障がい者が地域の一員として働ける場を提供
株式会社やきやまふぁーむ 代表取締役 世古 直美(せこ・なおみ)
農業を通じて就労支援
私は、世界遺産「熊野古道」の難所・八鬼山(やきやま)峠のふもと、三重県尾鷲市三木里(みきさと)で、障がい者の就労支援施設「やきやまふぁーむ」を運営しています。ここでは障がい者スタッフと、パートを含む支援スタッフ計35人が、ビニールハウスでの無農薬シイタケ栽培やトマトの栽培、休耕田を活用した畑での野菜づくり、収穫した野菜を使ったケチャップや漬物の製造、販売などを行っています。
当社を設立したのは2009年7月。父の代から続く建設会社を営みながら定年退職者が働き続けられる場を地域につくれないかと模索していたとき、障がい者の自立支援を行っている岐阜県の事業所を拝見する機会を得、関心を持ったのがきっかけでした。障がい者や自立支援についてよく分からないまま夫と共に会社を設立、5カ月後の12月には三重県の就労継続支援A型事業所の指定を受けて本格的に事業を開始し、その後夫の後を受け、代表に就任しました。就労継続支援A型事業所とは、通常の企業での雇用が困難な身体・精神・知的障がいのある人に働く場を提供する事業所のこと。雇用契約を結ぶため、障がい者には最低賃金額以上の賃金が支払われます。当社では障がい者と無期限の雇用契約を結び、能力に合わせて苗の植え付け、収穫、洗浄、パック詰め、販売などに従事してもらっています。
6次産業化目指し地域を巻き込んだ事業に
設立当初、やきやまふぁーむに対する地元の人たちの反応は決して温かいものではありませんでした。あからさまな批判はなかったものの、「障がい者施設ができるのは心配」などといった声が耳に入り、他地域の反対運動の話も聞きました。そこでスタッフにはあいさつを徹底し、町内道路の清掃に参加するなど積極的に地域の人たちと交流を持つよう促したのです。そのかいあって、ほどなく受け入れられるようになりました。
また、シイタケ栽培はシイタケの菌床を扱う会社の指導を受けて始めたものの2年続けて不作となり、出荷できないというトラブルもありました。そこで、地域の農業者に呼び掛けて「三木里野菜づくり塾」を立ち上げ、農業経験のないスタッフらが地域の人に農業を学ぶ機会をつくりました。その後、県の指導も受けてこんにゃくづくりや製茶を始め、地域とのつながりが深まるとともに農業を通じた地域活性化にも貢献できるようになってきたと思います。
創業からもうすぐ10年。障がい者スタッフは支援スタッフの指導の下、日々成長し、仕事の幅を広げています。一般企業での短期研修を受けて、一般就労した人もいます。一方で、障がい者が「親亡き後」も安心して暮らせるグループホームの必要性を感じるようにもなりました。今後は障がい者が地域の一員として活動できるような仕事を確保するとともに、グループホームの設立、農業の6次産業化など地域を巻き込んだ事業として、発展を目指していきます。
会社データ
社名:株式会社やきやまふぁーむ
所在地:三重県尾鷲市三木里町249-1
電話:0597-28-8007
創業:2009年
事業概要:就労継続支援A型事業所(農業を中心とした障がい者就労支援)
※月刊石垣2018年9月号に掲載された記事です。
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