事例3 県内全15商工会議所の連合サイト「支エール」で地域経済を支える
岐阜商工会議所(岐阜県岐阜市)
新型コロナウイルスの苦境下、岐阜県では全国に先駆けて県内全15商工会議所が結集。会員企業対象の「支(ささ)エール(yell)」という応援サイトを立ち上げた。企業が提供する感染防止関連商品やサービスを紹介し、地元企業間の連携を図った。この一大プロジェクトの旗振り役として岐阜商工会議所が奔走した。
「地域経済をなんとかしたい」会員企業が支え合うサイトに
国の緊急事態宣言が5月4日から31日に延長される中で、岐阜県内の全15商工会議所からなる「県商工会議所連合会」は動いた。5月18日の「支(ささ)エール(yell)」の開設は、企画・立案からわずか1週間という早さだった。これに関して岐阜商工会議所常務理事の河尻満さんは言う。
「支エールより前に、岐阜の飲食店「テイクアウト」応援サイト『ウチ店』を開設したスキルがありました。セキュリティーなどをよく把握している制作運営会社との連携や情報共有など、すでに信頼できるネットワークが構築されていて、それを支エールの開設に生かせました」
「ウチ店」は来店者が激減する飲食店の応援策として同所と岐阜市、柳津町商工会が連携し、運営している。4月20日の開設時は掲載店27店舗の登録だったが、日に日に数を増やし、151店(6月4日現在)にまで拡大した。サイトは、テイクアウトサービスにおける感染症対策や食中毒対策、申請手続きなど、注意点やルールが分かりやすく紹介されており、初めてテイクアウトを始める飲食店でも「やってみよう」という気にさせる。同時に一般ユーザーも、近所のどの店がテイクアウトサービスを実施しているのか地図や店名で検索でき、見やすさ、操作のしやすさが、きちんとデザインに落とし込まれている。
「新型コロナウイルスはサービス業、飲食業を直撃しましたが、その後、岐阜の7大産業といわれる繊維、陶磁器、木工・家具、金属、刃物、紙、プラスチックをはじめ全業種にまで広がりました。岐阜市内だけではなく、広域連携が必要な事態だと感じており、その思いは会員企業も同じ。『何か役に立つことはできないか』と企業側から声が上がったことが、支エール開設の原動力になりました」(河尻さん)
簡単申請&スピード掲載で迅速に応援できるサイト設計
「ウチ店」は、料理を早く、おいしく、安全に届けることが問われるため、地域を限定した方が需要は伸びる。しかし、「B to B」(企業間取引)である支エールが会員企業間の連携を促進するには、広域であればこそ効果が上がる。そのため県内各商工会議所の合意を得るのに、そう時間はかからなかった。
会員企業が参画しやすい〝立て付け〟で、掲載料は一切かからず、申請はスマートフォンからでも可能。申請期間も1週間ほどと、前述した「ウチ店」同様、手続きに手間暇がかからない。開設当初は4社の7つの商品・サービスの掲載からスタートしたが各メディア、中でも地元新聞社に取り上げられたことを機に、掲載する支援商品・サービスは27にまで広がった。また、キーワード検索やカテゴリー検索(感染症対策、在宅支援、販路開拓支援など全12項目)を可能にし、より使いやすく更新した。
同サイトのスタート時から参画している企業の一つでプラスチック総合メーカーの岐阜プラスチック工業総務部広報担当の鈴木貴哉さんは、支エールについてこう語る。
「弊社の会長が岐阜商工会議所の副会頭を務めていることもあって、いち早く情報を知って参画しました。グループ会社それぞれから飛沫感染対策パーテーションや抗菌コンテナー、アルコール消毒用の詰め替え容器などを紹介していますが、パーテーションについては飲食店や医療・介護施設よりもオフィスのニーズが高いという結果が出ました。地域貢献を目的に参画しましたが、コロナ禍のニーズを知るいい機会になりました」
今後も新しいニーズや価値に合った、人に優しい商品開発を追求したいと、新たにテイクアウト容器を開発するなど、支エールへの参画を機に、本事業に弾みがついているようだ。
BCP対策も踏まえてモノとコトをつなぐ
「岐阜プラスチック工業さんもそうですが、支エールは、商工会議所が会員企業に働きかけたのではなく、使命感のある会員企業の自由意志によって成り立っているサイトです。繊維工場が日本製のマスクを、醸造メーカーが消毒スプレーを、タクシー会社が食品を運び、スーパーが飲食店に弁当売場を無償で提供するなど、独自にアイデアを出し、その情報発信の場として支エールがあります。掲載企業は各地の商工会議所が推薦した企業のみですから、支エールへの掲載は企業の信用度アップにつながり、掲載された商品・サービスを必要とする会員企業も安心して交渉できる。企業の信頼が増すごとにサイトの存在価値も高まっていくと考えられます」と語るのは同所専務理事の森健二さん。これを受けて支エールの持つ可能性について河尻さんが続けた。
「新型コロナウイルスの収束はまだまだ不透明であり、最新情報の変化で必要なモノ、サービスも変わる、まさにスピード勝負な局面が多々あります。それに加えて集中豪雨や大型台風、南海トラフ地震も想定したBCP対策も急務です。支エールをBCP対策にも活用し、有事の際に、必要な支援が必要な場所に必要な分だけ迅速に届く。そうしたハブになり得ればと考えています。コロナに負けない地域経済をサポートする。その覚悟が問われています」と先を見据え、〝次の一手〟に意欲は尽きない。
会社データ
岐阜商工会議所
所在地:岐阜県岐阜市神田町2-2
電話:058-264-2131
※月刊石垣2020年9月号に掲載された記事です。
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