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真壁昭夫の経済底流を読み解く 近づくキャッシュレス社会の到来

8月下旬、米IT大手アマゾンは、わが国でQR(Quick Response)コードを用いた決済事業に参入した。QRコードとは、白黒の正方形=セルの組み合わせによって利用者に関する情報などを表し、高速に読み取ることを可能とした通信技術をいう。QRコード決済は現金を使わずに買い物代金の支払いなどを行う“キャッシュレス決済”の代表的な手法だ。すでに、世界第2位の経済規模を誇る中国では、QRコードを用いたモバイル決済(スマートフォンなどによる資金決済)が社会全体に普及している。洋の東西を問わず、キャッシュレス決済は世界的なブームといえる。わが国でも大手金融機関や、NTTドコモなどの通信企業、ヤフーなどのIT企業がQRコード決済事業に取り組んでいる。

キャッシュレス決済とは、現金(紙幣、硬貨)を用いずに資金の決済をすることをいう。その方法には非接触型の通信技術、NFC(Near Field Communication)を用いる方法、QRコード決済などがある。これまで、わが国では現金を使って買い物をすることが普通だった。しかし、海外ではこの常識が通用しづらい。コンビニでの買い物代金の支払いからサイクルシェアの利用まで、スマートフォンのアプリを用いて(現金を使わずに)実行することが増えている。現金の利用にはさまざまなコストが発生する。金融機関は現金の流通に備えて保管場所(金庫)を設置しなければならない。ニセ札の流通を防ぐにもコストがかかる。店舗は、つり銭などのために高額紙幣を硬貨に両替したり、レジにも人員を配置しなければならない。レジの現金残高の確認は多くの企業が時間を割く(コストのかかる)作業の一つだ。キャッシュレス決済のテクノロジーを導入すれば、そうしたコストを抑えることができる。それは企業が経費を削減し、収益性を維持・強化するために重要な取り組みだ。そうした状況下、現在、大きな注目を集めているのがQRコード決済だ。スマートフォンの普及とともに、世界全体でQRコードを用いた決済が主流になりつつあるといっても過言ではない。QRコード決済の運営にかかるコストが低いことが大きな背景だ。相対的な運用コストの低さという点で、QRコード決済は魅力的といえ、世界的に普及している。

昨年6月に日本銀行が発表したレポート『モバイル決済の現状と課題』によると、中国都市部では消費者の98・3%がモバイル決済を利用している。一方、わが国での利用割合は6%程度と報告されている。わが国はキャッシュレス決済の途上国と位置付けられよう。ただ、言い換えれば、普及が遅れてきた分、海外で導入が進んできたキャッシュレス決済の方式がわが国に浸透する可能性はあるといえる。自社の決済サービスを導入する企業が増えれば、企業は消費者に関する大量のデータ(ビッグデータ)を獲得できる。それは消費者の需要を発掘するなど、自らを中心とした経済圏を構築することにつながる。今後、“キャッシュレス決済”のシェア争いは熾烈化するだろう。中国をはじめ、キャッシュレス先進国からの訪日客の増加は、わが国の地方経済に無視できない影響を与えている。外国人観光客などが快適に買い物や移動を楽しめる環境を整備するためにも、キャッシュレス決済の普及は重要だ。

また、少子・高齢化、人口の減少が進むにつれ、わが国の経済は縮小に向かう可能性が高い。企業や金融機関が収益性を確保する取り組みの一つとして、経費削減の重要性は高まると考えられる。そのために、キャッシュレス決済に関するテクノロジーを導入し、現金決済のコストを削減しようとする考えは強まるだろう。今年7月には、経済産業省が大手金融機関やIT企業、通信企業などとともに「キャッシュレス推進協議会」を立ち上げた。今後は、民間と政府の協働によって、消費者と企業が安心して使うことのできるキャッシュレス決済の規格策定が進むだろう。国内外のノウハウを結集し、利便性と信頼性の高い決済制度の運用が進むことを期待したい。

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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