人生の曲がり角に差し掛かる度に、人間は新たに目標を立て直します。
私もそうでした。若い頃は、偉くならなくてもいいから数学者になって、アインシュタインの特殊相対性理論の研究や、数学上の未解決問題を解くことに挑戦し続ける人生を送りたいと思っていました。しかし、大学院2年の時に、実家の家具店が火事を出し、ディスカウントストアとして再出発する折に「再建にはお前の協力が必要だ」と親父に両手をつかれ、その目標は消えました。大学院を中退した私は、実家の商売に没頭し、10年目には年商60億円、20年目で200億円、上場して30年目には2000億円企業にするという新しい目標を立てました。親父も最初は私の目標を喜んでくれていました。しかし、60億を8年目で達成し、新たな店を出そうとした際、突然、親父に猛反対されたのです。火事騒ぎの後、近隣への賠償問題と再建合意に苦労し、マイナスから始めた商売がうまくいき安定した時点で、彼の人生の目標は達成したのでしょう。苦労続きの人生で、やっと安堵(あんど)した親父の心理を、今の私は想像できます。しかし30代の私には、本気で夢に向かって突進している時で、エネルギーは収まりません。親父は何度も私を説得しましたが、「研究者としての夢を諦めさせておいて、またビジネスの夢まで取り上げるのか!」と私は反論します。最後には親子げんかで終わる、そんな暮らしが数年続いたあげく、私は実家を出ました。
目標はゼロになり、実家でしか働いたことが無い私には、同じ商売しか思いつきませんでしたが、ビジネスを勉強したいという気持ちから、ある人の紹介で現在の船井総研に中途入社します。その場所で一番の売り上げを立てることが私の目標になり、休みも取らず働きました。すると頑張っているうちに道が開け、役員、社長となると今度は、会社を良く、社員を幸せにすることが目標になり、瞬く間に時間が過ぎました。そして会長を退任後、現在の会社のことだけが目標になり、日々励む毎日です。
今回は自分自身のことをたくさん書きましたが、皆さんも己の目標の変遷について、考えてみてください。目標というものは、その時々で変わらざるを得ないのです。ましてや日々時流に揉まれている企業の目標は、刻一刻変わっていてもおかしくありません。『目標の再検討』は本誌7月号にも書きましたが、ご自分の人生を顧みると、何度も再検討してきたことがよく分かると思います。
マイナス要因や不景気を織り込んだ企業の中期、長期の計画を、今一度考えてみてください。その時間が、組織や社員に内なる強さを生むと私は感じています。
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担当:髙橋
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