アジアの風〜ビジネスの先を読む〜 加速するキャッシュレス

アジアに広がるキャッシュレス自販機(バンコクのBTSの駅で)

新型コロナウイルスの感染予防で、紙幣や硬貨にできるだけ触れたくないという人が増え、先進国では最も遅れていた日本のキャッシュレス化がようやく加速してきた。NTTドコモの運営するキャッシュレス・アプリが銀行口座と不正にひも付けされ、多額の被害を出すなどキャッシュレスはセキュリティーの不安を完全には解消出来てはいないが、時代はキャッシュレス化に大きく動いている。

理由は二つある。第1は、紙幣を印刷、貨幣を鋳造し、運搬・保管・警備・回収するコストや現金取り扱いのための人的負担が大きく、日本の国際競争力を見えない形で弱めていること。現金を使うためだけに日本社会が負担しているコストは年間2兆円という試算もある。第2は、グローバルなキャッシュレス化の潮流に乗っていかなければ、日本社会が世界、とりわけアジアから孤立化しかねないことだ。

中国はいうまでもなく、キャッシュレス化で世界の先頭集団にあり、キャッシュレス社会であるがゆえの新しいビジネスの創出、起業のエネルギーがある。東南アジアではキャッシュレス化はそこまで進んでいないが、配車アプリが決済機能の力を高め、フードデリバリーやeコマースなどサービス範囲を拡充し、プラットフォーム化しつつある。注目すべきは、東南アジアの配車アプリ2強のグラブとゴジェックが合併交渉を進めているとの報道だ。過当競争回避もあろうが、真の目的はキャッシュレスの主導権を握るプラットフォーマーになることだろう。

中国、東南アジアでキャッシュレスのボーダーレス化、つまり通貨の両替の必要がなく、少額決済がどこでも誰にでも簡単にできるようになれば、キャッシュレス対応の遅れた国は旅行先としても、ビジネス拠点としても選ばれなくなるリスクがある。アフターコロナのインバウンドのカギの一端はキャッシュレス対応が握っている。単に土産物屋やコンビニでアリペイなどが使えるというだけでなく、タクシー、バス、電車などインフラ全体のキャッシュレス化が対人接触や密の回避には必要だ。

日本の地方では、地元の銀行・信用金庫などの支店・出張所の統廃合が加速、人口が数千人いても現金を取り扱う金融機関のない街が増えつつある。現金を預けたり、釣り銭を用意したりするためだけに車で20~30分走って隣町へ、というケースは珍しくない。キャッシュレス化は地方の問題とグローバル化の課題の両方を同時解決できるチャンスなのだ。

後藤 康浩(ごとう・やすひろ) 亜細亜大学 都市創造学部教授 早稲田大学政経学部卒、豪ボンド大学MBA取得。1984年日本経済新聞社入社、国際部、産業部のほかバーレーン、ロンドン、北京などに駐在。編集委員、論説委員、アジア部長などを歴任した。2016年4月から現職。アジアの産業、マクロ経済やモノづくり、エネルギー問題などが専門

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