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真壁昭夫の経済底流を読み解く 大型M&Aに見るアニマルスピリッツ変革への貪欲さが生き残りを決める

1月中旬、わが国を代表する大手食品メーカーであるサントリーは、米国最大の蒸留酒メーカーであるビーム社を160億ドル(約1兆6500億円)で買収すると発表した。その他にも、ソフトバンクが米国大手通信企業、JTが英国大手企業など、近年わが国企業が海外の大企業を買収する案件が増えている。

大型M&Aの背景の一つに、人口減少・少子高齢化などによる国内マーケットの限界がある。国内市場に固執していると、在来分野の企業はジリ貧になる可能性が高い。そうしたリスクを回避するため、企業経営者たちは生き残りをかけて世界市場で勝負することを選択したのだ。

世界市場の激烈な競争に参入すれば、大きなリスクを背負うことになる。それでも、リスクを取って企業の成長を目指す。そうした経営者には、成長や発展を志向する人間が本源的に持つ精神=アニマルスピリッツがあるのだろう。

企業は基本的に、現在に安住することはできない。常に変革=イノベーションを心がけて発展させていく必要がある。新しい製品、新しい顧客、新しい製造方法、新しい原材料を求めて、いつでもイノベーションに対する貪欲さを持たなければならない。

特定の製品を扱って高収益を上げている企業であるとしても、その高収益を狙ってライバルが参入してくる可能性がある。そのライバルが次第に実力をつけると、競争に負けてしまうかもしれない。

企業の実力を高めるためには、どこかでそれなりのリスクを取り、成長していくことが必要になる。どれだけのリスクを、どのような局面で取るか。それを決めるのは経営者だ。そのため、経営者に求められる資質の中には、企業を変革し、成長させようとするアニマルスピリッツが含まれている。

わが国の多くの経営者は、1990年代初頭のバブル崩壊以降、守りを重視するあまり、リスクを減らす〝専守防衛型〟の行動を取るケースが多かった。確かに、バブル崩壊直後の時期には、そうした行動にはそれなりに合理性があっただろう。

しかし、それから20年以上の時間が流れ、その間、わが国企業の財務体質はかなり強化された。海外企業と比較しても、相対的に多くの経営資源=人・モノ・カネを持っている。今までは、その経営資源をあまり使わずに温存してきた。その象徴として、多額の手元資金を保有している。

現在の政権は、強力な金融緩和策によって潤沢な資金を供給している。それはある意味では、経営者にアニマルスピリッツを思い出させるきっかけを与えているといえる。そうした状況を生かして、いくつかの大企業は大型M&Aを行い、世界市場で勝負することを選択した。そこにはそれなりの意味があるはずだ。

今後、そうした動きがさらに活発になると、わが国経済の先行きも一段と明るさを増すことになるだろう。アップルのように、ベンチャー企業から世界屈指の大企業に育つサクセスストーリーが再現できるかもしれない。

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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