毎年、東京の国立新美術館で開催される「日展」を楽しみに鑑賞しておられる方も多いと思いますが、その日展で、石川県が人口100万人当たりの入選者数80・2人で全国トップだということをご存じでしょうか。工芸部門はもちろんのこと、洋画、日本画、彫刻、書など質の高い作品が出品され、それを生み出す作家の層の厚さを誇っています。また、芸術院会員や人間国宝なども多く輩出しています。
「美術王国」「工芸王国」と形容される当地の文化土壌は、さかのぼれば、「加賀百万石」前田家の五代藩主綱紀公が茶の湯や工芸など芸術文化を推奨したことに始まります。今日でも、茶道をたしなむ人の割合や人口10万人当たりの生け花教室・茶道教室の数が全国トップなど、伝統文化に親しむ人の密度の濃さ、この土地が宿す文化とセンスの厚みが、裾野の広い「美」の王国を形作っていると自負しています。
コロナ禍の今春3月下旬、76回目を迎えた「現代美術展」が開催されました。昭和20(1945)年10月、戦火を逃れた金沢で、「文化日本の再建」を誓って開催された同展は、その後大きく成長し、作家の目標として、登竜門として、愛好家の春の大きな楽しみとして定着し、そのエネルギーが美術大学の設立や美術館の開館へとつながっていきました。
平成16(2004)年10月、世界各国からモダンアートの専門家を迎えて、金沢21世紀美術館がオープンしました。愛称‶まるびぃ〟と呼ばれる円形の建物と現代美術の作品群は、伝統文化の金沢にどうなのか? との声が聞こえましたが、今では日本に行ったら、金沢に来たら、必ず訪れる日本有数の美術館といわれています。当時の市長が「金沢は流行と不易が葛藤するまち」と表現しましたが、「街の風格と新鮮さが戦っているまち」ともいえ、幅広い芸術を受け入れる市民の感性を大切にしていきたいと思っています。
今年10月には、近代工芸の粋を収蔵する国立工芸館(東京国立近代美術館工芸館)がオープンします。国の地方創生の目玉施策で、日本海側で初となる国立美術館が金沢にやってくるのも、抜きん出た美術王国の磁力のお陰であり、開館が今から待ち遠しく思います。
今年2月、全国の商工会議所から大勢のご参加をいただき、また日商の三村会頭をお迎えし、観光振興大会を金沢で開催いたしました。「守るチカラ。創るチカラ。~伝統と革新~」……。今、「コロナ後」がいろいろ論じられていますが、これからも、「良き伝統を守り、新しきにチャレンジする」不易流行の精神をもって、地域の発展に務めてまいりたいと思います。
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