事例2 医工福連携を生かして医療現場を支援 町工場が病院の急な依頼に対応
大阪商工会議所(大阪府大阪市)
大阪商工会議所が構築した「町工場ネットワーク」に参加する製造業者7社は、加工が得意な町工場同士の顔の見える関係が威力を発揮し、大阪市内の医療機関から要請のあった医療用の感染防止具をわずか25時間で製作して納品。また、同所は商取引支援サイト「ザ・ビジネスモール」に期間限定で「BM SOSモール」をいち早く開設し、経済的な打撃を受けている中小企業の販路開拓を支援するなど、スピード感のある取り組みを行っている。
病院の依頼から2時間後には感染防止具の製作を開始
まだ全国的な緊急事態措置が実施中だった4月21日午前11時半、大阪市大正区にある町工場に、区内の大病院から近隣のクリニックを経由して相談が持ち掛けられた。その病院では新型コロナ感染者を受け入れるに当たり、患者搬送用ストレッチャーの頭部部分や人工呼吸器着脱時の飛沫(ひまつ)を防ぐ防護具が必要となったが、市販品はなく、困っているということだった。
緊急の相談を受けた木幡計器製作所社長の木幡巌さんは、大阪商工会議所西支部も関与する医工福(介護福祉も含む)連携プロジェクト「りびんぐラボ大正」を主宰していた。木幡さんから連絡を受けた西村鐵工所の西村和彦さんがLINEグループで町工場仲間に声を掛けると、5社が手を上げ、昼12時ごろから木幡さん、西村さんを含む7人でウェブ会議アプリ‶Zoom〟によるミーティングを始めた。
「これに使えるアルミ素材がうちにある」「うちはその切断と曲げ、穴あけをやろう」「これに合うネジは、うちと取り引きのあるボルト屋さんにあるはずだから連絡しておく」と、ものの小1時間で製作手順と役割分担が決まり、各自がすぐ動き出した。病院から連絡を受けてから2時間後のことだった。
「病院から図面が届いていたので、それを見てすぐに製作に取りかかり、その日のうちに加工まで終えたのですが、足りない部品があったのでその日のうちには完成できず、翌日午前中にみんなで集まって組み立てて、完成品2台を病院に届けました」(木幡さん)
病院に納入したのは午後0時半、依頼からわずか25時間後だった。最初の2台は無償で提供したが、その後17台の注文が入り、それを納めることになった。
「町工場ネットワーク」の連携が生む新たな事業展開
「今回参加した7社は、大阪商工会議所が構築した『町工場ネットワーク』のメンバーでもあります。そのネットワークの中で、医工福連携に取り組む木幡計器製作所さんが『りびんぐラボ大正』を始めたんです」と、同所西支部の支部事務局長・森川博雄さんは言う。西支部は大正区を含む大阪市の西部6区を担当している。
今回、製作指揮をした西村鐵工所の西村さんは言う。「今回これだけ素早く対応できたのは、町工場ネットワークという基礎があったからだと思います」
切断面の整形を担当した南歯車製作所の南仁さんは「うちは歯車しかつくれませんが、今回のことで、自分たちの会社の能力を飛び越えられた感じがします」。
組み立て場所を提供した池田鉄工所の林幸代さんは、その後、医療用フェイスシールドを開発し、販売を始めた。「試作品をLINEグループで見せて、意見をもらいながら改良していきました。うちは下請けで、開発には慣れていないので、みなさんに助けていただいてようやくという感じです」
ネジ探しに奔走した光機械工業の長嶺一輝さんも、ペダルを足で踏んでボトルからアルコール消毒薬を出す器具を開発した。「これまでは周りが何を必要としているのか分かっていませんでしたが、今回のことで、周りのニーズを知ることが一番大事だと思いました」
フレーム素材を用意した土井商店の土井隆さんは「誰かの役に立つ最終製品の開発は、従業員のモチベーションアップにもつながるので、これからどんどんやっていきたい」と意気込む。
参加した全員が、今回の経験を生かして、医工連携の中で自社の新たな展開を考え始めた。
挑戦する企業が新たな価値を生み出せる事業環境をつくる
7社による今回の連携は、たまたまうまくいったわけではない。そこには、同所による地道な下地づくりがあった。同所では2017年から、機械・金属加工業の事業者を中心とした「町工場ネットワーク」を構築し、「ものづくり加工ネットワーク強化交流会」を年に数回開催している。これにより‶互いの顔が見える〟協力工場ネットワークの拡大を目指している。
「仕事を受注した際、自社の機械で対応できないものは、対応できる機械を持つ近隣の工場と連携すれば、注文を逃すことがない。また近隣であれば運搬の時間もかからない。そういう知り合いを多くつくることで、地域の競争力を高めることが町工場ネットワークの目的です。今回、病院からの依頼があったときに、すぐに連絡を取り合って作業を始められたのは、お互いの業務や設備を熟知していたからこそです」と、同所西支部の森川さんは言う。
そのほか同所が事務局を務める商取引支援サイト「ザ・ビジネスモール」において、新型コロナ対策として緊急販路開拓支援を行う「BM SOSモール」を3月11日から開始。4月23日にはSOSモール内で、医療や介護現場で不足する医療資材のニーズと企業からの提案をマッチングする「医療・介護資材SOSマッチングサービス」を行った(5月末で終了)。
「大阪商工会議所では、苦境を乗り越え、挑戦する企業が新たな価値を生み出せる事業環境をつくりあげていきます。そして25年の大阪・関西万博に向け、そのテーマ『いのち輝く未来社会』をデザインし、大阪・関西経済の成長、発展につなげたいと考えています」(西支部・森川さん)
「BM SOSモール」のHPはこちら
会社データ
大阪商工会議所
所在地:大阪府大阪市中央区本町橋2-8
電話:06-6944-6211
HP:https://www.osaka.cci.or.jp/
※月刊石垣2020年9月号に掲載された記事です。
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