事例2 コロナ禍で食用バラが売れない! ピンチで閃いた柔軟な発想力
ROSE LABO(埼玉県深谷市)
埼玉県北部の深谷市で農薬不使用の「食べられるバラ」を栽培しているROSE LABOは、バラを素材にした化粧品や食品を自社で商品開発・加工販売まで一貫して行っている。社長の田中綾華さんは、大学を中退して食用バラ栽培の修業を始め、バラが持つ美容や健康への効果を広めるために起業し、売り上げを伸ばしている。このコロナ禍では、商品のキャンセルが続く中、その逆境にめげずに開発した新商品が好評を得ている。
大学を中退してバラづくり 商品開発も自分たちで行う
「バラは子どものころから大好きでした。自分でバラを育てたいと思うようになったのは、大学1年生のときに母から『食べられるバラがあるんだって』と聞いたことから。でも、最初はこれをビジネスにしようなどとは考えていませんでした」と、ROSE LABO社長の田中綾華さんは言う。同社は創業から5年が経ち、売り上げを毎年順調に伸ばしている。
田中さんのバラ好きは、経営者の大先輩でもある曽祖母の影響があった。曽祖母は夫を早くに亡くし、独りで7人の子どもを育てながら、靴やカバンの製造・卸を行う会社を営んでいた。その曽祖母の好きな花がバラだったのだ。そのため、家庭の中でバラが話題になることもしばしばだった。
田中さんは20歳で一念発起して大学の中退を決めると、大阪の食用バラ農家で2年間、バラ栽培の修業をした。2015年9月に創業し、深谷の農場でバラの栽培を始めた。弱冠22歳のときだった。
「最初は農薬不使用でつくったバラを、飲食店に食用として販売するビジネスモデルでした。しかし、農業では規格外やキズなどで作物のロスがどうしても出てしまう。それではせっかく育ったバラに対して申し訳ないという思いがあり、全てのバラを活用するために、加工食品や化粧品を自分たちで開発して販売するようになりました」
創業1年目は、栽培したバラが一輪も咲かないというトラブルにも見舞われたが、めげる間もなく農業経営スクールに通って農業を基礎から理論的に学んだ。すると、約1000坪の農園で年間27万輪のバラを収穫するようになり、創業2年目には年商が3千万円、3年目には1億円に達した。特に化粧品関連はリピート客が多く、年商は右肩上がりとなっている。
‶若い〟女性と軽視されたが努力でそれを乗り越える
創業6年目の田中さんが、女性経営者として苦労した点は何か。
「女性だからという単体の理由ではなく、そこに‶若い〟が合体することで、嫌なことはたくさんありました。女性で若いとなめられがちで、最初のころは私一人で飛び込み営業や、電話でアポを取って会いに行ったりしていたのですが、いざ会ってみると、こんなに若い人じゃ信用できないから帰ってと言われたりもしました」
そこで田中さんは、自分が何歳であっても性別が何であっても、ビジネスで通用するようにと立ち振る舞いを身に付けるために、言葉遣いや話し方のマナーを学び、営業で説得力のあるプレゼンや商談ができるように、母親や知人を相手に練習を重ねていった。
逆に社内では、従業員のほとんどが女性のため、社長の自分が女性であることで、女性従業員の気持ちや体の健康に配慮した社内制度を整えることができたという。
「あとは、女性のお客さまが多いので、お客さまに近い感覚で商品開発ができていると思います。女性経営者に必要なのは、論理的に考える能力だと思います。経営は感性だけでできるものではないので、しっかり数字と向き合い、いろいろな仮説を立てたりする論理的思考は必要です。私自身、会社を始めたころは、そういった部分が足りていませんでした。それ以外で私が気を付けているのは、常に自分が明るいムードメーカーでいることです。経営者である以上、社内に大きな影響力があるので、私が笑えば社内がハッピーな空気になって、社員たちも明るい気持ちで働けますから」
キャンセルされたバラで新たなヒット商品を開発
順調に業績を伸ばしていたROSE LABOだったが、コロナ禍ではやはり大きな影響を受けた。飲食店の営業自粛で食用バラの注文がすべてキャンセルされてしまい、百貨店などに卸していた商品も返品が相次いだのだ。売り上げは約7割減で赤字が確実な状況で、キャンセルされたバラを保管する場所もなかった。
「余ったバラをどうにかしたいと思い、助成金を申請するために深谷市役所に行ったら、申請する人たちが大勢いて、怒鳴り声を上げたりして、みんなピリピリしていました。そんな中、市役所の人たちは感染対策を取りながら一生懸命に対応している。その姿を見て、そういう人たちのためになる商品をつくろうと思いました。そこで思いついたのが、バラを使った消毒スプレーで、マスクに吹き付けられて手指にも使え、バラの香りでリラックスしてもらえたらと」
田中さんはすぐ開発に取り掛かり、香料とアルコールの配合に試行錯誤しながら、敏感肌の人でも使いやすい天然由来成分100%のアロマハンド&マスクスプレー「ローズバリアスプレー」を完成させ、7月に発売した。
「これは市役所の人を見て思い付いた商品なので、商品ができてすぐ、職員の方々に使っていただくために深谷市役所に1000本寄付しました。売り上げも予想より良く、1週間に1000本以上売れていて、落ちた収入を支えてもらっています。今後は家の中で楽しめるバラのグッズの開発を進めていく予定で、ネット通販も強化していきます」
もしかしたら捨ててしまっていたかもしれないバラを新たな商品に生まれ変わらせる。女性経営者ならでは発想の柔軟さを生かして、田中さんはROSE LABOをさらに花開かせていくことだろう。
会社データ
社名:ROSE LABO株式会社(ろーずらぼ)
所在地:埼玉県深谷市
電話:03-6277-8755(東京事業所)
代表者:田中 綾華 代表取締役
従業員:13人(パート含む)
※月刊石垣2021年1月号に掲載された記事です。
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