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テーマ別企業事例 地域の伝統産業を守り抜く! コロナに負けない若い〝跡継ぎ〟

事例2 伝統的な輪島塗を日常に広めていく漆器のある暮らしを総合プロデュース

田谷 昂大さん◆田谷漆器店(石川県輪島市)

創業200年超の田谷漆器店の長男、田谷昂大(たかひろ)さんは、一度は地元を離れたものの、輪島塗の魅力、可能性に気付いて十代目になることを決意した。輪島塗を対個人から法人販売へシフトして業績を伸ばし、現在、海外販売や漆器レンタルサービス、レストランの開設など業界に新風を巻き起こす漆器プロデューサーとして奔走している。

伝統的な輪島塗からモダンなデザインまで手掛け、ユーザーも商品も幅広い田谷漆器店。「特化しないことがうちの強み」と田谷さんは語る

故郷を離れて見えてきた輪島塗、家業の魅力

古くは縄文時代の装飾品に使われていたという漆。時代とともに技術が磨かれ、明治以降は「ジャパン」の名で欧米でもてはやされるほど、日本を代表する工芸品として世界からも評価されてきた。

だが、田谷漆器店の十代目、輪島塗の企画から販売までを手掛ける田谷昂大さんからは、驚きの事実が語られた。

「輪島塗の生産地でも、ほとんどの家で漆器は使われていません」

1991年、輪島塗の生産額のピーク時に生まれた田谷さんは、子どものときから食卓に漆器があるのが当たり前、漆器の話も日常会話として飛び交う中で育った。だが、輪島市の一般家庭ではすでに漆器離れが進んでいたというのだ。田谷さん自身も家業を継げと言われたことも継ごうと考えたこともなく、医者になろうと東京の大学進学を希望していたという。

「一度は医学の道を目指しましたが、自分で商売をしたいと経済学部に入りました。とにかく上京したくて、地元にも輪島塗にも全く興味がありませんでした」と笑う。

そんな田谷さんの転機はまさにこの「上京」にある。一人暮らし用に量販店の廉価な漆器を買ったところ、漆器であって漆器でない。汁ものを入れても冷めにくい保温性や口当たりの滑らかさなど、輪島塗なら〝当たり前〟のものがなかった。今まで使っていたものがいかに高品質だったかに気付かされた。さらに東京での展示会の手伝いに駆り出されて、胸を張って魅力を紹介できる商品、それを喜んで買ってくださるお客さまの笑顔に触れ、漆器、そして家業の魅力を再発見することになる。下り坂であることは覚悟の上で、田谷さんは24歳にして漆器業界に飛び込んだ。

売り先、売り方、売るものを変えて技術力を伝える

家業に入った田谷さんは、今まで通りの百貨店の展示会や外商として回る個人宅の対面販売だけでは、業績は伸びないと早々に判断する。異業種交流会や商談会、ビジネスマッチングに積極的に足を運んで販路拡大を試みた。輪島商工会議所の先代会頭と輪島塗を海外に広めようとシンガポールに出張するなど、海外展開も視野に入れ、実際、中国企業との初取引で300万円分の器の販売に成功する。

「国内外の企業とのODM、OEM生産の受注にシフトして、この5年で売り上げの6割を法人部門が占めるまでになりました」

失敗をバネにもしてきた。「欧米に漆器を持って行ったら売れる」と多くのお客さまに背中を押されて試したものの、泣かず飛ばず。そこで漆器ではなく現地で使われているものに漆を施し、「モノ」ではなく「技術」を売って好転させる。

「輪島塗は耐久性、耐水性、防腐性に優れていて経年劣化ではなく経年美化します。木以外にも対応する塗料としても世界トップクラスと自負しています。まずは無料サンプルを提供して一度試してもらう。それを地道に繰り返して取引先を増やしていきました」

レストランを開設し多角的に漆器を広める

試供品戦略は、器も同様だ。経営を圧迫していた在庫を活用するべくレンタルサービスを始めた。

「輪島塗は124工程あるうちの8、9割が下地に費やされます。良質な下地だからこそ、修復は一番外側の1層をやり直せば済みます。リメークしやすく、コストも抑えられる。輪島塗10点セット1万円で1カ月間レンタルできるようにしたところ、購入を迷っている人や企業に響きました。飲食店、特に料亭のニーズをつかめました」

これを田谷さんはサブスクリプション(一定期間の利用権を定期的に支払う方式)で展開し、個人向け、飲食店向け、アクセサリーの3コースを用意。イベントやお祝い事の1回限りの単発サービスも設け、「使ってみたい」という思いにグッと歩み寄った。このサービスの利用者は法人が全体の7割を占めるが、コロナ禍でおうち時間が増えたことや、SDGs(持続可能な開発目標)に通じる取り組みとしてメディアに注目されたことを追い風に、DMやSNSを駆使して個人客も取り込んでいった。

さらにクラウドファンディングサービスも活用している。漆職人が使うヘラをアレンジした料理ベラを売り出すと、わずか1カ月間で販売総額640万円、購入者は2000人と予想を上回る成果を弾き出した。

「米国、台湾、中国の順に海外からも注目してもらえました。レンタルサービスやクラウドファンディングの収益はまだまだですが、輪島塗のファンを増やすための未来への投資と考えると効果は大きいです」と目を輝かせる。

昨年7月には友人3人と別会社を立ち上げ、今年6月に金沢に伝統工芸品を楽しめるレストランをオープンさせる予定だ。

「金沢に店を出すのも、まずは石川県の人に来てもらいたいからです。伝統技術の素晴らしさ、輪島塗の魅力を地元の人が知らなければ文化も職人も育ちませんから」

かつて輪島塗は北前船によって一気に全国区になったが、その立役者に塗師屋(ぬしや)という総合プロデューサーの存在があった。輪島塗に新風を巻き起こす令和の塗師屋もまた、頭角を現しつつある。

会社データ

社名:田谷漆器店(たやしっきてん)

所在地:石川県輪島市杉平町蝦夷穴55-6

電話:0768-22-0961

HP:https://www.wajimanuri.co.jp/

代表者:田谷昭宏 代表取締役

従業員:7人

※月刊石垣2021年5月号に掲載された記事です。

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