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アジアの風〜ビジネスの先を読む〜 痛ましい在留邦人のコロナ感染死

在留邦人数(推計)上位10カ国 出典:外務省「海外在留邦人数調査統計」を基に筆者が加工

コロナ感染はデルタ株など変異種の出現など新たな事態を受け、日本では第5波に突入した。ただ、日本や先進国ではワクチン接種が進み、トンネルの先に明るさも見えつつある。その一方で、途上国では感染が拡大、医療崩壊に至り、急激に感染死が増えている国も多い。企業や国際機関の駐在、教育や現地支援などの目的で現地に駐在する日本人は危機に直面している。その中で、感染が6月以降、一気に悪化したインドネシアで企業駐在員など邦人14人(7月15日時点)が亡くなったニュースは詳細は明らかにされていないが、企業社会に衝撃を与えている。

日本企業のアジア駐在では、感染症、治安悪化などの状況で①駐在員家族②若手社員③幹部社員といった優先順位で帰国指示が出るのが一般的だ。現地法人のトップは最後まで残るのが暗黙の了解となっている。現地法人の運営上「日本人が一人は残らなければ」という意識は中小、大手にかかわらずある。工場であれば、生産継続のためには誰か、監督者が必要だ。

今回のインドネシアの邦人のケースでもそうした状況が起きていた可能性は高い。会社のプレッシャーではなく、本人の責任感、使命感で残った人が多いと想像できるだけに心が痛む。こうした悲劇を避けるにはどうすべきなのか。

「空振りを恐れず、避難してください!」。最近、頻発する異常な豪雨による洪水、土砂崩れへの対策として、気象庁が発信している表現だ。大げさな行動を嫌い、我慢する気質の強い日本人は逃げ遅れるリスクが高いため、「逃げることを躊躇(ちゅうちょ)するな」と官が発信することには大きな意味がある。

インドネシアの邦人犠牲者も責任感の一方で、酸素ボンベすら入手できない現地の医療状況を見れば恐怖心があったはずだ。自ら言い出しにくい避難を日本の本社または官が強く指示すれば、早めの退避ができたかもしれない。海外に住む日本人は昨年10月1日時点で135万7724人。コロナ禍で帰国した人が多そうに見えて、前年比でわずか3・7%減にすぎない。アジアではマレーシア、タイなど逆に増加した国すらある。

筆者は中東、欧州、中国と海外駐在を経験したが、いずれの地域でも現地のリスクが高まった時の米国の政府や企業の早めで、明確な避難指示、迅速な避難ルートの設営には驚かされた。海外暮らしのベテランからは「米国の大使館関係者の動きをよく見ておけ」との助言を繰り返し受けたものだ。逃げるは「恥」ではなく、「命を守る勇気」と心掛けたい。

後藤 康浩(ごとう・やすひろ) 亜細亜大学 都市創造学部教授 早稲田大学政経学部卒、豪ボンド大学MBA取得。1984年日本経済新聞社入社、国際部、産業部のほかバーレーン、ロンドン、北京などに駐在。編集委員、論説委員、アジア部長などを歴任した。2016年4月から現職。アジアの産業、マクロ経済やモノづくり、エネルギー問題などが専門

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