アジアの風〜ビジネスの先を読む〜 フードデリバリーの急成長

アジアのレストランではデリバリー配達員の姿が目立つ(ホーチミン市で)

遠くなった「昭和」の時代、一般家庭で「店屋物」を取る機会は少なくなかった。そばや中華料理が多かったが、年に何回かは気張って、すしということもあった。だが、持ち帰り可能なマクドナルドやファミリーレストランなど外食産業が発展するとともに、料理を載せた台をスプリングでつってこぼれないように工夫した「店屋物」配達専用のバイクを見かける機会は減った。

だが、令和になって店屋物は「フードデリバリー」に名前を変え、宅配型外食産業として急拡大している。「Uber Eats(ウーバーイーツ)」や「出前館」などマルチ配送型から、ピザやすしなど専属配送型も需要が急拡大している。言うまでもなく、新型コロナウイルスの感染拡大で、人出の多い場所を避けるスタイルが広まったためだが、いったん宅配サービスを使ってみると、時間の節約や外出準備の手間が省けることが分かり、リピーターが増え続けている。

配達する側もバイク、自転車とスマホ、専用保温バッグさえあれば始められるため、人員を確保しやすい。

もちろん、同じことはアジア全域で起きている。中国には「美談点評」「餓了麼(ウーラマ)」という二大フードデリバリーがあり、東南アジアには「Grab」「GoJek」など配車アプリが展開するデリバリーに加え、もともとシンガポールでスタートし、現在はドイツ本拠の「Foodpanda」などが激しく競争している。Foodpandaは9月に日本でもサービスを開始した。

フードデリバリーは既存の飲食店にしてみれば、契約さえすれば、売り上げ維持につながり、新規顧客の獲得につながる面もある。ニューヨークなどはフードデリバリー専用で調理スペースしか持たない飲食業態である「ゴースト・キッチン」も登場している。都心の一等地でもキッチンスペースだけなら採算は取りやすい。場合によっては自宅マンションでもスタートできる。

一方、コンビニやスーパーの弁当やチルド食品にとっては競合となり、売り上げを侵食される。

フードデリバリーや最近、急成長するネットスーパー、宅配生鮮スーパーなどは顧客が店に出向くのではなく、モノが家に届くスタイル。店舗の存在感が薄まり、キッチンや倉庫などが単独で事業基盤になるという傾向がみえる。

人口が密で、食べ物の味へのこだわりが強いアジアではコロナ後もフードデリバリーが成長し、次の次元に入っていくだろう。

後藤 康浩(ごとう・やすひろ) 亜細亜大学 都市創造学部教授 早稲田大学政経学部卒、豪ボンド大学MBA取得。1984年日本経済新聞社入社、国際部、産業部のほかバーレーン、ロンドン、北京などに駐在。編集委員、論説委員、アジア部長などを歴任した。2016年4月から現職。アジアの産業、マクロ経済やモノづくり、エネルギー問題などが専門

次の記事

アジアの風〜ビジネスの先を読む〜 コロナ感染第3波

後藤康浩

新型コロナウイルスの感染は専門家の多くが予想した通り、北半球の冬場になって第3波が世界を襲っている。欧米の状況は深刻であり、アジアでも再燃...

前の記事

アジアの風〜ビジネスの先を読む〜 加速するキャッシュレス

後藤康浩

新型コロナウイルスの感染予防で、紙幣や硬貨にできるだけ触れたくないという人が増え、先進国では最も遅れていた日本のキャッシュレス化がようや...

関連記事

アジアの風〜ビジネスの先を読む〜 アジアの大食い礼賛文化の終わり 無料会員限定

後藤康浩

中国政府は、飲食店で大量に料理を注文し、食べ切れずに残したり、大食い競争の動画を配信したりする行為を禁止する「反食品浪費法」を施行した。...

アジアの風〜ビジネスの先を読む〜 環境ビジネス次のステージへ

後藤康浩

地球温暖化対策として世界的に「カーボン・ニュートラル」を目指す動きが加速しているが、今、世界はもう一つ深刻な環境問題に直面している。マイ...

アジアの風〜ビジネスの先を読む〜 揺れるアジアの繊維産業

後藤康浩

中国、バングラデシュ、ベトナムはじめアジア各国は世界の衣料品生産で圧倒的なシェアを占めている。2010年以降、人件費の上昇した中国から東南ア...