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真壁昭夫の経済底流を読み解く TPP交渉とわが国を取り巻く状況各国の立場を理解し、国益を考えた主張を

昨年12月半ばに行われたTPP(環太平洋パートナーシップ協定)交渉の閣僚会議では、関税や知的財産権などをめぐり各国が対立。当初の目標であった2013年中の合意を断念することになった。会議の展開を見ると、米国が初めから強気な印象だった。オバマ政権には、自国の利益を優先することを国民にアピールする思惑があったのだろう。

一方、アジア諸国の中には、米国の主張に真っ向から反対する姿勢があった。APEC首脳会議のオバマ大統領の突然の出席中止や、中国の台頭などさまざまな要素が絡んでいると見られるが、アジアにおける米国の存在感が低下していることも確かだ。わが国の安全保障や外交にも大きな影響が及ぶため、冷静に考える必要がある。

TPP交渉の妥結を阻んだ主な対立点は3つ。1つは、関税撤廃の問題だ。わが国は米、牛肉・豚肉、小麦、乳製品、砂糖の農産品5項目に関して、今まで通り関税撤廃に反対した。しかし、米国やオーストラリア、シンガポールなどは、原則全品の関税撤廃、例外措置として猶予期間を設けることで対応すべきとの立場をとり、交渉はまとまらなかった。

また、自動車の対日輸出を増やしたい米国は安全や環境の基準緩和を厳しく迫ってきたが、対米輸出車に関税が課されているためわが国も簡単に譲歩するわけにはいかず、平行線をたどることになった。

2つ目は、知的財産権の問題だ。特許権や著作権などの保護強化を目指す米国にベトナムやマレーシアが反対し、妥協点を見いだせなかった。特に、新薬の特許権保護期間の延長を目指す米国と、それに反対する諸国との溝は大きかった。

そして、3つ目は国有企業の扱いだ。優遇措置の制限を主張する米国に対し、国有企業を重要とするマレーシアなどが反対。合意には至らなかった。

どの国も自国の利益を優先するのは当然だ。しかし、「世界のトップに君臨する米国には覇権国としての度量がある」とわれわれが思いがちのその米国も、自国の利益を優先することを忘れてはいけない。中・長期的に利益に結びつくことにはコストを厭わないが、利益に反することにはシビアな国である。

さらに、中国の台頭にも注意すべきだ。今後、世界屈指の消費地となることが期待されているが、同時に近年、軍事力の増強も際立ち、近隣各国との領土紛争も起きている。一党独裁制度の下で多民族を抱え、社会制度などに大きな矛盾を抱えている中国は、国民の意識を外に向けるために対外的に強い姿勢をとる必要があるのだ。

現在の中国と米国は、経済的に強く依存している。米国はこれからも〝大人の外交〟関係を維持したい考えだろう。TPPは中国包囲網の重要なファクターなのだ。

米国では秋に中間選挙がある。支持率が低迷しているオバマ大統領としては、それまでに何とか得点を稼ぎたいはずだ。わが国はそうした状況を十分に理解して、〝国益〟を考えた主張を堂々とすべきだ。国際政治学者の友人が「国際社会の中で自分以外に頼れる人はいないと思った方がよい」と言っていた。その通りかもしれない。

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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