土壌に育まれてミネラルを適度に含んでいる。それをペットボトルに詰めた「よなごの水」は、まろやかでのどごしがよく、名水として認知されている。

米子市の特色としては、鳥取大学医学部付属病院をはじめ医療機関が充実していることが挙げられ、高齢者にも子育て世帯にもやさしい環境が整っている。企業、商店などが集積する市街地と住宅地や農地がある郊外など、同じ市内でも地域により特徴があり、それらがうまく融合している暮らしやすいまちといえる。

米子商工会議所 会頭 坂口 清太郎 氏

「受け入れる」寛容な人間性が誇り

米子市は、山陰本線・伯備線・境線といった三つの鉄路、米子道・山陰道が通る。道路、鉄道、空港などの利便性が高く、古くから地域の交通結節点、宿泊拠点、人の行き来が盛んな「山陰の商都」として栄えてきた。

交通の要衝、豊かな自然環境など、米子の良いところを挙げればきりがないが、米子商工会議所の坂口清太郎会頭は「寛容な人間性」が米子の最も優れた点だと胸を張る。「米子の人はほかから来た人たちを排除せず受け入れる、オープンな心を持っていると思います。これは自慢できる点です。実際、転勤してきた人のほとんどが『米子は住みやすい』『受け入れてもらえる』『仕事がしやすい』『なじめる』と言ってくれます」と続ける。

この、明るく開放的で、外からの移住者を快く受け入れる米子市民の気質は、商業を中心に発展してきたことに関係がありそうだ。

関ヶ原の戦いの後、駿河国から伯耆(ほうき)国18万石へと移封された中村一忠が、米子城を築城するにあたり、全国から優れた商人や職人を呼び寄せ、「城下十八万石」といわれるまち並みをつくった。これが、今の米子市の原形といわれている。

家老の横田内膳は、加茂川を整備して外堀にし、また九つの寺を約400mにわたって並べ、城の要塞とした。ところが、若くして一忠が亡くなり中村家が断絶したために、1632年に岡山の池田家が鳥取藩主となり、米子城は家老の荒尾成利が預かることとなった。以降、米子の商人たちは、さまざまな形で厳しい取り立てを受けた。

その半面、米子は殿様のいない城下町となり、また関所が設けられていなかったことから、外部との出入りが比較的自由にできるようになった。

これらの条件から、自由闊達(かったつ)でおおらかな米子の人たちの独特な進取な気質が育まれてきたともいえる。

2018年2月にメディカルジャパン2018大阪を視察

皆生温泉で夏期に観光事業の実証実験

米子商工会議所は、⑴地域企業の持続的発展と地域特性を生かす産業創出、⑵地域資源を生かした魅力あるまちづくりとにぎわいの創出、の2本柱を事業として取り組んでいる。⑵の一つである観光振興では、広域観光連携事業や圏域DMOを活用したインバウンド誘客事業、伯耆国「大山開山1300年祭事業」、地域資源を活用した観光事業などを推進している。

商工会議所は今夏、地域資源を活用した観光事業として、皆生温泉で12日間にわたり実証実験「CATCH The STAR 星取県 プラネタリウムin 皆生温泉」を行った。地域資源は温泉と星空。皆生温泉も、団体客から個人客へと形態が変化しており、夜も安心して家族や友人らと温泉街をそぞろ歩きしてもらいたいと企画された。

皆生温泉・観光センターに期間限定でつくられた室内型ドームで見るプラネタリウムでは一日に6回、多い日には9回、20分間上映されていたが、どの回もほぼ満員だった。取材した回では、その日の数時間前の星空がドーム内に再現されていた。こと座のベガ、わし座のアルタイル、はくちょう座のデネブで構成される夏の大三角などの星に関する解説を聞きながら、大人も子どもも寝そべったり、体育座りをしたり、思い思いの姿勢で見入っていた。終了後には「小学校の教科書に載っていた星だったよ」「空にはこんなにたくさん星があるんだね」といった、満足げな感想が聞こえてきた。

