事例4 スポーツ用義足の技術力で社会福祉の道を切り開く
今仙技術研究所(岐阜県各務原市)
総合福祉機器メーカーの今仙技術研究所は、国産電動車椅子において最も長い歴史と実績を誇る。近年は障がい者スポーツの振興に向け、スポーツ用義足開発の先陣を切り、日本人の体にフィットしたメード・イン・ジャパンの義足でメダル獲得を目指す。パラアスリートの支援、それは同社の挑戦でもあった。
国産初のスポーツ用義足で2008年銀メダルを獲得
「パラリンピックに出場する選手のレベルは、近年、急速に伸びています。それと比例して使う道具の性能の向上も問われます。今や2008年の北京パラリンピック(以下、北京パラ)の成績では、選手も道具も通用しません」
成長、進化が目覚ましいパラアスリートの情勢に、代表取締役社長の山田博さんはこう切り出した。05年よりスポーツ用義足の開発に取り組み、北京パラで陸上男子走り幅跳びでは、山本篤選手が、同社の競技用義足LAPOC SPORTS「侍」を使用して、銀メダルを獲得した。だが、その結果に甘んじてはいられない。
現在、競技用義足は海外製が主流で、ドイツのオットーボック社とアイスランドのオズール社が圧倒的なシェアを占める。この2強に加え、近年、20年の東京パラリンピックを視野に入れた国内でのスポーツ用義足の開発が勢いづいている。国産義足を使った日本人選手のメダル獲得。その熱量は、開催地が東京だけにかなり高まっているようだ。
もともと今仙技術研究所は、今仙電機製作所の医療器具部門として1971年に発足した。82年に株式会社となり、日常で使う電動車椅子や義足の研究開発・製造販売を行う総合福祉機器メーカーとして社内開発生産管理体制を培ってきた。電動車椅子では日本で一番長い歴史があり、日常用義足の性能にも定評がある。2000年代に入ると海外製品が席巻するスポーツ用義足にも果敢に挑み、結果も出してきた。
「しかし、一社だけでの開発には予算、時間に限界があります。それに日常用とスポーツ用では開発のベクトルがそもそも違うのです」と山田さん。日常用義足は見た目に違和感なく、日常の動作をひと通りできることが使用目的だが、スポーツ用には走る、跳ぶに特化した性能を導く形状が求められる。そこで共同開発を模索するべく声を掛けたのは、国産の大手総合スポーツメーカー、ミズノだ。
一企業を超えた連携体制で究極の製品を目指す
「岐阜にミズノテクニクスというミズノの製造子会社があって、14年夏に声を掛けさせていただいたのが始まりです」(山田さん)
スポーツ用義足の板バネ足部に使われるカーボンは、飛行機やヘリコプター、自動車などに使われるカーボン繊維強化プラスチック(CFRP)で、テクニクスはこの技術に秀でていた。同年秋には共同開発をスタートさせ、今仙技術研究所が07年に開発したスポーツ用義足「KATANA」をフルモデルチェンジして、16年10月に「KATANA‒β」を発表した。従来品は形状がJ型をしているのが、新作は波打つ独創的なデザインで一躍注目を集めた。
「目指したのは日本のパラアスリートに最適な義足です。海外選手よりも小柄な日本人選手は、義足の長さが取れない分、瞬発力や推進力をどうするかなど、さまざまな課題がありました。その一つの解答として生まれた形状です。走ると義足には体重の約3倍、跳べば5〜7倍の負荷がかかるといわれています。それに膝下からの下腿義足なのか、膝上からの大腿義足かで、同じ製品でも選手の評価が変わります。パラ陸上の多くのアスリートの協力を得て、動作解析していきました」
さらにスポーツ用義足づくりのパイオニアとして名の知られる臼井二美男さん(公益財団法人 鉄道弘済会の義肢装具サポートセンター義肢装具士)がアドバイザーに加わり、国立スポーツ科学センター(JISS)によるスポーツ科学に基づいたミズノとの共同研究も進められた。15年、16年の2年間で多くの知識と技術が集結し、スポーツ用義足の総合的な開発体制を整えていった。
トップアスリート仕様の技術を社会に還元する
「臼井さん率いる切断者スポーツクラブ、スタートラインTokyoには約170人がつながっていて、練習会には約100人もの人が全国から集まります。老若男女問わず走ることの楽しさを体験でき、パラアスリートも輩出しています。義足開発に向け、多角的に助言をいただけました。また、ミズノとの共同開発で、長年の経験だけではなく、動作や成形をデータ解析する技術を飛躍的に高める結果にもなっています」と山田さん。
スポーツ用義足の開発はお金と時間が莫大にかかる。それでいて需要は限られており、利益目的で続けられる事業ではない。だが、トップアスリート仕様の特殊なカーボン技術は、日常用義足の発展にも役立つ。それは世界最高峰の自動車レースF1の技術が、一般乗用車の技術向上に生かされているのと同様で、そこに今仙技術研究所の開発意義がある。
「わが社設立当時は、労働災害や交通事故により四肢の切断事故が多くありました。今は労働環境の改善、交通事故の減少、医療の進歩で切断せずとも救われる人が増える一方で、脳血管障害、脊髄損傷により不自由な生活を余儀なくされる方も増えています。だからこそ、柔軟で多角的にアプローチできる技術を身に付けたいのです。弊社の製品を愛用される方のニーズに細やかに応え、存続し続けることが、つくり手、使い手との信頼関係を築くと信じています」
年内にはスポーツ用義足の新作発表を予定しており、国内外の開発競争に旋風を巻き起こしそうだ。
会社データ
社名:株式会社今仙技術研究所(いませんぎじゅつけんきゅうしょ)
所在地:岐阜県各務原市テクノプラザ3-1-8
電話:058-379-2727
代表者:山田博 代表取締役社長
従業員:43人
HP:https://www.imasengiken.co.jp/
※月刊石垣2019年8月号に掲載された記事です。
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