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テーマ別企業事例 シニア市場に異変あり ひと味違う「健康長寿」ビジネス

事例3 地場産の小麦を活用し「オール宇佐」で健康を育む

宇佐パン粉(大分県宇佐市)

ミナミノカオリは大分県最大の穀倉地帯、宇佐平野で栽培される。原料から製造、販売までのトレーサビリティー(追跡可能性)で、“安心・安全”を提供する

日本の家庭における、パンの消費額が米を上回って久しい。ひと言で「パン」といっても原料や製法、スタイルはさまざまで、パンの進化は止まらない。そうした中、安心・安全なパンづくりに奮闘しているのが、宇佐パン粉だ。パンに適した小麦「ミナミノカオリ」を契約農家とともに開発し、産学官連携でパン食の未来像を描く。

地域が一丸となってパンに適した小麦をつくる

宇佐神宮を筆頭に大分県内有数の観光地がある宇佐市は、世界農業遺産に認定された県内最大の穀倉地帯、宇佐平野を有している。その平野で「パンに適した小麦をつくり、商品化したい」と立ち上がったのが宇佐パン粉の代表取締役、岩井正久さんだ。前身である1953年創業の岩井商店は、筑豊炭鉱に坑木を納め、炭鉱で仕入れた石炭を地域の塩田などに卸す商売をしていた。70年に食品部門として宇佐パン粉を設立し、パン粉の製造販売を開始。3年後には冷凍食品製造にも着手し、事業を大きくシフトしていく。食の欧米化が加速していく中、パン粉の需要は伸びに伸び、78年には営業拡販を図るべく関連会社としてスターフーズを設立。89年にはピザ製造に向けてハラダフーズ(日本冷凍食品認定工場)を、95年には冷凍生地開発のためにサンアイフーズを立ち上げ、現在三つの関連会社を運営している。その中で、岩井さんは一企業の利益にとどまらず、地域のことを考えている。

「麦、小麦粉あってのうちの商品です。地域で育てた小麦で商品をつくれば、地域が活性化していくのではないかと思いました」

当時、地元で栽培されていたのはうどんなどに用いられる中力粉で、パンに適した小麦粉ではなかった。そこで、地元農事組合の協力を仰ぎ、大分大学や大分県農林水産研究指導センター、大分県信用組合融資部中小企業センターにも力を借りるべく奔走する。土壌改良を重ねて8年、契約農家と協力し、栽培が難しいとされたパン用の高タンパク質小麦「ミナミノカオリ」の開発についに成功した。小麦は地元で少しずつ認知され、作付面積も20haから60ha、今では240haへと拡大している。

「契約農家の方の努力、協力あってのことです。最近は、食育の一環で地元に三つある小学校の4、5年生が種まきや収穫に来ています。市長や議員、宇佐商工会議所の人たちも交えて、地域イベントになりつつありますよ」と岩井さんは目を細める。

県産ゆずを使って大分大学と「ゆずパン」を開発

さらに、生産者の顔が見える地場産小麦の開発だけに終始しない。岩井さんは2013年に創設された宇佐ブランド認定制度の構想段階から、地域ブランドを模索していた。日本社会が少子高齢化へ突き進む中、「健康」をキーワードに商品開発ができないかと考え続けていたという。その足掛かりとして、宇佐商工会議所工業部会が中心となり、1990年に地域共同研究会を立ち上げた。月1回ペースで大分大学の教授を招いて研究発表を聴講している。活動を続けて10年、岩井さんは健康ビジネスへの突破口ともいえる出会いを果たす。

「石川雄一教授がいらっしゃった会で、大分県産のゆずの皮には喘息(ぜんそく)やアトピー性皮膚炎などのアレルギー症状を緩和する有機分子が含まれている、という話がありました。『これだ!』と思いました」と岩井さん。教授も研究成果を商品開発に生かせる企業を探していたそうで、機能性食品「ゆずパン」の構想が一気に膨らんでいった。

だが、開発はパンにゆずの皮を練り込めば出来上がりという簡単なものではない。

「ゆず成分の抗酸化作用で、パンの発酵が弱まり、うまく膨らまなかったのです」

ミナミノカオリを品質改良し、さらに酵母はドライイーストではなく米麹(こうじ)を使い、乳化剤は使わず、自然の小麦の風味やゆずの香りが生きるように冷凍技術を磨き上げていった。この試みに、大分大学工学部が機能性食品の企画と開発、ゆずの皮の成分解析、小麦を高タンパク質化する散布剤の開発などの面で加わった。また、大分看護科学大学がゆずの皮の抗アレルギー評価を担当した。

「開発に8年かかりました。でも、エビデンスが取れていることがつくり手の自信につながっています」 こうした産学官連携の取り組みが2012年、経済産業省の農商工等連携事業として認定され、販路拡大に大きく寄与したという。

農商工連携を活用し新たな機能性食品を販売

「農商工連携を活用して、業務用はホテルや飲食店、家庭用はスーパーや生協などを中心に販路を開拓しています。ゆずパンを食べて症状が改善するということではなく、アレルギーのある方でも安心して食べていただけるパンという位置付けです。創業から続くモットー『お客さまのために!』を念頭に、大分県産小麦を使った安心・安全な冷凍パンブランドを確立していきたいです」と岩井さんは熱く語る。すでにゆずパンに次ぐ機能性食品も開発済みで、その名も「くびれパン」。主原料は小麦ではなく大豆で、糖質約66%オフ(同社製品比較)、食物繊維はレタス1個分を含む。

「大豆粉を使用した高タンパクで栄養豊富なパンです。糖質が気になる方や、あまり野菜を食べない人にこそ食べてほしいですね」

現在、機能性食品としての認可待ちというが、近い将来には学校給食や病院食にゆずパンやくびれパンを提供できたらと夢は広がる。

「機能性食品は弊社の全製品の5%。これを20%に上げていくのが目下の目標です」と、健康をテーマに開発の手を緩めない。

会社データ

社名:宇佐パン粉有限会社(うさぱんこ)

所在地:大分県宇佐市大字長州927-4

電話:0978-38-0274

HP:http://www.usapanko.jp/

代表者:岩井正久 代表取締役

従業員:120人(グループ全体)

※月刊石垣2019年2月号に掲載された記事です。

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