まちの解体新書 躍動感あふれる モータースポーツ都市

8時間耐久ロードレース。「8耐」の愛称で知られ、ライダーはもちろん、全国のバイクファンあこがれの二輪耐久レースだ

二輪の8耐・四輪のF1

鈴鹿市は、三重県北部に位置し、東の伊勢湾から西の鈴鹿山脈まで多様な地勢である。江戸時代には東海道・表参宮街道の宿場町として繁栄。戦中は海軍基地・工廠(こうしょう)を擁する軍都であった。戦後、旧軍用施設跡地に産業を誘致し、交通の利便性や立地条件の良さを生かしながら、現在は三重県下で第2位の工業都市となっている。

昭和35年に本田技研工業鈴鹿製作所が創設されて以来、自動二輪車や自動四輪車を製造し発展を遂げてきた。37年には日本初の本格的サーキットである鈴鹿サーキットを創設。F1日本グランプリや鈴鹿8時間耐久ロードレース(8耐)などの国際的なモータースポーツイベントの開催地として世界的な知名度を誇る。まさに鈴鹿サーキットは、日本のモータースポーツ発祥の地であり、モータースポーツ文化を育んできた聖地といえる。

同市には食料品産業やプラスチック産業、電子機器産業など、日本を代表する大企業が操業している。中でも本田技研工業鈴鹿製作所をはじめとする輸送用機械製造業が市内製造品出荷高の約7割を占めており、名実ともに同市は「自動車のまち」である。

3つの地区に分散しそれぞれで発展を遂げる

鈴鹿市観光協会会長でもある鈴鹿商工会議所の山本忠之会頭はまちの魅力についてこう話す。

「故・本田宗一郎氏は〝鈴鹿の道は世界へ通ず〟という言葉を残しています。観光地としてはF1、8耐が開催される鈴鹿サーキットが有名で、観光客が年間300万人以上訪れます。F1の知名度のおかげで、海外に行き日本のどこから来たと尋ねられ『鈴鹿』と回答すると通じますね。当市には本田技研工業、旭化成やAGFなどさまざまな業種の企業が立地しています。この環境を生かし産業観光で地元企業への集客を図りたいと考えています。また、地元の企業が何をつくっているかを知ってもらうことで市民に地元企業へ興味を持っていただきたいですね」

同市は市街地がほど良く分散しているため、訪れた人々は人口が20万人規模の国際観光都市という印象を持たないケースが多いという。

「鈴鹿市は人口が白子(しらこ)・神戸(かんべ)・平田の3つの地区に分散しています。白子は宿場町として発展、神戸は行政・城下町、平田は海軍工廠の跡地を活用した工業誘致とそれぞれ発達してきました。三地域が一つになるのではなく、それぞれが地域特性をもって発達してきたのです。また、車社会ということもあり、人口の割に外を歩いている人はあまり見かけません。3つの地区に分散していますが、これをつないだらより魅力的な都市になるでしょう」(山本会頭)

同市は新名神高速道路、東名阪自動車道、伊勢自動車道など道路網が発達しているが、これらの高速道路網と鈴鹿市街地を結ぶ道路(鈴鹿亀山道路)の整備が遅れていることが課題となっている。そこで、同所が中心となってアクセス改善の要望活動を展開中だ。魅力あふれるまちづくりとともに、利便性向上による活力強化を目指している。

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モータースポーツ都市へ仏ル・マン市を手本に

自動車工場があることなどが縁で、同市とフランスのル・マン市は友好都市になっている。ル・マン市には24時間耐久レースが開催されるサルト・サーキットとルノーの自動車工場があり、人口は20万人程度だ。鈴鹿市と置かれた状況が似た都市である。ル・マン商工会議所は24時間耐久レースを観光の柱にしたいということで、市民広場にモニュメントとその年の優勝者の手型を残している。

「F1の場合は国際自動車連盟(FIA)の承認を貰(もら)わないとF1に関するさまざまなことができないという制約があります。そこで、鈴鹿でもル・マン市と同じことをやろうと、許可をもらいました。モズレー会長(当時)からはレースを開催しているどの都市からもそんな要望はなかったと驚かれました」(山本会頭)

同所などの活動が実り、昨年9月に鈴鹿市の玄関口である近鉄白子駅前にその年のF1レース表彰ドライバーの手型プレートなどを設置。世界各国の報道陣を集め、「モータースポーツ都市・鈴鹿」の名を世界に発信した。

また、予選の際には、各チームとも鈴鹿市の小中学生の見学を受け入れているほか、レース期間中は同所を中心にさまざまな関連イベントを実施。市民総出で来場者のおもてなしを行っている。

「ただ、レース開催の際には宿泊施設が足りなくて困っています。ル・マンでもレース時の宿泊施設は満室でTGV(フランスの高速鉄道)で1時間離れたパリに宿泊するそうです。F1のマシンもまちを走らせたいのですが、車番がないなど制約があり公道を走らせることができません。ル・マンでは、車番をとったマシンにレース会場までの5〜6㎞の距離を走らせています。鈴鹿でも実現できたら盛り上がるでしょうね」(山本会頭)

同所では「モータースポーツ都市宣言」をした同市の活性化を目指して、レースでおなじみのチェッカーフラッグをあしらった交通安全ステッカーやのぼり旗を作成。会員企業に利用を呼び掛けている。一般向けにもピンバッジやステッカーを販売。これは、鈴鹿を訪れた人たちに「鈴鹿の風」を感じてもらうのが狙いだ。

