日商 Assist Biz

更新

テーマ別企業事例 パラアスリートを支える“応援企業”が元気な理由がある

事例4 スポーツ用義足の技術力で社会福祉の道を切り開く

今仙技術研究所(岐阜県各務原市)

2018ジャパンパラ陸上競技大会に、今仙技術研究所の義足をつけて出場した

総合福祉機器メーカーの今仙技術研究所は、国産電動車椅子において最も長い歴史と実績を誇る。近年は障がい者スポーツの振興に向け、スポーツ用義足開発の先陣を切り、日本人の体にフィットしたメード・イン・ジャパンの義足でメダル獲得を目指す。パラアスリートの支援、それは同社の挑戦でもあった。

国産初のスポーツ用義足で2008年銀メダルを獲得

「パラリンピックに出場する選手のレベルは、近年、急速に伸びています。それと比例して使う道具の性能の向上も問われます。今や2008年の北京パラリンピック(以下、北京パラ)の成績では、選手も道具も通用しません」

成長、進化が目覚ましいパラアスリートの情勢に、代表取締役社長の山田博さんはこう切り出した。05年よりスポーツ用義足の開発に取り組み、北京パラで陸上男子走り幅跳びでは、山本篤選手が、同社の競技用義足LAPOC SPORTS「侍」を使用して、銀メダルを獲得した。だが、その結果に甘んじてはいられない。

現在、競技用義足は海外製が主流で、ドイツのオットーボック社とアイスランドのオズール社が圧倒的なシェアを占める。この2強に加え、近年、20年の東京パラリンピックを視野に入れた国内でのスポーツ用義足の開発が勢いづいている。国産義足を使った日本人選手のメダル獲得。その熱量は、開催地が東京だけにかなり高まっているようだ。

もともと今仙技術研究所は、今仙電機製作所の医療器具部門として1971年に発足した。82年に株式会社となり、日常で使う電動車椅子や義足の研究開発・製造販売を行う総合福祉機器メーカーとして社内開発生産管理体制を培ってきた。電動車椅子では日本で一番長い歴史があり、日常用義足の性能にも定評がある。2000年代に入ると海外製品が席巻するスポーツ用義足にも果敢に挑み、結果も出してきた。

「しかし、一社だけでの開発には予算、時間に限界があります。それに日常用とスポーツ用では開発のベクトルがそもそも違うのです」と山田さん。日常用義足は見た目に違和感なく、日常の動作をひと通りできることが使用目的だが、スポーツ用には走る、跳ぶに特化した性能を導く形状が求められる。そこで共同開発を模索するべく声を掛けたのは、国産の大手総合スポーツメーカー、ミズノだ。

一企業を超えた連携体制で究極の製品を目指す

「岐阜にミズノテクニクスというミズノの製造子会社があって、14年夏に声を掛けさせていただいたのが始まりです」(山田さん)

スポーツ用義足の板バネ足部に使われるカーボンは、飛行機やヘリコプター、自動車などに使われるカーボン繊維強化プラスチック(CFRP)で、テクニクスはこの技術に秀でていた。同年秋には共同開発をスタートさせ、今仙技術研究所が07年に開発したスポーツ用義足「KATANA」をフルモデルチェンジして、16年10月に「KATANA‒β」を発表した。従来品は形状がJ型をしているのが、新作は波打つ独創的なデザインで一躍注目を集めた。

「目指したのは日本のパラアスリートに最適な義足です。海外選手よりも小柄な日本人選手は、義足の長さが取れない分、瞬発力や推進力をどうするかなど、さまざまな課題がありました。その一つの解答として生まれた形状です。走ると義足には体重の約3倍、跳べば5〜7倍の負荷がかかるといわれています。それに膝下からの下腿義足なのか、膝上からの大腿義足かで、同じ製品でも選手の評価が変わります。パラ陸上の多くのアスリートの協力を得て、動作解析していきました」

さらにスポーツ用義足づくりのパイオニアとして名の知られる臼井二美男さん(公益財団法人 鉄道弘済会の義肢装具サポートセンター義肢装具士)がアドバイザーに加わり、国立スポーツ科学センター(JISS)によるスポーツ科学に基づいたミズノとの共同研究も進められた。15年、16年の2年間で多くの知識と技術が集結し、スポーツ用義足の総合的な開発体制を整えていった。

トップアスリート仕様の技術を社会に還元する

「臼井さん率いる切断者スポーツクラブ、スタートラインTokyoには約170人がつながっていて、練習会には約100人もの人が全国から集まります。老若男女問わず走ることの楽しさを体験でき、パラアスリートも輩出しています。義足開発に向け、多角的に助言をいただけました。また、ミズノとの共同開発で、長年の経験だけではなく、動作や成形をデータ解析する技術を飛躍的に高める結果にもなっています」と山田さん。

スポーツ用義足の開発はお金と時間が莫大にかかる。それでいて需要は限られており、利益目的で続けられる事業ではない。だが、トップアスリート仕様の特殊なカーボン技術は、日常用義足の発展にも役立つ。それは世界最高峰の自動車レースF1の技術が、一般乗用車の技術向上に生かされているのと同様で、そこに今仙技術研究所の開発意義がある。

「わが社設立当時は、労働災害や交通事故により四肢の切断事故が多くありました。今は労働環境の改善、交通事故の減少、医療の進歩で切断せずとも救われる人が増える一方で、脳血管障害、脊髄損傷により不自由な生活を余儀なくされる方も増えています。だからこそ、柔軟で多角的にアプローチできる技術を身に付けたいのです。弊社の製品を愛用される方のニーズに細やかに応え、存続し続けることが、つくり手、使い手との信頼関係を築くと信じています」

年内にはスポーツ用義足の新作発表を予定しており、国内外の開発競争に旋風を巻き起こしそうだ。

会社データ

社名:株式会社今仙技術研究所(いませんぎじゅつけんきゅうしょ)

所在地:岐阜県各務原市テクノプラザ3-1-8

電話:058-379-2727

代表者:山田博 代表取締役社長

従業員:43人

HP:https://www.imasengiken.co.jp/

※月刊石垣2019年8月号に掲載された記事です。

次の記事

2018年に日本遺産に登録された「星降る中部高地の縄文世界」、2021年の世界遺産登録を目指す「北海道・北東北の縄文遺跡群」など、日本各地に散らばる“縄文”が、地域の新たな起…

前の記事

合資会社 ホリ ホールディングス/株式会社アポロガス/株式会社マックス/株式会社黒木本店

中小企業の人材不足が叫ばれて久しい。その一方で、地方や中小規模であっても優秀な人材が集まり元気な企業もある。人材が集まる企業に共通しているのは、社員を大事にし、自社…

関連記事

西光エンジニアリング株式会社

BCP(事業存続計画)本来の意味は、企業を存続させて、雇用と顧客を守るということである。自然災害の多いわが国の場合は、BCPについて、災害から社員や社屋・施設を守る防災計…

釧路駅西商店街振興組合/中町商店街振興組合

人口流出や郊外型の大型ショッピング施設などに押されて、苦境に追い込まれている地方の商店街も多い。しかし、そのまちの特色や地域の名産を生かし、見事に復活した商店街もあ…

株式会社WORK SMILE LABO/株式会社岡部

日本をはじめ世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルス禍によって、大小を問わず‶職場閉鎖〟の危機に見舞われた企業も多い。そこで、職場内の感染予防とBCP(事業継続計画…