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まちの視点 共に生き、働き、暮らす商店街

地域と商店街が連携した学びの場「岩村田寺子屋塾」

「正しい答えでなく、正しい問いが必要である」

経営学の巨人、ドラッカーが『創造する経営者』に記した一文は、正しい問題意識の設定こそ、解決に至る最も正しい道筋だと教えてくれている。

長野県佐久市、岩村田本町商店街振興組合のメンバーがつかんだ正しい問いとは、「商店街は誰のためにあるのか」というものだった。

大型店の出店ラッシュに危機感

かつては中山道の宿場町として栄えてきた岩村田宿。今は県道9号線となった中山道沿いにある岩村田本町商店街は、1960年代には鉄筋コンクリートの建物への建て替えが進み、長く地域商業の拠点としてにぎわってきた。しかし、長野オリンピック開催を機に進んだ大型店の出店ラッシュにより事態は一変、一時は42店舗のうち15店舗が空き店舗となる。 危機感を抱いて立ち上がったのが、現在では同商店街振興組合の理事長を務める阿部眞一さんをはじめとする若手メンバーだった。これまで商店街をけん引してきた親世代を説得、1996年、協同組合だった組織を振興組合に変えて再出発を切った。

人が集まり、店が廃れた事業

真っ先に取り組んだのが「日本一に挑戦シリーズ」と銘打った、にぎわい創出のためのイベントだ。製造機から搾り出される草餅を、商店街の通りいっぱいに並んだ人たちが次から次へと送り出し、2時間がかりで220メートルの草餅を作った。狙い通り大きな話題を呼び、その後も、「日本一すごいおいなりさん」「日本一長い百人一首の巻物」「日本一ながいのり巻き」など、次々と企画を打ち出していった。

だが、それにもかかわらず店主たちの顔はすぐれない。経費と体力は消耗しても、肝心の店の売上げは上がらなかったからだ。イベントが大々的であればあるだけ人手が借り出され、店はがら空きになる。ろくに接客もできず、「人が集まり、店が廃れる」(阿部さん)皮肉な状況が進行していた。

6年続いたイベントは挫折感とともに2005年に終了。「このとき私たちはようやく、『商店街は誰のためにあるのか』という問いを持つことができました」と、阿部理事長は当時を振り返る。

商店街は誰のためにあるのか

すぐさま月に一度、夜通し討議を続ける「0泊2日」の勉強会を1年半続け、問いに対する答えを探求。顧客アンケートを行い、有識者の意見を聞き、たどりついたのが「商店街は地域のお客さまのためにある」という商いの原理原則だった。そして、その視点から空き店舗対策に取り組み始める。

皮切りは、2002年にオープンにしたコミュニティスペース「中宿おいでなん処」。人が集う場として、集会、イベント、サークル、何でも自由に使うことができる。続いて、暮らしの食生活を支える惣菜店「本町おかず市場」を振興組合直営として開業。地域の雇用を生み出すばかりではなく、事業を継続する収益源として機能している。

起業者を誘致・育成する「本町手仕事村」では、新たな商業者を商店街に輩出。また、商店街の役割として子育て・教育支援を定義し、学習塾「岩村田寺子屋塾」、託児機能・子育てサロンの「岩村田子育てお助け村」、若い世代に商店街を身近に感じてもらうための「高校生チャレンジショップ」、地元の高校生が考案した米粉を使ったうどんをメニューとする「三月九日青春食堂」など、振興組合直営事業を推進している。

こうしたまちに求められる機能を振興組合自らが企画運営することで、来街者は最低だったころの3倍にまで回復、今も伸び続けている。空き店舗も67店舗中わずか2店舗までに減少した。

「商店街は地域のお客さまのためにあるという原理原則を貫いた成果です。そして、それには終わりはありません」(阿部理事長) 正しい問いが正しい答えを導き、正しい行動の道筋となる岩村田本町商店街での取材から学んだことである。

(笹井清範・『商業界』編集長)

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