日商 Assist Biz

更新

テーマ別企業事例 グルメ・特産品・サービス… 地域の〝イチ押し〟でインバウンドを呼び込め!

事例3 “観光蔵”に勝機あり海外と地元をつなぐ酒蔵へ進化中

本家松浦酒造場(徳島県鳴門市)

創業200年余りの趣ある佇まい。2019年3月には徳島県版HACCPの認証を受け、安心・安全な取り組みが評価されている

1804年創業の酒蔵、本家松浦酒造場は、銘酒「鳴門鯛」を米国、香港など世界13カ国・地域に輸出し、「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」で3年連続受賞に輝く実績を持つ。自社の業績を上げつつ、同時に地域ににぎわいを取り戻したいと、地元にも目を向ける。外国人旅行者を想定した観光蔵化計画に乗り出した。

日本酒、酒蔵をハブに地域を盛り上げる

徳島県最古の酒蔵である本家松浦酒造場は、渦潮で知られる鳴門市にある。単線のJR鳴門線で無人駅の阿波大谷駅に降り立つと、昔懐かしい民家が広がる。観光地のにぎわいの対極にある、穏やかな風景だ。そこから徒歩5分の距離にある本家松浦酒造場は、隣に並ぶ1826年創業の醤油蔵とともに、ひときわ目を引く。

「目の前の撫養街道には、四国八十八カ所の第1番札所、霊山寺や阿波國一の宮の大麻比古神社、ドイツ館や大谷焼きの窯元など、見どころがたくさんあるんですよ」

そう言って迎えたくれたのは、十代目蔵元の松浦素子さんだ。200年余りの歴史を感じさせる趣ある酒蔵は、二代目松浦直蔵由住が創建したもので、以来、徳島を代表する酒蔵として成長してきた。86年に徳島県令(知事)から鯛のように端麗優雅であるようにと命名された「鳴門鯛」は、主要銘柄として国内外にその名を轟かす。平成にはリキュール酒「すだち酒」を開発して若者や女性らの心をつかみ、2013年に和食が世界遺産に登録されると、海外で日本酒の注目度が高まり、本家松浦酒造場も米国を筆頭に香港、オーストラリア、スペインと輸出先を広げていった。今では世界13カ国・地域で鳴門鯛が親しまれるまでになっている。

そんな本家松浦酒造場が月1回、大いににぎわう日がある。「ナルトタイ 蔵蔵たちきゅう」だ。

「4〜10月に開催している日本酒を飲む会です。秘蔵酒から定番酒まで約30銘柄を楽しめます。どれもグラス1杯500円。おつまみは持ち込み自由で、ミニライブを開催したり、鯛の塩釜焼きを子どもたちに割ってもらったりと、大人から子どもまで楽しめるイベントです」と松浦さんはほほ笑む。採算よりも、ご愛顧への感謝と客同士の交流が第一の目的のようだ。

このたちきゅうがインバウンドの呼び水になろうとは、松浦さんも予想だにしなかった。

外国人観光客のSNSで来訪者が増加

ことの発端は、香港に住む中国人夫婦が一昨年の10月開催のたちきゅうに参加したことだった。

「大の日本好きのお二人が、香港で日本酒がはやっているとかで、うちを訪ねて来てくださったんです。その日がたまたま、たちきゅうの開催日で、それをSNSで紹介してくれたんです。ご夫婦は影響力がとてもあるようで、それからというもの、SNSを見て来たという海外の方が急増しました。19年に大阪でG20サミットの開催が決まると、サミットの取材に来た海外メディアからの取材依頼もいくつかありました。それで少しずつ外国人旅行者を想定するようになっていったのです」

酒蔵見学や、蔵の一角を改装してアンテナショップ的な直売所「ナルトタイの店」をオープンさせるなど、観光客誘致に取り組んできた下地もあった。

「小さな酒蔵ですから広告費を捻出するのも大変です。なるべくお金をかけずにチラシ、Web、SNSの三つを宣伝ツールに活用してPRしていきました。バスツアーも受け入れて、ここ最近は韓国やハワイの日系人バスツアーも増えてきています」と松浦さん。今では年間来訪者数は4000〜4500人を数えるが、インバウンドは全体の1%にも満たない。これを底上げするべく、目下、酒蔵見学の動線を見直し中だという。

