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テーマ別企業事例 ものづくりで勝つ「新リーダー論」 “異端児”は、なぜ勝ち抜けるのか

事例2 節アリや柔らかいスギ材など型破りな家具でV字回復

飛驒産業(岐阜県高山市)

2017年に「HIDA東京ミッドタウン店」をオープンし、直販体制という新路線を切り開く。©NACASA&PARTNERS INC.

節のない木目の美しい家具や、丈夫で長持ちする固い広葉樹の家具が、木製家具業界の美意識に直結する〝常識〟だ。それに異を唱え、前人未踏の経営改革を次々に断行し、飛驒産業は50億円超の売り上げを安定的に達成している。倒産は免れないという危機からV字回復させた、驚きの経営戦略で日本の家具文化の未来へとつなぐ。

あるのは根拠なき希望と30億円の借金

――そろそろ手を引こう。

岐阜県高山市にある大手木工家具メーカー、飛驒産業の監査役を務めていた八代目代表取締役社長の岡田贊三さん。2000年当時、同社の廃業寸前の業績に、監査役を降りようと考えていた。そんな矢先に社外取締役で尊敬する先輩経営者から事業承継を打診される。

「当然断りました」と苦笑するものの、こう続けた。

「尊敬する先輩からの打診であり、また私の祖父は飛驒産業の創業メンバーの一人でした。飛騨を代表する企業の廃業は、日本の家具文化の損失でもあります。先輩から『お前しかいない』と言われたら、男冥利(みょうり)に尽きるじゃないですか。つぶすわけにはいかない。自分の人生をかけてみようと思いました」

当時、借金は30億円に膨れ上がっており、先の見通しは全く立たなかった。「あったのは根拠なき希望だけ」と岡田さんは振り返るが、地元高山の荒物店を、東海地区有数のチェーン展開するホームセンターへと成長させた手腕を買われてのことだったようだ。

00年末に同社の経営のバトンを受け継いだ岡田さんは、社内外の逆風の中、歩き出す。 「まず飛驒産業の経営資源は何かを考えました。創業1920年の歴史は、そのまま飛騨の匠(たくみ)による伝統技術を駆使した、曲げ木家具をはじめとする日本の西洋家具の歴史です。いわば当時のベンチャー企業で、高度経済成長とともに右肩上がりに成長し、バブル崩壊後に地元の木工家具メーカーが全盛期の3分の1になっても、腕のいい職人がいて、信頼される商品をつくれていました。信用、人材、そして遊休資産が経営資源としてあったのです」

100人中一人が欲しがる家具をつくろう

全社員と丁寧に面談を重ねた。

「危機感があまりにもなく、新しいことを提案しても、返ってくるのは山ほどのできない理由です。怒鳴り合うこともしょっちゅうでした。とにかく、できる理由を考えろ。よい考えもやらなければないのと同じ、即実行だと檄(げき)を飛ばし続けました」

笑顔を絶やさず語る岡田さんからは想像もつかないが、当時は終始険しい顔だったという。毎朝行うラジオ体操時に「やるぞコール」を取り入れて社員の士気を高め、率先して現場に立ち続けた。そして自らも即実行と「販売戦略」「製品開発」「生産体制」「後継者の育成」「ブランディング」「地域プロモーション」と、順に六つの改革を推し進める。

「販売戦略は従来のマスマーケティングからコアマーケティングの視点で捉えました。その代表例が節のある家具です。熟練の職人ほど激しく反対してきました。木工家具業界では節のないのが常識です。でも、100人中99人が気に入らなくても、一人ぐらい気に入ってくれる人はいるはず。社長就任の翌年、試行錯誤の末に完成した節あり家具をショールームに飾ったら、若いカップルが『この家具いいね』とはしゃいでいるんです。希望の光が見えた瞬間でした」

そして、光は鮮烈に輝く。「森のことば」と題した節あり家具のシリーズを、毎年9月に開催の飛騨木工連合会主催の家具フェアに出品すると、多くのバイヤーから注目を集め、次々に注文が入ったのだ。フェアの発表商品は来春に納品するのが通例だが、鉄は熱いうちに打てと同年10月に納品。「森のことば」の場外ホームラン級の大ヒットに、社内も沸き立ち、工場の空気が一変した。

家具に不向きな木材を使い、業績不振時こそ人材を育成

続いて社員を驚かせたのは、家具には不向きとされるスギやヒノキなどの針葉樹の積極的な採用だ。

「家具で使われる木材の9割は輸入材です。しかし、地元高山を見渡せば、荒廃するスギの山林がありました。スギは柔らかくて傷がつきやすいですが、曲げ木家具で培った圧縮技術を駆使すれば何とかできると思ったのです」

岐阜大学の教授や飛騨の森林組合、製材業者とともに国産スギの圧縮材開発に乗り出す。この試みに興味を持ったのが、世界的デザイナー、エンツォ・マーリ氏だ。岐阜県の地場産業を推進する「オリベ事業」を機に出会い、2005年には同氏とコラボレーションしたスギ圧縮材家具「HIDA」シリーズを世界最大の家具見本市、ミラノ・サローネで発表する。

ほぼ同時期に生産体制も従来の見込み生産から、トヨタ生産方式による完全受注体制に切り替えた。必要なものを、必要な時に必要な量だけつくる、少量多品種に対応できるようにしたのだ。

また経営不振時こそ会社存続のために必要と新人採用を就任当初から続け、14年には職人育成学校「飛騨職人学舎」を開校する。神奈川県にある国内有数の家具メーカー、秋山木工の「現代の丁稚(でっち)制度」がモデルで、2年間の寄宿生活で休みはお盆とお正月のみ。携帯所持も禁止する。かなりストイックな生活だが、職人が腕を競う技能五輪全国大会の県代表に選ばれる人材を輩出し続ける。

16年開催の先進国首脳会議「伊勢志摩サミット」ではテーブル製作という大役を務めた。今や社長就任時の2倍の売り上げを維持する回復ぶり。活動領域は家具づくりを超える。産学官協働で「飛騨高山きつつきの森・荘川」と銘打った約6haの人工林伐採跡地の保全に努め、樹液抽出技術によるアロマオイルや天然植物活力液など、国産材活用の道を模索する。

「2年後に創業100周年を迎えます。さらなる100年に向け、もっと国内外で新しい事業を広めたい」と目を細めて笑った。

会社データ

社名:飛驒産業株式会社

所在地:岐阜県高山市漆垣内町3180

電話:0577-32-1001

HP:http://kitutuki.co.jp/

代表者:岡田贊三 代表取締役社長

従業員:460人

※月刊石垣2018年8月号に掲載された記事です。

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