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テーマ別企業事例 地域の伝統産業を守り抜く! コロナに負けない若い〝跡継ぎ〟

事例3 後継ぎ社長がコロナ禍の逆境をバネに若手育成や多能工化に取り組む

徳永 憲司さん◆シンヤ工業所(兵庫県たつの市)

兵庫県たつの市は、400年以上の歴史ある日本屈指の皮革産地だ。なめし革を生産するタンナーが数多く集積し、工場ごとに独自の技術を磨いてきた。1887年創業のシンヤ工業所は老舗タンナーの一つ。実績に甘んじることなく、生産性や品質の向上を実直に進めているが、その中心に四代目の徳永憲司さんの姿があった。

染色し加脂した革は、余分な水分を絞ってから乾燥させる。乾燥方法はさまざまで、工場内に大量に干された革は圧巻だ

低迷する業界と知りつつ家業を継ぐと決意する

しょうゆの醸造や手延素麺(そうめん)と並んで、皮革産業は兵庫県たつの市の三大地場産業に数えられる。その歴史は鎌倉時代までさかのぼり、江戸時代後期には革なめしの生産地として知名度を上げ、日本の皮革産業をけん引し続けてきた。だが、2005年に旧龍野市と揖保(いぼ)郡新宮町、揖保川町と御津町が合併してたつの市になったものの、人口は約7万5400人(21年2月末現在)と、過疎化は加速するばかり。どの地場産業も存続の危機に直面している。

「特に皮革産業は、製造業の中でも機械に任せられない工程が多く、おまけに重労働。一人前になるにも時間がかかり、なかなかなり手を見つけるのは大変です」

そう語るのはシンヤ工業所常務取締役の徳永憲司さんだ。長男であることから、いずれは継ぐことになると幼少時から漠然と考えていたというが、東京の大学を卒業後、家業とは違う業種で働きたいという思いから、一度、外資系の自動車部品メーカーに就職している。

「社員2万人中日本人はわずか13人という職場環境で激務をこなす毎日にやりがいを感じていましたが、おやじから『戻ってこい』と言われて決心しました」と苦笑する。

シンヤ工業所は問屋業を中心に創業。その後、衣料革や靴用革の製造をはじめ、かばんやベルト、バッグや家具用革など多種希少な「皮を革」にする素材メーカーとして発展してきた。

「革素材は商流でいうと川上産業で、主に靴やバッグなどのメーカーに納めています。ここ20〜30年前から中国などの海外から安価な革素材、革製品が国内に入ってきて、われわれタンナーだけではなく、その先のメーカー、小売業など業界全体で非常に厳しい状況です」

そして、業界の低迷を感じながらも家業を継いだ徳永さんに、前途多難を予感させたのが、2008年のリーマンショックだ。

製造のムリ、ムラ、ムダを省いて効率化を図る

「川中、川下産業が振るわないと、連鎖的に悪くなります。タンナーは1社だけでは成り立たず、多くの企業、お客さまによって成立していることを痛感させられました。製造業の減少や職人不足であることに加えて、国内の景気や世界情勢にも翻弄(ほんろう)されやすい業界であることが分かってきました」と徳永さん。そこで生き残りをかけて打った手が、自社の強みの洗い出しとブラッシュアップだ。

シンヤ工業所は、他のタンナーが匙(さじ)を投げるようなメーカーからの要望にも柔軟に対応する技術を誇り、中でも「色合わせ」が卓越している。加えて短期納品、即時対応できるように製造の要所要所で在庫を持ち、低コストの短納期に尽力してきた。特に色合わせは季節や天候、照明や見る角度によって色目が変わることからトラブルやクレームが起こりやすい。万が一、ここで色修正が入ると、その皮革製品単体では赤字にさえなってしまうことから、色合わせをデータ化して、品質のムラが出ないように工夫した。

「職人の経験と勘がものをいう工程ですが、データ化すれば誰でもできるようになります。同時に色合わせ職人の育成に注力して、現在は必ず3、4人で現物確認をしてから出荷するようにしています。工場内のムリ、ムラ、ムダを省くことに徹していきました」

これが功を奏して、修正や返品が減少。その分コストも抑えて納品でき、難しい案件をこなすほどにスキルが上がってリピーター増という好循環を生み出している。

タンナーのやりがいと楽しさを想起させる

さらに11年の東日本大震災、20年の新型コロナウイルスの感染拡大と災禍続きだが、状況に応じて週休3日や就業時間の短縮などの苦渋の選択を決行。業界の動向をつぶさにチェックし、売り上げをあえてセーブするなど経営の舵(かじ)取りを細やかに行ってきた。

「若手育成には力を入れています。コロナ禍前は月1〜2回あった出張時に若手従業員も同行させ、自分たちが手掛けた皮革が、商品化して店頭に並んでいる様子を見せるようにしていました。これが刺激になって意識がだいぶ変わります。完成した商品をイメージして、革素材を提案するという新たな発想も生まれてきました」

また、地元の県立龍野北高校で毎年11月に開催されている「皮革まつり」にも協力するなど、地場産業の活性化にも努めている。

「コロナ禍で業績は悪化し、状況は一変しましたが、今までできなかった職人の多能工化や社内教育、工場内の整理整頓などを進め、小回りの利く体制強化を図っています。それにアベノミクス効果で円安となってから、日本製の革素材を求める海外企業も現れて、海外の販路開拓も進めています」

コロナ禍が落ち着いても先行きは不透明だが、それでもできることはあると前向きだ。

「伝統産業を守るためにも、同業者と情報共有を行い、メーカーとも協力して積極的なブランディングを展開していきたいですね」

技術力、体制、戦略に磨きをかけ、ピンチをチャンスに変える準備を着々と進めている。

会社データ

社名:シンヤ工業所(しんやこうぎょうしょ)

所在地:兵庫県たつの市揖保町門前369-1

電話:0791-67-0101(平日8〜17時)

HP:https://www.kawa-sozai.com/index.shtml

代表者:徳永耕造 代表取締役社長

従業員:約40人(パート含む)

※月刊石垣2021年5月号に掲載された記事です。

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