同所青年部もモータースポーツのまちを盛り上げるために市内協賛店の割引サービスなどが受けられる「Fツイ割」など多彩な応援イベントを展開。特に前夜祭として開催するエンジンなどの動力を持たずに坂道などの傾斜を利用して進むクルマ〝ボックスカート〟の順位を競う「鈴鹿ボックスカートグランプリ」は恒例の人気イベントとして定着している。

また。F1日本グランプリと並ぶ夏のビッグイベント「鈴鹿8耐」開催時には、平成11年から全国のバイク愛好家ら約1000台で市街地とサーキットを走る「バイクであいたい交通安全パレード」を毎年実施。関連イベントも含め、「バイクの聖地」としてのアピールも続けている。

鈴鹿出身の大黒屋光太夫(1751~1828)。江戸時代にロシアに漂流し、西洋文化を経験して帰国した日本人。井上靖の小説『おろしや国酔夢譚』ではその波乱に満ちた生涯が描かれた

産学官連携で新たな可能性を探る

鈴鹿のもう一つの顔が「工業のまち」だ。国内有数の有力企業の集積地である強みを生かし、同所ではSUZUKA産学官交流会を平成11年からスタートした。企業、教育機関、行政・支援機関の交流を促進し、新たな製品、技術、サービス、マーケティングなどの開発を目的としている。

この交流会には現在、100社近くのものづくり企業が参加。鈴鹿工業高等専門学校、鈴鹿医療科学大学、鈴鹿大学、鈴鹿短期大学、三重大学が加入している。研究者との技術相談や協同研究開発や支援情報の提供など幅広い人的ネットワークの形成に役立っている。

また、農林水産業をテーマとした新たな「産学連携+農林水産連携」を推進するため鈴鹿市漁業協同組合、鈴鹿農業協同組合、鈴鹿森林組合も加入することになった。交流会では、農林水産業のニーズ・シーズを把握し、新たな共同研究を展開。「鈴鹿発」の新技術・商品の開発も期待されている。

市内にある業種が異なる大手企業で組織される「鈴鹿工業クラブ」もユニークな活動で成果をあげている。チャレンジ発表会と称して各社の発表会を行っているがこれが大盛況だという。異業種の集まりのため、参加者は自分の専門外の情報が手に入り仕事のヒントを得ているそうだ。

「こうしたつながりで新しいモノづくりに取り組む気概が生まれています。モノづくりについては常に新しい挑戦が進歩の第一歩を生むのです」(山本会頭)

茶畑。同市の西部地域は「黒ぼく」という茶栽培に適した土壌で、主に煎茶・かぶせ茶が生産されている

鈴鹿ブランドでまちの魅力をPR

同所では、モノづくりを切り口とした観光産業の集客事業にも力を入れている。その取り組みの一つが「鈴鹿ブランド」だ。

鈴鹿でつくられた商品の中でも特に鈴鹿のイメージが商品に反映されており、素材の持ち味、鈴鹿に伝わる伝統・味や製法など「鈴鹿らしい」と評価された逸品に「鈴鹿ブランド」の称号を与え、市内外に紹介している。鈴鹿市の観光振興を目的として、学識経験者や地元の観光関係者で構成される「観光・集客特別委員会の鈴鹿ブランド認定委員会」で審議され同所と鈴鹿市観光協会が認定推奨する名産品は、現在29品。認定した商品は、地元紙や、全戸配布の同市の広報誌に掲載するほか、金融機関と連携した商品展示や、試食販売会、商品認知度調査を実施し、「鈴鹿ブランド」のアピールに努めている。

また、新たなご当地グルメとして地元食材を使用した「鈴カレー」を考案。同所と市内飲食店が連携し、各店自慢のオリジナルカレー料理を売り出している。人気店舗を投票で決める「鈴カレーグランプリ」や登録店舗を食べ歩く「鈴カレースタンプラリー」などを実施。「食」をテーマに観光客などの誘致を図り、地域の活性化を目指している。

設立70周年を迎えさらなる飛躍へ

同所は来年設立70周年を迎える。その記念の年を控え山本会頭は意気込みを語る。

「商工会議所の会員数の増加を図り組織力の強化を図りたいですね。まちづくりに商工会議所の会員は巻き込んでいますが、市民はまだ巻き込めていません。地元企業の工場見学会などを通じて少しでも市民のまちづくりへの参加意識を高めていきたいと考えています。企業・団体はものづくりという部分で連携が取れています。あとは市民をどう巻き込んで行くかだと思います。また、鈴鹿の地に住んで働いていただける方を少しでも増やしていきたいです。そして、100周年に向かってさらに成長していきたいですね」 産学官の連携を図り、8耐、F1という観光の目玉を持つ同市。まちの活性化には市民の後押しが不可欠だ。

「鈴鹿市は海から山まで調和のとれたまちですが、まちづくりでいえばコンパクトシティーを目指していかなければいけません。そのためにも地域としての一体感を高めることが重要です。地域が元気であればまちは活性化していくと思います。また、世代交代は避けて通れません。青年部、女性部の経験者を商工会議所の議員などに登用して、新たに活性化に挑戦していく商工会議所であり続けたい。これから少しでもお世話になった鈴鹿に恩返しがしたいです」と山本会頭は前を見た。

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