わが国経済は、アベノミクスの成果により総じて緩やかに改善し、デフレ脱却まであと一歩となっている。
新内閣は「成長する経済」の実現と、国民や企業の中に漂う将来不安の払しょくに向けて、構造改革を断行し、その成果により、国民の負託に応えることが重要である。一部の人には痛みを伴う政策でも、丁寧な説明とオープンな議論により国民の総意を形づくり、改革を断行することが責務である。
わが国経済の最重要課題は、1%程度に過ぎない潜在成長率を引き上げるサプライサイド政策である。長くマイナスで推移してきた需給ギャップが2016年10~12月期以降プラスに転じるなど、供給力の制約が経済成長のボトルネックになりつつある。
特に、有効求人倍率が1・52とバブル期の水準を超え、中小企業では人手不足の克服が、直面する最大の課題となっている。アベノミクスをさらに推し進め、労働力と資本を増やすとともに、生産性を大幅に向上させる必要がある。
また、疲弊した地方を再生する地方創生の加速と、地域の活力低下の根本的な原因である人口減少対策にも、同時に取り組むことが重要である。
さらに、熊本地震など東日本大震災以降も多発・激甚化する災害の復興、福島再生への継続的な支援も求められる。
これらの基本的な考え方の下、新内閣におかれては、以下の政策課題に早急かつ集中的に取り組まれたい。言うまでもなく、経済成長の主役は民間企業であり、経営者自らがデフレマインドを払しょくし積極的な経営姿勢に転じることが、経済の好循環をもたらし日本経済再生と地方創生の実現につながると考える。商工会議所としても、日本経済再生と地方創生の実現に向け、自ら行動するとともに、政府に対し最大限の協力を行う所存である。
1.人手不足の克服に向けたサプライサイド強化型の成長戦略の実行
わが国に求められる経済政策が需要創出型からサプライサイド強化型に移行しつつあることを踏まえ、政府は、潜在成長力強化の主体である企業活動を後押しする環境整備を迅速かつ強力に進めていただきたい。
深刻化する人手不足の克服には、女性や高齢者など多様な人材の活躍に向けた方策の検討・実行や、現場の実態を十分に踏まえた働き方改革の推進が必要である。特に、外国人材の受け入れについては、内外の環境変化に対応した、より「開かれた受け入れ体制」を構築すべきである。併せて、地方の中小企業からは最低賃金の上昇に苦慮する声が強いことから、賃金を円滑に底上げするための、生産性向上や取引条件の適正化に向けた取り組みを後押しすることが重要である。
また、ロボット、IoT、人工知能の活用支援など、未来投資戦略の着実な推進による生産性向上が必要である。技術革新による利便が、中小企業・小規模事業者などを含め社会全体に行き渡るよう、分かりやすく、気付きを促すことが重要である。
加えて、保護主義的な貿易・投資政策が広がりを見せる中で、大枠合意した日EU・EPA、11カ国でのTPPの早期発効にわが国が主導的な役割を果たすべきである。
2.地方創生の加速化とその主役となる中小・中堅企業の活力強化
地方・小都市ほど、人口減少が続き、企業の業況感の回復も遅れている。アベノミクスの成果を全国津々浦々で実感することができるよう、地方創生を急ぐべきである。 地方創生を加速化する鍵は、多様な連携による地域の資源や強みの徹底的な活用である。自治体と経済界、地域間の連携を深め、観光・農林水産資源の活用、地域中小企業の製品・サービスの高付加価値化を推進するとともに、交流人口拡大・投資誘発・防災などに資するストック効果を重視した社会資本整備が必要である。
また、地方を元気にするためには、その主役である中小・中堅企業の活力強化が不可欠である。中小企業数は、廃業を主因に過去5年で約40万社減少した。廃業企業の半数は黒字であり、後継者難の解消が喫緊の課題である。円滑な承継を可能とする諸外国並みの事業承継税制の確立、早期・計画的な事業承継の取り組みの後押し、さらには、いまだ5%程度と国際的に低い水準に止まる開業率の引き上げに向け、創業・第二創業支援が重要である。
加えて、2020年東京オリンピック・パラリンピックの経済効果を地方・中小企業に一層波及させる取り組みが必要である。大阪・関西における2025年国際博覧会の誘致も強力に推進すべきである。
3.社会保障制度改革の断行による将来不安の払しょく、財政健全化の推進
わが国の財政状況は厳しさを増しており、現実的な想定の下に財政再建への道筋を明らかにし、着実に実行することが不可欠である。
その際、歳出の柱である社会保障給付の重点化や効率化の徹底のみならず、高齢者の応能負担割合を高めるなどの改革によって、高齢世代から現役・子育て世代への大胆な資源の再配分が必要である。同時に、教育の無償化については、財政状況を踏まえ、その範囲を慎重に考えるべきであり、仮に、財源として消費税の増収分を使わざるを得ないのであれば、軽減税率の導入を見送るべきである。 (11月2日)
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