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テーマ別企業事例 ものづくりで勝つ「新リーダー論」 “異端児”は、なぜ勝ち抜けるのか

事例3 生産性ばかりでは良いものはできないそれよりも特徴ある製品をつくっていく

スピングルカンパニー(広島県府中市)

一般的に靴のサイズは0.5センチ単位だが、スピングルムーヴはXS(22.5センチ)からXL(28.5センチ)まで1センチ単位となっている

スピングルカンパニーは、自社オリジナルのゴム底と天然皮革を使ったハンドメードのスニーカー「スピングルムーヴ」を中心とした靴を製造・販売している。親会社は80年以上にわたりゴム製品を手掛けており、その技術を生かして素材づくりから完成まで自社で行っている。手作業で手間が掛かる「バルカナイズ製法」にこだわり、大手ブランドとはひと味違う製品づくりで人気を博している。

工場の縮小が進む中自社ブランドで活路を開く

古くから製造業が盛んな広島県府中市にスピングルカンパニーはある。親会社の株式会社ニチマンは1933年創業のゴムメーカー。靴製品の製造は製靴用板ゴムから始まり、その後はゴム長靴・ゴム草履、そして子供靴や婦人向けスニーカーを製造していった。

ニチマンおよびグループ会社3社の代表取締役社長を務める内田貴久さんは、大手スポーツアパレル企業に就職後、83年にニチマンに入社。93年に五代目社長に就任した。以前の会社の状況について内田さんはこう語る。

「私が入社したころは子供靴や婦人靴、ゴムのスニーカーを製造し、量販店や専門店、スーパー、デパートなど、あらゆるところに商品を入れていました。ピーク時には年間350万足を製造していて、非常に忙しい時期でした。ところが90年代にバブル経済が崩壊すると靴の流通が大きく変わり、生産量が減って工場を縮小せざるを得ない状況になりました」

景気の後退で海外から安い靴が輸入されてくるようになった。また流通もメーカーや問屋主導から量販店や大型店などの小売店主導に代わって値段の条件が厳しくなり、日本で生産していては採算が合わなくなったのだ。その状況を打開するために、ニチマンはさまざまな手を打っていったという。

「ライセンスブランドを使って生産してアメリカに輸出したり、高級な子供靴をつくってデパートや高級靴店に卸したりと、いろいろチャレンジしましたが、どれもうまくいきませんでした。それで、これはやはり自分たちのブランドを持ってやっていかなければと思うようになったのです」

手間と労力が掛かる製法にあえてこだわり特徴を出す

そこで考えたのが、自社が持つ技術を生かして、他社にはない特徴のある製品、見ればすぐにうちの製品と分かるようなものづくりをしていこうということだった。

「そこで、うちが得意とする靴の製法であるバルカナイズ製法を使おうと考えました。そして、これまでスニーカーにはあまり使われていなかった皮革を使って、世の中にはないデザインや形の靴をつくれば、今ある工場を生かしていけるし、製品にうちの特徴が出て、評価されるのではないかと思いました」と内田さんは言う。

バルカナイズ製法は1839年にアメリカで考案されたもので、スニーカーの基本製法ともいわれている。だが、基本的に手作業なので、手間と労力が掛かり生産効率が悪い。そのため、今でも日本でバルカナイズ製法を行っているのはスピングルカンパニー以外に数社ほどしかないという。

スピングルカンパニーが設立されたのは1997年。当初はニチマンの製品の在庫販売を行っていたが、そこで製品開発を行い、2002年に発売されたのが、天然皮革を使いバルカナイズ製法でつくったスニーカー「スピングルムーヴ」だった。バルカナイズ製法は製造の際に加熱・加圧するため、その加減を間違えると天然皮革が縮んだり変色してしまったりして売り物にならない。これを克服するため、長年の経験を持つ職人が努力と工夫をした末に生まれたものだった。

「リスクが高く、社内では反対の声もありました。しかし、生産性だけを重視していては良いものはできない。ほかではやっていない製法だからこそ、それを使って特徴のある製品をつくっていこうと考えました」

まだ完成形ではないこれからも変わっていく

スピングルムーヴの特徴は、ソールが反り上がってアッパーを巻き込む独特なデザインと、日本人の足型にフィットする形に設計されているところにある。

「初めて履いた方は包み込むようなフィット感とソフト感に驚かれます。アッパーにカンガルー革などの軟らかい素材を使い、中敷きにも軟らかい素材を入れていて、普通の靴とは違った感覚がある。それでファンになってくれる方が多いのです」と内田さんは誇らしげに語る。多くの場合、口コミでその良さが伝わっているのだという。

「発売当初は宣伝をせず、展示会に出したりするだけで、あとは口コミで広げていこうと考えました。口コミといっても今はネットで広がっていくので、その拡散は速い。それで地元のテレビ局や新聞社から取材も来ました。こういう変わったことをすると目立つというのもあると思います。なので、そのころは広告費にまったくお金を使っていませんでした」

その後もさまざまなアパレルブランドなどとコラボしたり、直営店やフランチャイズ店、ネットショップを出したりすることで、消費者へのアピールを続けている。

「うちはまだ完成形ではないし、これからも変わっていく。周りがものすごい勢いで変化する中、自分たちも変わらなければ置いてきぼりにされますから。今後はジャパンブランドとして海外にもチャレンジして、海外でつくって海外で売っていくことも目指していきます」と、内田さんは力強く語る。

自社の強みを生かし、ほかにはまねのできない特徴のあるものづくりをしていく。それこそが、スピングルカンパニーが勝ち抜けてきた理由なのだろう。

会社データ

社名:株式会社スピングルカンパニー

所在地:広島県府中市府中町74-1

電話:0847-41-5609

HP:https://www.spingle.jp/

代表者:内田貴久 代表取締役社長

従業員:約100人(パート含む)

※月刊石垣2018年8月号に掲載された記事です。

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