事例4 活版印刷で“情報から情緒”を伝える紙製品づくりに挑戦
高山 英一郎さん◆高山活版社(大分県大分市)
高山活版社は、大分県内でも古い歴史を持つ印刷会社である。長年、印刷の主流となったオフセット印刷をメインに扱ってきたが、デジタルにはない〝印刷物や紙の持つ力〟に着目した六代目である社長が、活版印刷機を導入。新旧の印刷機を共存させながら、情報のみならず情緒を伝える紙製品づくりに力を注いでいる。
一本の電話がヒントに 社名のおかげで活路見いだす
印刷には主に四つの種類がある。版の凸部にインキをつけて転写する「活版印刷」、平らな版に水性と油性のインキを与えながら印刷する「オフセット印刷」、版の凹部にインキをつけて印刷する「グラビア印刷」、画線部の小穴からインキを押し出しながら印刷する「スクリーン印刷」だ。近年では、版を使わずパソコンからデータをプリンターに送って印刷する「オンデマンド印刷」も増えている。
高山活版社は1910年に創業し、近年ではオフセットとオンデマンドを中心に、伝票・封筒・名刺などの文具や、婚礼関係の印刷物などを請け負ってきた。同社が変わり始めたのは、高山英一郎さんが六代目として同社社長に就いた2014年ごろからだ。
「私が入社した02年ごろ、インターネットの普及に伴い業績が下降線をたどっていました。先代の父が婚礼関係の大口受注を得て業績が持ち直したのを見てきて、自分の代でも売り上げを伸ばしていくには、何をすればいいのかと模索していました」と振り返る。
ヒントを与えてくれたのは、「おたく、活版印刷できますよね?」という電話だ。「活版社」の社名を頼って問い合わせてきたという。
「当時すでに機械もなく、『今はもうやっていません』と断っていたんです。でも、問い合わせが相次いだので興味を持ちました」
外部デザイナーとコラボ オリジナル商品を制作
調べてみると、10年ごろからニューヨークで活版印刷がブームになっていることが分かった。フルカラーが当たり前の時代に、あえて手動の活版印刷機を使い、不意に生じるへこみやかすれがむしろ新鮮だと見直されていた。高山さんは意を決して機械を買い戻し、活版印刷を復活させると、早速、名刺や社用年賀状をつくってみた。紙質とデザインとが相まって独特の味わいに仕上がり、評判が広がって徐々に小口の注文が入るようになる。
そこで外部のデザイナーとコラボして、15年に自社ブランド「TAKAYAMA LETTERPRESS」を立ち上げ、オリジナル商品の制作に乗り出した。
「デザイナーがデザインしたレターセットやポストカードをはじめ、当社が扱ってきた伝票や領収書なども活版で刷ってみました。どれも今どき見たことのない出来栄えで、こういうものが好きな人に買ってほしいと、こだわりのあるセレクト雑貨店に置いてもらいました」
また同じころ、文具以外に「あったか銀紙」を開発した。知り合いの依頼にヒントを得てつくったもので、災害時を生き抜くために役立つ情報を全面に印刷した防寒用アルミシートだ。
「ただ、販路の見当がつかなかったので、県主催のスタートアップ講座を受講して、展示会に出展しました。予想以上に反響があり、自社オンラインサイトで販売を始め、その後、道の駅に置いてもらえることになりました。それが新聞やテレビなどに取り上げられたのを機に、東急ハンズでも扱ってもらえることになって、全国展開の道が開けました」
こうして世に出した一連のオリジナル商品が大手化粧品メーカーのデザイナー・小林一毅氏の目に留まり、より大きな仕事の依頼が来るようになった。
経営理念を言語化 再確認した自社の強み
その後、小林氏のデザインによるオリジナル文具「Playful」シリーズを発売する。そのコンセプトや商品を題材にしたトークイベントを開催するなど、印刷の可能性を広げる活動も展開し、確かな手応えを感じていた。その矢先、襲ってきたのが新型コロナウイルス感染症だ。
「主要取引先の受注がパタッと止まりました。こんなときよりどころとなるのは何か、改めて経営理念の重要性に行き着きました。時間はたっぷりあるし、この機会に社員全員で経営理念を見直して、言語化することにしました」
同社は大分県内でも古い歴史を持ち、地域に根差して文具をつくってきた。主流のオフセットやオンデマンド機だけでなく、3台の活版印刷機を備えて自社ブランドやオリジナル商品の開発にも力を入れている。そんな〝古くて新しい〟ところが最大の強みだと再確認し、事業構造も変更した。
「商品をつくっても『これは何のためにあるのか』という軸がないと売れませんし、経営にも軸がないと先に進めません。昨年はそれに気付いた1年でした。今後も強みを生かして、今までにないものを生み出していきたい」
新商品がたとえ売れなくても、「高山活版社はこんなことができる会社」だと知ってもらうツールになると高山さんは言う。その考えの下、新たに白いノートを制作した。11種類の紙を使い、それぞれに違う風合いと書き心地が味わえる逸品だ。
「当社は今まで情報を伝えるための紙製品をつくってきました。活版印刷が復活したことで、今後は情報プラス思いを伝えるための製品をつくりたい。『情報から情緒へ』をコンセプトに、当社だからできることを追求していくつもりです」と晴れやかに展望を語った。
会社データ
社名:株式会社高山活版社(たかやまかっぱんしゃ)
所在地:大分県大分市片島字尻込301-1
電話:097-568-8227
HP:http://takayama-print.main.jp/
代表者:高山英一郎 代表取締役社長
従業員:13人
※月刊石垣2021年5月号に掲載された記事です。
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