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元気が出る中小企業経営 〝一品〟へのこだわりが〝逸品〟を生む! ~鯖寿司に込めた店主の思い~

「これからも地元に愛される鯖寿司の味を守っていきたい」と笑顔で語る三代目の竹内裕子さん ©YURI NANASAKI

今号は、中小企業だからこそ生み出せる〝オリジナル商品〟で地元の支持を得ている事例をご紹介します。

素材を丸ごと使った商品は顧客満足を追求して開発

島根県江津市に「夜陣商店」という青果・生花・食料品などを扱う小売店があります。JR江津駅前の商店街に位置し、創業は昭和5年という老舗です。

この店一番のお薦め商品はオリジナルの「鯖寿司」。島根県は一人当たりの鯖の消費量が全国一といわれ、脂の乗った日本海の鯖は評判が高いのです。開発のきっかけは60年以上も前のこと。二代目の夜陣勝美さんと夫人の和子さんは、「地元の鯖で何か特徴ある商品を生み出せないか」と鯖寿司づくりを始めます。試行錯誤の連続でしたが、「本当においしいものを皆さまに」との一心で、「やじん商店『石州鯖寿司』」を完成させました。

以来、店では半世紀にわたり、このこだわりを追求し続けています。例えば、酢飯には島根県邑智郡美郷町(旧大和村)産の米を使用。鯖そのものの味はもちろん、それによくなじむ米の品質も大事なのです。自ずと原価率は割高になりますが、「お客さまに喜んでいただけるなら」と、採算より顧客の満足を優先。また、鯖を2回に分けて酢に浸す際にも、それぞれ違う種類のものを用います。特有の臭みが消え、ご飯との相性が良くなるからです。こうして、酢飯用と合わせて3種類の酢を使い分けます。鯖を丸ごと1本使い、ボリューム満点。値段も1本930円(税抜)と、リーズナブルです。

こだわりを積み重ね地元客の信頼を獲得

現在は勝美さんの次女・竹内裕子さんが後を継ぎ、先代のこだわりを守り続けています。ホームページはもちろん、一切の広告宣伝をしていませんが、鯖寿司は地元で知られた逸品です。量産には不向きですが、30分前に注文をすれば出来立てを用意しておいてくれます。小回りが利く、地域に根差した店ならではの商品といえます。1本ずつ心を込めてつくられる寿司は、贈答用として人気となっているほか、ふるさと納税制度の寄付者に贈られる島根県特産品にも選ばれています。

夜陣商店が位置する駅前商店街は最盛期には200店を超え、地域で一番栄えていた商業集積地でした。しかし、現在は10分の1近くにまで店舗数は減少。その中で、80年以上もこの店が存在できたのはなぜでしょうか。それは、独自の〝一品〟に対する愚直なまでの取り組みを、地元の消費者が支持しているからでしょう。自店ならではの〝逸品〟を維持し続けることの重要性を教えてくれる事例です。

坂本 篤彦(さかもと・あつひこ) 昭和39年東京都生まれ。平成3年東京商工会議所に入所。退職後にビジネス・コア・コンサルティングを設立し、代表に就任。創業・ベンチャーの事業展開支援など、実践型のコンサルティングを行っている。また、中小企業大学校で教壇に立つ傍ら、北は北海道から南は沖縄まで、年間約200回の講演・セミナーを精力的にこなす。

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