テーマ別企業事例 次を見据えて、しなやかにコロナ禍を乗り越える! 女性経営者の挑戦

事例4 有事にも負けない“絆”を強くし名酒を生み出す伝承の技をつなぐ

繊月酒造(熊本県人吉市)

創業118年の歴史を持つ球磨焼酎の老舗「繊月酒造」。2016年に四代目として社長に就任したのは、4人兄弟の長男でも長女でもなく、次女の堤純子さんだった。03年に入社し、常務、専務などの役職を経て、順風な滑り出しをしていた最中、新型コロナウイルス、7月の集中豪雨と矢継ぎ早に経営判断が迫られる局面に立たされた。

繊月酒造は初代から専属の杜氏がいるのが特徴。三代目杜氏は焼酎界初の「現代の名工」に選ばれ凄腕で、現在六代目が継承する

広告代理店勤務から家業へ 満を持して社長就任

「創業まで歴史を遡っても、こんな規模の水害はありません。工場は約1m、深いところで2m浸水しました」

代表取締役社長の堤純子さんは、7月の球磨川氾濫による水害について、工場を回りながら細やかに説明してくれた。だが、目の前に広がるのは整然とした工場で、水に浸かったとは思えない完全復活を果たしている。

繊月酒造は1903年10月に初代、堤治助さんが「堤治助商店」を開業し、大規模な焼酎づくりに乗り出した。二代目が販路を拡大して、全国に名が轟く焼酎メーカーへと発展。三代目の父・堤正博さんの代でさらに躍進し、「繊月」「川辺」をヒットさせて、創業100周年を機に代表銘柄となった「繊月」の名を取り、当時、「峰の霧酒造」だった社名を現在の名に変更した。

「私が入社した2003年が、ちょうど100周年を迎えた年でした。子どものころから兄が跡取りと聞かされていたので、私は神戸の大学で4年間英米文学を学び、福岡の広告代理店で働く、家業とは無縁の道を歩んでいました」

次女である堤さんが家業を意識するようになったのは、繊月酒造の福岡営業本部が1993年に開設されたころのこと。営業所のPRや広報活動を手伝い始め、「やりたいなら」と正博さんにさらりと入社を促されたのがきっかけだ。

「兄には兄の人生があり、本人も悩んだ末に別の職種で働くことを選びました。姉も結婚して専業主婦になっていて、妹はまだ大学生。私は焼酎が好きですし、お客さまが『おいしい』と喜んでくださることにやりがいを感じていました。3代続いた酒蔵を、第三者に任せるぐらいなら私がと、考えていくようになりました」

従業員や取引先からも常務、専務として結果を出していくうちに、「いずれは社長になる人」として認知されていく。そして10年が経ったある日、

「父に『そろそろ代わるか』と言われて、2カ月後には代替わりしました。父の時は会社の新年会で祖父から発表されて、従業員と一緒に驚きながら就任したそうです。そんな話を聞かされると、私はまだマシかもしれないですね」と屈託のない笑顔を浮かべた。

性別ではなく人格 経営者としての対応を意識

焼酎業界は、日本酒業界以上に活躍する女性の数が少なく、女性経営者は極めて稀(まれ)と堤さんは分析する。だが堤さんは〝女社長〟を過度にアピールすることはない。杜氏(とうじ)や顧問、研究員を交えて製造会議を2カ月に1回のペースで開いては〝蔵の味〟を真摯に追求し続ける。一方で、90以上あった銘柄のうち不採算銘柄を3、4年かけて整理し、40銘柄に絞るなど、経営は堅実路線を貫いている。

先代が培った人脈の引き継ぎもスムーズで、人吉商工会議所や観光協会に積極的に関わり、異業種との交流、とりわけ活躍する女性リーダーから刺激を受けることが多いという。女性だからと偏見や差別を受けたことはなく、経営者としての対応、姿勢を通じて性別を超えた信頼関係が築かれているようだ。毎年5月に主催している33年続く「繊月まつり」では売り上げを地元の学校などに寄付し、地元スポーツ団体にも数々協賛するなど、地域貢献、交流は堤さんの代でも変わらず活発だ。

そして、コロナ禍でも繊月酒造の姿勢にブレはない。地域の感染拡大防止のために、消毒液の品薄の状況を踏まえ、5月末には消毒用エタノールの代替品「SENGETSU SPIRITS 77%」を完成させる。

「製造現場からはアルコール濃度75度が限界という報告を受けましたが、手にしてくださる人のことを考えると、7が2つ並んだ方が断然効果があります。濃度を2度上げるのは至難の技なのですが、経営判断で押し切りました」と‶男気〟ある決断を下す。繊月酒造の技術を結集して不可能を可能にし、新たなデータの取得、スキルアップにつながり、現場サイドの士気も上がったという結果を導いた。熊本県に1000本、人吉市に300本を寄付し、学校や医療機関、飲食店に一定数届いた矢先、襲ってきたのが昨年7月の集中豪雨だ。

まちの復旧を第一に業務回復させ海外も見据える

「従業員は全員無事でしたが、工場はどこから手をつけたらいいか分からないほどの惨状でした」

さらに新型コロナウイルスの感染拡大を憂慮して県外ボランティアは市内に入れず、復旧は遅々として進まない。だが、繊月酒造には県内、市内から延べ200人を超えるボランティアが集結した。鉄橋が流され、復旧には4、5年かかるというくま川鉄道の社員も数多く駆けつけるなど、自身も被災しているにもかかわらず助けに来る人の多さからも、繊月酒造と地域との絆の深さを感じさせる。

「改めてつながりの大切さを痛感しました。今まで以上に地域に、従業員に恩返しをしていきたいと思います」と堤さんの思いも熱い。

だが、まち全体の復旧にはまだまだ時間を要する。地元の有力企業として先陣を切って水害支援に注力するとともに、コロナ禍で売り上げが伸びたネット販売に力を入れるなど業績回復も急務だ。10年単位の構想では海外開拓で日本文化としての焼酎の普及も考えており、百年を超える伝承の技を守りつつ、国内外へ活路を開く、しなやかな気概をにじませた。

会社データ

社名:繊月酒造株式会社(せんげつしゅぞう)

所在地:熊本県人吉市新町1

電話:0966-22-3207

HP:http://www.sengetsu.co.jp/

代表者:堤 純子

従業員:約40人

※月刊石垣2021年1月号に掲載された記事です。

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