先月、待ちに待った米製薬大手のファイザー社の40万回分のワクチンが日本に到着した。まず医療従事者から始まり、次に高齢者に接種される予定である。通常、ワクチンの開発に、例えば、水ぼうそうに28年、BCGに13年かかるなど、10年以上必要としていた。また、インフルエンザの伝統的な不活化ワクチンの製造には受精卵を使うなど、大量生産にも制約があった。
▼今回の新型コロナウイルスの遺伝子を使ったメッセンジャーRNAワクチン(mRNA)の場合は信じられないくらい迅速に設計・製造が行われた。例えば、米モデルナ社のmRNAの場合、昨年1月13日に新型コロナウイルスの遺伝子の配列が公開されたその2日後にmRNAの設計図が決定され、44日後には治験用ワクチンが出荷された。また、大量生産も容易だ。
▼mRNAは接種後、ヒトの体内で遺伝子が働き、新型コロナウイルスのスパイクがつくられる。すると、ヒトの免疫反応が作動してこのスパイクに対する抗体ができる。その結果、新型コロナウイルスが体内に侵入して来た時にこの抗体がウイルスをやっつける。
▼このタイプのワクチンが実用化されたことは過去一度もない。しかし、幸いなことに欧米の接種結果からは重篤な副反応の発生件数は極めて限定的だ。なお、このワクチンは感染を予防するのではなく、感染した後の発症や重症化を緩和するものである。
▼コロナウイルスのうちSARSは3カ月で消えたが、MERSはまだこの世に存在する。新型コロナウイルスも今後頻繁に変異を繰り返していくが、ファイザー社は6週間もあればその変異に対応したワクチンをつくれるとしている。このmRNAに大いに期待したい。
(政治経済社会研究所代表・中山文麿)
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