通訳できる従業員も一人しかおらず、ナルトタイの店も店長一人が切り盛りしており、店長が酒蔵見学の対応や外出をする際は、他の従業員が店番をしてしのぐ。隣に並ぶ醤油蔵とのコラボレート企画「撫養街道Kura&Kura見学」も国内観光客には人気だが、外国人旅行者対応にはなっていないなど、課題はまだある。

それでも日本の伝統文化、食文化としての日本酒の魅力を、もっと海外の人に知ってもらいたいという気持ちはブレない。

顧客、社員、会社そして社会の満足に応える

15年に英国・ロンドンで開催された世界最大級のワインコンテスト「インターナショナル・ワイン・チャレンジ部門」で、「ナルトタイ 水ト米」が最高金賞に輝き、世界トップの純米酒に選ばれた。また、日本で開催されている「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」でも好成績を更新し続けている。このアワードは、世代、業態、国境を超えて日本酒を広げることを目的としており、今年で9年目を迎える。本家松浦酒造場はメイン部門で14年、15年と連続して「鳴門鯛 純国産・無添加純米」が、16年には「ナルトタイ 水ト米」が金賞に輝き、17年からは大吟醸部門で3年連続して「鳴門鯛 大吟醸」が金賞を受賞している。ワイン感覚で飲める日本酒としての実力を確実につけている。

さらに17年にはハリウッド映画『ブレードランナー2049』のワンシーンにアルミ缶入りのNAMAKANこと「鳴門鯛 吟醸しぼりたて生原酒」が映っているという情報が入る。

「まさかのハリウッドデビューです。映画をきっかけにAmazon経由でネット注文が入り、わずかですが売り上げにつながりました」と笑う。国内では日本酒離れといわれて久しいが、輸出額は7年連続で伸びており、18年は約222億円(国税庁調べ)と他のアルコール飲料を抑えてトップだ。インバウンドの追い風は吹いている。

「酒蔵単体ではなく、地元の名刹、体験スポットと協力して、インバウンドの渦をつくりたいです」 大きな渦になる余地は十分だ。

会社データ

社名:株式会社本家松浦酒造場(ほんけまつうらしゅぞうじょう)

所在地:徳島県鳴門市大麻町池谷字柳の本19番地

電話:088-689-1110

代表者:三上康士 代表取締役

従業員:約20人

HP:https://narutotai.jp/

※月刊石垣2019年6月号に掲載された記事です。

次の記事

一般社団法人日本ほめる達人協会/大東自動車株式会社

「働き方改革」というと、少し大上段に構えてしまうかもしれない。しかし、日常的に“ほめる”を実践すると、笑顔が増え、人間関係も良好になり、会社の業績も劇的に変わる。社内…

前の記事

株式会社マルコン警備保障/田嶋株式会社

業績を伸ばしている企業を率いる女性経営者は、人材育成や顧客開拓にも女性ならではの視点と強い信念を持っている。規模が小さくてもしっかり輝いている、ひと味違う女性経営者…

関連記事

西光エンジニアリング株式会社

BCP(事業存続計画)本来の意味は、企業を存続させて、雇用と顧客を守るということである。自然災害の多いわが国の場合は、BCPについて、災害から社員や社屋・施設を守る防災計…

釧路駅西商店街振興組合/中町商店街振興組合

人口流出や郊外型の大型ショッピング施設などに押されて、苦境に追い込まれている地方の商店街も多い。しかし、そのまちの特色や地域の名産を生かし、見事に復活した商店街もあ…

株式会社WORK SMILE LABO/株式会社岡部

日本をはじめ世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルス禍によって、大小を問わず‶職場閉鎖〟の危機に見舞われた企業も多い。そこで、職場内の感染予防とBCP(事業継続計画…