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テーマ別企業事例 パラアスリートを支える“応援企業”が元気な理由がある

事例3 ひたむきに努力する姿が社員の士気を高める

大和産業(愛知県名古屋市)

ロードレースに出場したときの川本翔大選手の雄姿

1906年に砂糖やでんぷん、水あめなどを扱う卸売商として創業以来、食品原料の専門流通業者として全国に事業を拡大し、『ヤマトライス』のブランド名でも知られる大和産業。同社では4年前から、パラサイクリング・川本翔大選手を正社員として雇用し、彼の競技活動を支援している。目標に向かって練習に打ち込む彼の存在は、社員にとって大きなモチベーションとなっている。

新たな障がい者雇用の形としてパラスポーツに着目

名古屋市に本社を置く大和産業が、パラアスリートを社員として雇用することになったのは“巡り合わせ”だったという。

「当社では以前から障がい者を雇用していくにあたり、どんな形があるだろうかと考えていたんですが、ちょうどオリンピックが開催される年だったこともあり、何かスポーツをしている人はどうかな?と思い付いたんです」と同社社長の川上俊行さんは発端を説明する。

同社は早速、ハローワークにその意向を伝え、人材を探した。その結果、日本パラサイクリング連盟の監督を通じて、「ぜひ支援してほしい」と紹介されたのが、川本翔大さんだ。

「彼はそのとき、パラサイクリング競技でリオデジャネイロパラリンピックの出場を目指していました。でも、当社は単にスポーツをしている障がい者を雇用するくらいのつもりだったので、従来通りの面接を行い、素直で真面目そうな青年だということで、採用することに決めたんです」(川上さん)

2016年3月、そんな経緯で川本さんは入社し、総務部に配属された。当初は、仕事をしながら競技に出ることも考えたが、練習拠点が静岡の伊豆ベロドロームと遠方だったこともあり、競技に専念してもらうことにしたという。

安心できる“居場所”があってこそ力を発揮できる

川本さんは、パラサイクリングの「男子C2」の強化指定選手になっている。Cは切断、機能障がい、麻痺など四肢の障がいがある人の2輪自転車クラスで、障がいの度合いに応じて5段階に分かれている。C2は2番目に重いクラスだ。

川本さんは生後まもなく左脚に繊維肉腫が見つかり、切断を余儀なくされた。しかし、子どものころから動くことが大好きで、野球やサッカーを楽しみ、高校時代には本格的に障がい者野球に取り組んだ。卒業して地元広島の工場に就職後、障がい者野球の先輩から自転車競技を勧められたことが、パラサイクリングとの出会いだったという。川本さんは当時をこう振り返る。

「それまでママチャリにしか乗ったことがなかったんですが、試しにパラリンピックの選手発掘事業に応募したら、監督にスカウトされて合宿に参加することになったんです。それを機に工場を辞めて、静岡に引っ越しました」

もともと運動神経に恵まれており、バランス感覚も良かったことから、競技用自転車にはすぐに乗れたという。しかし、傾斜の強い競技用バンクを走るには、圧倒的に体力が不足していた。そこで合宿以外は自主トレーニングに明け暮れる日々を送っていた。

「ちょうどそんなタイミングで当社と川本君は出会い、入社に至ったわけです。これも何かの縁でしょう」と川上さんが言うと、川本さんはこう続けた。「実は、競技に集中するにも、収入もなく、所属もない状態だったので、不安がありました。そこへ『うちの会社に来ないか』と誘ってもらえてホッとしたし、うれしかったですね」

パラアスリートの存在が社員のモチベーションに

こうして“居場所”を得た川本さんは、期待に応えてその夏のリオパラリンピックの出場を果たし、見事8位に入賞した。

同社は、川本さんに毎月の給料のほか、連盟から支給されない部分を全てサポートしている。なかでも体が資本のアスリートにとって特に食事は重要な要素だが、同社は食品原料とともにコメメーカーでもあるため、玄米を中心にほかのパラサイクリング選手の分までまとめて静岡の合宿所に送っているという。そうした環境の下、入社当初は入賞を狙うレベルだった川本さんもメキメキと力を付け、ワールドカップや世界選手権などでメダルを狙う位置まで進化を遂げている。目下の目標は来年に迫る東京パラリンピックでメダルを獲得することだ。

川本さんの活躍は同社にどんな効果をもたらしているのか。

「一番大きいのは、川本君が常に目標に向かって努力する姿勢が、社員一人一人の励みになり、士気につながっていることではないでしょうか」

また、川本さんの存在が社員の精神的な支えになっている側面もあると川上さんは言う。仕事の現場では嫌なこともあるし、失敗してへこむこともある。しかし、障がいのある川本さんがハンデを言い訳にせず、ひたむきに練習に打ち込む姿に、「こんなことで落ち込んでいられない」と奮起を促すことにもつながっているようだ。

「今や東京パラリンピックは川本君だけの目標ではなく、社員全員の夢でもあります。もちろん出場が決まったら、皆で応援に駆け付けますよ。そして結果はどうであれ、彼には次を目指して頑張り続けてほしいし、当社も支援し続けます」

同社はパラアスリートの雇用を機に、さらなる社会貢献につなげていきたいと、川上さんは力強く語った。

《東京パラリンピック競技日程(予定)》 自転車競技(ロード) 2020/9/1〜9/4(競技会場:富士スピードウェイ) 自転車競技(トラック) 2020/8/26〜8/29(競技会場:伊豆ベロドローム)

会社データ

社名:大和産業株式会社(やまとさんぎょう)

所在地:愛知県名古屋市西区新道1-14-4

電話:052-571-1161

代表者:川上俊行 代表取締役社長

従業員:196人

HP:https://www.yamatosangyo.co.jp/

※月刊石垣2019年8月号に掲載された記事です。

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