「星取県」になった鳥取県。どの市町村からも天の川が見え、流星群の時期でなくても流れ星が見えやすい。夜空を見上げれば星に手が届きそうだ。そんな鳥取県を多くの人にもっと堪能してほしいという思いを込めて「星取県」を名乗っている。

着実に成果を上げる広域での「医工連携」

商工会議所の取り組みの柱、⑴地域企業の持続的発展と地域特性を生かす産業創出について、坂口会頭は「人口を維持するには産業が不可欠で、地域の発展にはそのエンジンとなるものが必要。今ある資源を生かし、産業化することこそ、ほかとの差別化にもなる」と考えている。その代表的なのが「医工連携」だ。

中海・宍道湖・大山圏域には二つの国立大学(島根大学、鳥取大学の医学部付属病院)をはじめとする高度な医療技術を持つ医療機関が立地する。一方、同圏域には、多くの高度な技術を有するものづくり企業もある。このため、これらの高いポテンシャルを生かし、産業振興や雇用創出による若者定住などにつなげ、圏域市長会が掲げる「圏域人口60万人維持」の実現を目的に、2017年10月、「中海・宍道湖・大山圏域産学・医工連携推進協議会」を設立した。協議会のメンバーは圏域の出雲、松江、安来、境港、米子の5市と、商工団体や国立大学、高専、支援・研究機関の14団体で、米子商工会議所が事務局を務めている。

同協議会では、医工連携に関するセミナーや勉強会、視察研修会などを行い、圏域内の医工連携の周知・推進に努めている。また、医療機器開発・事業化および医療機器開発への参入を考える企業や大学などへの情報提供を行うとともに、協議会に設置する「医工連携コンシェルジュ」を中心に、医療機器のニーズ調査から製造・販売までの各段階での諸課題に対する解決を目指している。

具体的には、大学や医療機関からのニーズの収集、ニーズに基づく医療器具などの製造への協力者を探し、マッチングを行うとともにマーケティングを実施する。医工連携に参入したい企業には、マーケティングに基づく開発・製造・特許申請などの計画策定、試作品開発、各種試験および製造・販売に向けた許可・登録申請、販路開拓など、各段階に応じて個別相談やサポートを行っている。このようなきめ細かい対応が奏功して、胃がん検診制度向上のための胃の前壁撮影用まくら「胃makra」が商品化されるなど、着実に成果を上げている。 坂口会頭は「医工連携」に手応えを感じ、「医療機関と企業のそれぞれのニーズを商工会議所が橋渡しをするなど、各関係者が強みを発揮することで新産業を創出していきたい」と意欲を示す。

完成が待たれるクラフトビール「475(よなご)ビール」

市民が新しいことに挑戦できる風土も

米子は、新しいことにチャレンジする人にも適した風土のようだ。それを感じさせるのが、市内の空きビルを改装したという、秘密基地のような建物から出てきた落合拡朗(ひろほ)さんで、熱い思いを秘めて新たなことに挑戦する一人だ。

市内でカフェや洋服店などを経営する会社「THINK&CO.」代表取締役の落合さん。「わざわざお客さんに足を運んでもらえるものは何か、米子を代表するものをつくれないか自問し、たどり着いたのがクラフトビールだった」と振り返る。各地のクラフトビールを取り寄せる中、島根県江津市のクラフトビール製造会社「石見麦酒」に出合ったという。ビールづくりのノウハウを「石見麦酒」から学び、自家醸造を決意。今年3月に念願の製造免許を取得した。

取材時、とことん納得のいく味を追求しようと米子髙島屋に試作品を提供して改良を重ねたり、より多くの人に味わってもらおうと瓶での販売を視野にクラウドファンディングで瓶詰め機の購入資金を募ったりと、クラフトビール醸造所の開業に向けて着々と準備を進めていた。近々、県産の原材料を使った「475(よなご)ビール」が完成する予定だ。

米子は他の地域からの人たちを寛容に受け入れる気質とともに、失敗を恐れず果敢に挑戦できる風土でもある。訪問者にも市民にも変わらず温かいまち、米子にまた新しい風が吹く。

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